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拾われ令嬢の恩返し  作者: 絵山イオン
第2部 第4章 ルイスは告白する
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待ち合わせ

 ルイスとの外泊の許しをクラッセル子爵から貰った私は、すぐにルイスに手紙を出した。

 すぐにルイスに届けたかったので、義父から外泊の了承を得たこと、待ち合わせる場所など、文面は必要最低限にとどめた。

 書いた手紙はすぐに封をし、メイドに明日の朝に届けるよう頼んだ。


「ふう……」


 やり遂げた私は、深く息を吐いた。

 身体の力を抜いたさい、ふらっと眠気を感じたのでベッドに横になる。

 ふと、クラッセル子爵に押し倒されたことを思いだし、頬が熱くなる。


(もし、あれがルイスだったら――)


 私はそんなこと起こるわけがないと首を激しく横に振った。

 日々のルイスとのやり取りを思い出すに、恋愛小説にあるような展開が起こることはまずない。

 何かあれば、私がイラッとするようなことを口にするし。

 そんなルイスが、私を押し倒すなんてあるわけがない。


「あれは、お義父さまが心配しているだけよ」


 自分に言い聞かせるように独り言を呟いた。



 私の中にあるルイスに対してももやもやは消えることなく、当日を迎えた。

 お金と一日分の着替え、時間潰しのための本を詰めたトランクを持ち、街の噴水広場前でルイスを待っていた。


(服装……、これでよかったのかしら)


 自分の身に着けている服をみる。

 墓参りということもあり、黒いワンピースを着てゆこうと思ったのだが、マリアンヌに反対され、明るい服が多い、彼女の洋服を借りてきてしまった。

 半袖の桃色のワンピース。

 胸元にフリルやレースがあしらわれ、背には大きなリボンがついている。

 どう見ても、コンクールで着るような服装だ。

 髪型も、いつもはお下げにしているが、メイドの手によって綺麗に結わえられている。

 装飾品もとマリアンヌは薦めてきたが、私はきっぱりと断った。


(目的が墓参りだし、この格好をルイスが見たら、浮かれてるとか皮肉を言われるんじゃないかしら)


 私とルイスは互いに突っ込む点があれば、互いに言い合う。

 同行していたマリアンヌに「いい加減にしなさい」と注意されたほどだ。

 今回は指摘してくれる同行者もいない。


(ルイスに何を言われようとも、私が冷静にならなきゃ……)


 ルイスのペースに乗っかってはいけない。

 何か言われても、くっと堪え、反射的にではなく考えて発言しようと私は心に留めた。


「待たせたな」

「いいえ、私が少し早かっただけ」


 約束の時間ちょうどにルイスは現れた。

 ルイスは白いシャツ、黒いパンツに黒い上着と目的に合った服装をしていた。

 私と同じくらいのトランクを持っており、一泊分の荷物を持っていた。


(私――)


 家族ではない人と外泊するのは初めてだ。

 でも、相手は一年間共同生活を送った人。

 一緒の寝室で眠っていたこともある。

 けれど、それは五年前。

 私もルイスも身体的にも精神的にも成長した。


「――おい、聞いているか?」


 ルイスの声が突然聞こえて、私ははっとする。

 いつの間にか、自分の世界に入り込んでいたようだ。


「ごめんなさい。ぼーっとしていたわ」

「わかった。もう一回話すわ」


 私は正直に話を聞いていなかったことをルイスに告げる。

 ルイスは私の態度にため息をつき、私が聞き逃した話をもう一度話してくれた。

 

「馬車は用意してある。だから、ここで花と弁当を買いに行こうぜ、ってさっき言った」

「お花とお弁当ね」

「花のほうはいつも買っている店があるからそこにするとして、弁当は何か希望あるか?」

「家族でひいきにしている場所があるわ。そこに頼みましょう」

「……そこ、高くないよな?」


 ぼそっとルイスが私に聞く。

 私が言った店は、個人で利用したことはなく、いつもクラッセル子爵が支払っていた。

 意識したことが無かったため、弁当の代金がどれくらいか記憶にない。


「どうかしら。でも、お金は持ってきたから、お弁当代は私が――」

「い、いや!! 高くても俺が払う!!」


 記憶になくとも、二人分の弁当を購入できるくらいのお小遣いは持ってきた。

 私が選んだお店だから、自分がルイスの分も支払うと告げると、彼は「自分が払う」と言い出した。

 私はルイスの言動に眉を顰める。


「さっきは値段のこと、気にしてたのに……」

「つい、いつもの癖でな。今日は違うんだった」

「なにそれ、変なルイス」


 会話が途切れると、ルイスは私の腕を掴む。


「こっちの話だから。気にするな」


 ルイスはニッと笑った。

 昔はそんな笑顔を私に向けることなかったのに。

 相手はあのルイスなのに、胸がドキドキと高鳴っている。

 

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