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拾われ令嬢の恩返し  作者: 絵山イオン
第2部 第4章 ルイスは告白する

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ずっと、五年前から

 その後、私とルイスはトキゴウ村の公衆浴場で汗を流した。

 トキゴウ村の公衆浴場は高温の蒸気で汗を出し、火照った身体を冷水で流すもの。

 男女別で入浴をする。

 髪を洗うのは週三回と決まっており、私が滞在する日は丁度その日だった。

 身体を清め、髪を洗った私は、公衆浴場を出た。

 外ではルイスが私を待っていた。


「待たせてしまったかしら」

「……少しだけ」


 短い会話をした後、滞在している家へと帰る。

 暗い道を照らす洋灯と衣服が入った荷物はルイスが持ってくれた。


「トキゴウ村の公衆浴場って、孤児院のものとは違うのね」

「孤児院ではお湯を張って、男女別で入ってたからな」

「私とルイスで下の子たちを世話していたわね」


 帰り道は思い出話で盛り上がった。

 孤児院では近くを流れている川の水を汲み、それを沸かしていた。

 そのため、風呂は三日に一度と限られていて、特別感があった。


「お前がいなくなってからは、俺が全員面倒みてたけどな」

「そうなんだ」


 孤児院の話題はすぐに終わる。

 私がいなくなってすぐに、孤児院は火事で全焼し、そこに住んでいた子供たちが惨殺されたのだから。


「あの、さ」

「なに?」

「家に戻ったら、大事な話があるんだ」

「大事な……、話」


 私たちが帰る家まではもうすぐ。

 どんな話がされるのかドキドキしながら、私は家に帰ってきた。



「……こっちに来てくれないか?」


 家に帰るなり、私はルイスに腕を掴まれ、引っ張られる。

 そのままついて行くと、ルイスの部屋に入っていた。

 私はベッドの端に座らされる。


「お前に渡したいものがあるんだ」

「……開けてもいい?」

「おう」

 

 私はルイスからプレゼントを貰った。

 それは包み紙とリボンが飾られていて、中身が分からない。それはくすんだ色をしていて、購入してから、数年経っているようだ。

 私はリボンを解き、包み紙を開く。


「あ……」


 それは、一冊の絵本。

 私がお母さんに買ってもらった童話の本。

 暖炉の炎で焼け、読めなくなってしまった形見の本だ。


「これ、私に?」

「……五年前、初めて貰った給料で買ったんだ。いつかロザリーに会って渡すんだって」

「嬉しい。ありがとう」


 私はルイスから貰った本をぎゅっと抱きしめた。


「読んでもいい?」

「ああ」

「……隣に座って」


 貰った本を開く。

 私は裏表紙に【ロザリー】と自分の名前を書いていた。真っ白になっている箇所を指でなぞる。

 昔、母は寝室でベッドの端に座り、絵本を読み聞かせてくれた。

 私はルイスを隣に座らせ、母のように絵本の文を読み上げる。

 ルイスは黙って私の音読を聴いてくれた。

 一つの物語を読み終え、私は絵本を閉じる。


「ロザリー」

「なーー」


 ルイスの方へ顔を向け、返事をしようと口を開いたところまでは覚えてる。


(え……?)


 言葉を遮られ、私の唇に柔らかい感触がした。

 それがキスで、相手がルイスだということを理解するのに、時間がかかった。

 

「ルイス……?」


 唇が離れ、ルイスの顔が離れたところで、私は彼の名前を呼ぶ。その声は震えていて、動揺が隠せなかった。


「ずっと、五年前から……、お前が好きだ」

「えっ!?」

「初めて出逢ったときから、一目惚れだった」


 食事の時に話していた好きな人が私だったんだ。

 ルイスに愛の告白をされ、私の心臓が高鳴る。

 

「私……、仲直りしたけど、ルイスのことーー」

「昔の俺は嫌な奴だったと思う。でも、ちょっかいをかけることしかロザリーと話せなかったんだ」

「あの頃から、私のことを……、好きだったの?」

「ああ。ずっとお前しか見てない」


 私とルイスが再会するまでの五年間。

 クラッセル子爵家に拾われた私は、その暮らしが幸せでルイスのことなど考えたことがなかった。

 けれど、ルイスは別れてからも私のことを想っていた。彼の真摯な眼差しから、本当のことを言っているのだと分かった。


「俺はロザリーと一緒になりたい」

「……」


 頬が熱を帯びている。

 私、ルイスにプロポーズを受けた。

 きっと、五年前に同じ話をされていたら、「嫌」と即答し、振っていただろう。

 五年で、ルイスは変わった。

 身長は私よりも伸び、身体も一回り大きくなった。剣だこのある大きな手に、鍛え上げられた肉体。

 抱きしめられたときは、息が出来なくて苦しかったけど、護ってくれそうな安心感があった。

 過酷な過去を乗り越え、侯爵家で使用人として働き、士官学校生として生活したおかげか、精神面も強くなっている。

 魅力的な男性に成長したと思う。

 現に、仕えていた侯爵令嬢から言い寄られているようだし。

 

「私で……、いいの?」

「ロザリーがいいんだ」


 ルイスであれば、私よりも綺麗で地位のある貴族と結婚できるはず。

 ルイスの相手が私でいいのだろうか。

 そう呟くと、ルイスは即答した。


「俺が騎士を目指すのは、貴族になったお前と結婚したいからだ」


 士官学校で上位の成績をキープしているのは、騎士になるため。その目的も私のためだったなんて。


「お前はひとりぼっちにならない。俺が、ずっと傍にいる」

「……うん」


 私はルイスにもたれかかった。

 互いの肩が触れ合う。

 ルイスの大きな手が私の肩にまわされる。

 

「ロザリー」

「……ルイス」


 私たちは互いに顔を近づけ、キスをした。

 そして、長い夜を過ごしたのだった。

 

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