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ロイス宅。
深夜にも関わらず、この家には明かりが点いていた。
そんな中。
「馬鹿者ー!!」
二人はネフィに怒鳴られていた。
夜中に勝手に町の外へ出た上、自ら命の危険を晒したのだ。
仕方無いとは思っている。
町に帰ると一件ポツリと自分の家だけ明かりが漏れているのを見れば、二人にもこれから起こる事の大方の察しはつく。
いざ家に入ると、呼ばれる事も無く食卓で腕組み仁王立ちをしているネフィの元へとゼアに急かされ、ロイスとヴェンの二人は姿勢を伸ばして天誅が落ちる時を待つ他に無かった。
横の椅子にはラージまでも腰掛けているのを見てヴェンは大層尻込みをしていたが、ゼアに決して良い意味では無い、物理的に背中を押されて渋々といった様子でロイスの隣に並んだ。
ネフィとラージの後ろでは、薄手のカーディガンを羽織ったベレッタが不安そうに顔を俯かせている。
ロイスとヴェンの顔を見るなりパッと明るさが戻った辺り、どれ程の心配を掛けていたかは二人もすぐに伝わった。
「ネフィ、そんな大声を出すな。近所に迷惑だろう」
ネフィとは対照的に、ラージがゆったりと言った。
意外だな、とロイスは思った。
ヴェンからの情報によれば、エシュテラージという人物は間違えた事をすれば手が出るし、事ある毎に説教をされるしと評判は散々なものであった。
何なら戻って来た時にヴェンが真っ先に警戒したのはどっしり腕組みで待ち構えていたネフィではなく、その後ろで切れ長の目を向けていたラージの方だろう。
ラージとまともに会話をした事が無いロイスにどちらが正しいか判別がつかなかったが、目の前に腰掛けているラージは前評判とは裏腹の理性的な人物に見えた。
「しかし……!」
「儂は、無理だと思っていたがな」
ラージは、ネフィの言いたい事を読み取っていたかのように言葉を割り込ませた。
「……こうなる事を予想していたと?」
ネフィの声が、落ち着きを取り戻した。
「そうだ。いつまでも町の中だけで暮らせ、というのには余りに無理がある、と前にも話さなかったか? 強要すれば尚更にな」
そして、改めてロイス達に向き直った。
「だが、自らを危険に晒す様な真似は、儂は感心せんな」
「はい……」
「……解ったよ」
二人はそれぞれ、罰が悪そうに返事をした。
「うむ」
ラージは満足そうに頷き、ネフィに目配せをした。「まだ続けるか?」と言っているのだ。
「……二人共、もう部屋に戻って寝なさい。話は夜が明けてから聞こう。ゼアにも来て欲しい。良いかね?」
「解りました。日の昇る頃、またここへ来ます」
「済まんな」
ネフィの礼に、ゼアも一礼で返す。
最後に心配そうな目線をロイスとヴェンに配ったが、彼はすぐに踵を返すと玄関でもう一度だけ頭を下げて立ち去った。
ロイスとヴェンはお互いの顔を見やると、もう何も話す事無く大人しく休息を取る為に自室へと戻って行く。
木の軋む床の音が懐かしい。
手が震えるくらい慎重に開けた扉だって何も考えずに手を掛ける事が出来る。
何かから解放されるというのは、こんなにも楽な気持になれるのか。
だというのに、晴々とした心情にはなれなかった。
部屋へ入ったロイスは、ピアスを外す事もせずにベッドに倒れ込んでまた考える。
(光と闇、か……)
全然頭が回らない。
一日の中で色々あり過ぎた。
(疲れた……)
ロイスの思考は、そこで途切れた。