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拾われ令嬢の恩返し  作者: 絵山イオン
第2部 第3章 グレンは支える

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話がある

 結局、二人とは夕食になるまで会わなかった。

 生まれて初めて魔法を見せてもらったマリアンヌはそれに関心を持ってようで、ずっとグレンに話しかけている。

 ずっと説明するのは辛かったようで、グレンの表情は別れたときよりやつれており、声が枯れているようだった。


「お姉さま、グレンの魔法を見てどうでした?」

「それはもうっ!! すごかったわ! 物がふわっと浮いたり、生き物みたいに動いたりして!!」

「それはよかったですね」


 グレンにマリアンヌの相手をするのは限界だろう。

 そう思った私は、話し相手を変わることにした。

 話題をマリアンヌに投げると、彼女は興奮しながら、午後の様子を私に教えてくれた。

 私は「はい」「そうだったんですね」「素晴らしいですね」と適度なタイミングで相槌を入れる。

 

「た、助かったあ」


 マリアンヌの話相手から解放され、グレンは壁に身体を預けた。

 やはり、休憩のないお喋りに疲れてしまっていたみたいだ。


(お疲れ様)


 私はくたくたに疲れているグレンに小さく頭を下げた。



 夕食の時間になり、私たちとクラッセル子爵は席についた。

 四人分の料理が並んだところで、私たちは食事をする。


「グレン君、屋敷の生活には慣れたかい?」

「はいっ。料理は美味しいし、さらには着替えや外出着まで頂き、感謝に尽きます」

「洋服については、僕や使用人が着ないものを寄せ集めただけさ。新学期まで生活するのに、軽装、私服それぞれ一着ずつとトルメン大学校の制服だけでは不便だろう」

「それについては……、実家から最低限の物しか持って来なかったもので」


 クラッセル子爵はグレンに声をかける。

 私たちが関わると怖い顔をしてグレンを脅したりするが、彼の身の回りに関して気にかけている。

 現に、クラッセル子爵が着なくなった洋服をグレンの大きさに直したり、年頃の近い使用人に着ない洋服があるかどうか声をかけていた。

 それは、グレンの荷物が必要最低限の物しか入っていなかったからだ。


「そろそろ、生活用品を街で買い揃えようと思います」

「そうかい。お金はあるのかね?」

「えっと……」

「であれば、僕が用意しよう。必要なものを使用人に言いなさい」

「……」


 グレンはお金の話になると、途端に声が小さくなる。

 そう、彼は無一文なのだ。

 トルメン大学校では特待生として、学費、食費、備品は無償で提供されていた。

 そのため、学園内では生活に困らなかった。

 しかし、夏季休暇、長期休暇に入るとそうはいかない。

 今回はクラッセル邸で居候をしているからいいものの、夏季休暇の際はどうやって生活していたのだろうか。

 事情を知っているクラッセル子爵は、客人であるグレンに手厚く援助する。

 本当であれば、洋服も着古したものを手直ししたものではなく、新品の物を買い与えたはずだ。

 しかし、グレンが嫌がったので譲歩してそうなったらしい。


「金に困っているのは、俺の我儘なのせいなので……。日用品まで用意してもらうのは――」

「いいのよ。グレンはトルメン大学校でロザリーの手助けをしてくれたんだもの」


 遠慮するグレンに、マリアンヌが優しく諭す。

 それでも折れない彼に、クラッセル子爵はこう言った。


「そうだよ。マリアンヌの言う通りだ。それに、君にはロザリーの編入試験の伴奏をお願いした。別の家庭では、奏者を雇って指導をするところもあるんだよ」

「はあ」

「だから、日用品の購入代は正当な対価だ。遠慮なく使ってほしい」

「……ありがとうございます。翌日、買って欲しいものを使用人に頼みます」


 マリアンヌとクラッセル子爵に説得され、グレンが折れた。


「君のピアノの技術は素晴らしい。僕の師のような弾き方をする」

「っ!」


 クラッセル子爵は褒め上手だが、自身の師匠と比べるのは珍しい。

 本日の夕食で、彼はワインを四杯飲んでいる。

 飲み過ぎで気分が良くなって、口が達者になっているのだろうか。


「お義父さまはグレンのピアノの音色が好きなのですね」

「ああ。目を閉じていると、師が弾いているように聞こえるんだ」

「……」


 私は褒められたグレンの顔を見た。

 前”神の手”であるピストレイのようだと褒められて、照れているのではないかと思ったが、それとは真逆で真っ青な表情を浮かべていた。

 さっきまで調子がよかったのに。


「すみません。気分が優れないので俺は先に失礼します。ごちそうさまでした」


 グレンは一方的に席を立ち、食堂を出て行ってしまった。


「何か悪いことを言ってしまったかな?」

「いいえ。きっと私がグレンを疲れさせてしまったからですわ」


 ワインで気分が高揚しているクラッセル子爵でさえ、グレンの思わぬ行動に彼の身を案じていた。

 具合が悪くなる要因に心当たりがあるマリアンヌは、ぼそっと呟いた。


「その件についてはメイドから報告を受けている」

「魔法というものは素晴らしいものでして――」

「マリアンヌ、楽しかったのだろうけど、グレン君と二人きりで遊ぶのはよろしくないね」

「……申し訳ございません」

「グレン君は男性だ。ロザリーと同じように接してはいけないよ」

「わかりました。以後、気を付けます」


 クラッセル子爵は、本日のマリアンヌの行動に苦言を呈する。

 確かに、婚約者のいる身で他の異性と二人きりでいるのは、密会と誤解されかねない。

 だが、厳しすぎるのではないだろうかと私は思った。


「そして、ロザリー」

「はいっ」

「話がある。食事を終えたら、執務室へ行こう」


 その場では「はい」と返事をしたが、疑問に思った。

 演奏室であれば腑に落ちるのに、何故、執務室なのだろうか、と。

 

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