待ち遠しく思う気持ち
十二月の二十四日、今夜はXmas Eveということ。
オチャコは、いつもより早く目が醒めました。気持ちが落ち着かず、そわそわ過ごしています。お父さんとお母さんとオチャコの三人、いわゆる「水入らず」で鴨しゃぶ鍋パーティーを計画しているのだから、胸ドキの状態になるのも無理はありません。
午前十一時半、リビングのソファーにいるオチャコが、壁の時計を見つめながら指を折り曲げて、パーティーを始める午後七時半までの残り時間を数えます。
「あと八時間だわ。はあ~」
近くにいたお母さんが、オチャコに声を掛けます。
「中学生だから、暗算できなきゃね」
「やる気になればできるわよ。でもね、わざわざ指を使ってゆっくり数えるのは、それなりに理由があるのよ。だって、パーティーを待ち遠しく思う気持ちを紛らすことができるもの」
「数学の復習か予習でもしていればいいのよ。そうすれば八時間くらい、あっという間に過ぎちゃうでしょ?」
「うっ……」
オチャコは言葉に詰まり、「四分の一の二時間だとしても、数学なんて、あたしには耐えられないわ」と思うけれど、口には出さず、別の口答えを考えます。
「それだとダメなの」
「あら、どうしてかしら?」
不思議そうな表情を隠し切れないお母さんを前にして、勉強で時間を潰すことがダメな理由を話します。つまり、本当に「光陰矢のごとし」のように時間が早く過ぎると、パーティーを待ち望む楽しみが減るからというのが、オチャコの思うところなのです。
この説明を聞いても、お母さんは納得できず、ソファーから遠ざかります。
「そろそろ、お昼の仕度を始めないといけないわねえ」
突如、電話が鳴り始めたので、オチャコが身体をビクリと震わせます。
お母さんが受話器を耳に当てて、しばらくの間、ひそひそ話していました。
その通話が終わると、オチャコが尋ねます。
「誰から?」
お母さんは、深刻そうな表情で答えます。
「埼玉のチャバタおばさんよ」
「ああ、パン作りが大好きで、一日にパンばかり六回も食べる人ね」
「そうよ」
「なんのお話だったの?」
「牛おじさんが倒れて、救急車で運ばれたそうよ」
「ええーっ、それは大変だわ!!」
牛おじさんというのは、お母さんの弟さんです。黒毛和牛を育てる職業に就いていて、オチャコの叔父に当たります。四十代になったばかりの若々しいイケメンなので、お兄さんのような存在です。
牛を見せてくれて、牛について色々と教えてくれたり、仔牛の写真を送ってくれたり、一緒に甘味処へ出掛けて餡蜜を食べさせてくれたりもしました。