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その夜。
明かりを消して本格的な眠りの体勢に入っていたロイスは、不意に誰かが来た事を悟り、目を開けた。
扉をノックされたためだ。
ロイスは、ノック以降何の呼び掛けも無いことに疑問を抱きながらも、そっと扉を開けた。
そこに立っていたのは、暗がりでも燃えるように真紅の髪をした男だった。
「ちょっと、中いいかよ」
ロイスが答える前に、ヴェンは足を踏み入れていた。
「な、何だよ」
困惑気味のロイスをよそに、ヴェンは躊躇い無くベッドに腰を下ろす。
「さっきの話の続き、まだ言ってなかったろ?」
ヴェンの言葉で、ロイスはああ、と思い出した。
訓練所を出た際に、言いそびれた話のことを言っているのだ、多分。
「えーと、確かお前の別荘がどうのって……」
年下のロイスに「お前」よばわりされても、ヴェンは怒った様子も無かった。
いや、他の何の面識も無い年下に対してなら、また態度は変わっていたかもしれない。
ロイスとはヴェンはここ何年かの間、ラージがこの町を訪れる度に会っている。
似た境遇というのも手伝ったのだろうが、特別仲が良かったわけだ。
そのためかヴェンはロイスには、呼び捨てで呼んでも良い、と言っているのである。
「いや、実は別荘は関係ねぇんだ。ほら、あれのもうちょい奥に、今使われてない家……在るだろ?」
マグレブの住民であるロイスは勿論知っている。
周囲の建物と比べ、一層大きなその建物には昔から誰も住んでいない。
大きさだけなら恐らくロイスの家より上の筈だ。
幼い頃一度入ろうとして、街の人に危ないから、と怒られたことを覚えている。
「でも、あの家って確か立ち入り禁止だったよな」
町の人が言うには、家自体が崩れやすくなっているからだそうだ。
その割には未だに取り壊す気配も無いし、かと言って再建築するような様子も無い。
奇妙な家ではあった。
「だけどよ、そう言われると行きたくなるだろ? それで昨日……」
「まさか、入ったのか!?」
ロイスはつい、声を大きくした。
「しっ! 親父達が起きちまうだろ。とにかく、俺はあの家を探索したんだよ。隅から隅までな」
ロイスは、半ば呆れたように半開きになった口で疑問を投げた。
「で?何か見つけたのか?」
「よく訊いてくれたぜ。そうだ見つけたんだよ。その家の地下に隠し通路があって、しかもそこから風が流れてたんだ。怪しい匂いがプンプンするだろ!? いや、するな。こりゃもう行くしかないよな!」
自分の言葉に自分で鼓舞されながら、興奮してヴェンは立ち上がった。