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拾われ令嬢の恩返し  作者: 絵山イオン
第2部 第3章 グレンは支える
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孤児院の皆は元気?

 目の前にいるのは十六歳の立派な男性なんだと気づき、私ははっとする。

 

「あ、あのっ! 孤児院の皆は元気?」


 私は自身が成長したルイスにどぎまぎしているのを悟られたくなく、話題を変えた。

 ルイスが立派に成長したのだから、他の孤児院の子も同様に育っているのではないかと。


「お前、あいつらと全く連絡とってねえんだな」


 弾む話題だと思っていたのに、ルイスの反応が悪い。

 まるで、嫌な話題に触れたかのようだ。


「ええ。クラッセル家で勉強、ピアノ、ヴァイオリンと忙しかったから……」

「そっか」


 事実、私はクラッセル家の養女としての生活が忙しかった。

 特にピアノとヴァイオリンの練習は。早くマリアンヌと合奏がしたくて生活のほとんどをそれに費やしていた。


「俺もさ、騎士に引き取られてから連絡とってねえんだ」

「えっ、騎士に引き取られた!? だから、士官学校に在学しているのね」

「まあ、あいつらも元気でやってるんじゃねえかな」

「そうだといいわ。私たちがいた時は、下の子が六歳だったから、今頃どこかで働いているかもね」

「そうだろうよ」


 ルイスの反応が悪かったのは、彼自身も新たな進路に進み、孤児院の皆と連絡を取っていなかったからのようだ。

 そうだと分かった私は、当時の出来事を思い出す。

 あれから五年経っているのだから、きっとメヘロディ国内のどこかで働いているはずだ。


「飯、ごちそうさん。俺、これで帰るわ」

「あら、ロザリーとお話しなくていいの?」

「言いたいことは吐き出したしな。あー、スッキリした」


 ルイスはこれで別れるようだ。

 マリアンヌが引き留めるも、ルイスは全て話したから満足といった様子だった。

 私はルイスに「ねえ」と声をかける。


「連絡先を教えて」

「へ?」

「せっかく会えたのだから、それくらい聞いても構わないでしょ?」

「まあっ!」


 私の言葉に、ルイスは目を丸くしていた。予想していなかったようだ。

 真正面に言うのは恥ずかしく、ルイスから視線をそらし、早口で胸の内を彼に告げた。

 マリアンヌの嬉しそうな声が聞こえる。


「そ、そうだな……。俺、もうじき首都に戻るんだ」

「そう」

「だから、二つ教えるよ。お前のほうは、クラッセル邸に送ればいいよな」


 私はコクリと頷く。

 けれど、編入試験に合格したら私もトルメン大学校に通うことになる。

 それをルイスに伝えたら、試験に必ず合格しないといけない。

 自分の負担になるかもしれないと、私は口に出せないでいた。


「いつ、戻るの?」

「この休みが終わったら」

「……」

「な、なんだよ」


 まだヴァイオリンの腕はなまっている。

 これからクラッセル子爵に指導をたくさん受けるだろう。

 私は悩んだ末、ルイスにこれからの事を話すことにした。


「私、お姉さまの学校の編入試験を受けるの」

「マリアンヌが通ってる学校って――」

「トルメン大学校よ。ロザリーはね、私と同じ”音楽科”に編入する予定なの」


 マリアンヌが補足してくれた。

 そこでルイスははっとする。


「となると……」

「私も首都に行くわ。だから、手紙じゃなくて直接会えるかもしれない」

「そうかっ!!」

「よかったわね、ルイス」

「うっ……」


 ルイスは途端に顔をしかめる。


「もうっ! 素直じゃないわね」


 ルイスの表情を見て、マリアンヌが困った顔をしていた。

 二人の間では何かを理解しているようだが、私にはさっぱり伝わらない。


「ほれ、俺の連絡先」

「ありがとう」


 ルイスは紙ナプキンにさっと自身の連絡先を書き、私に渡した。

 これで手紙を送ることができる。

 彼にたまーに手紙を送ろう。トキゴウ村の孤児院の出身として。


「じゃあ、またな」


 ルイスは一人、店を出て行った。

 私たちは彼の背が見えなくなるまで、じっと見送っていた。


「あっ!?」

「どうしたの、ロザリー?」


 ルイスが店を出た後に、私は気づく。


「あいつ、食事代を置いていきませんでした!」


 ルイスが食事代を払っていないことに。

 彼を追いかける姿勢を取ると、マリアンヌが私を引き留めた。


「いいのよ。それが当たり前だったから」

「当たり前!? あいつ、お姉さまにご飯代を支払わせていたのですか!?」

「そうよ。このお店から少し歩いた場所にね、学生喫茶っていう勉強スペースと食事を提供してくれる場所があって――」


 学生喫茶というものがあるということは、私の学校でも話題になっていた。

 利用したことはないが、存在を知っていた程度。

 まさか、マリアンヌとルイスがそこを利用していたとは。

 私はマリアンヌが狭い個室で異性と二人きりでいた事実に動揺していた。


「その……、てっきり私、図書館で勉強していたものだと」

「あら、言ってなかったかしら」

「聞いてません!!」


 これをクラッセル子爵は了承したのだろうか。

 いや、認めているわけがない。


「一つ、確認したいことがあるのですが――」

「何かしら?」

「その、ルイスの事はお義父様はご存じなのでしょうか」

「言ってないわ」


 すぐに答えが返ってきた。


「お父様に知られたら、大変なことになるし。秘密にしていたの」

「……でしょうね」


 私はマリアンヌの発言に頭を抱える。

 その対応は適切だと頭では分かっていながらも、もし、ルイスが邪な感情をマリアンヌに抱いていたらと考えるとぞっとする。


「ルイスとは何もありませんでしたよね?」

「な、ない……、わ」


 私が詰め寄ると、マリアンヌは頬を赤らめた。

 明らかに彼女は嘘をついている。

 ルイスと勉強以外に何か起こったに違いない。


「いけません! お姉様にはチャールズさまがいらっしゃるんですから」

「チャールズさま……、ね」


 今のマリアンヌには婚約者がいる。

 他の男性と密会していたなんて知られたら、婚約を破棄されてしまう。

 向こうがいくら『マリアンヌが誰とどうなろうが、最終的には俺と結婚すればいい』と余裕ぶっていたとしても、事実を知れば、怒りの感情をこちらに向けてくるかもしれない。


「あのね、ロザリー」

「なんでしょうか」

「いえ、なんでもないわ。お食事とお茶会も終わったことだし、私たちも店を出ましょう」

「はい。屋敷に帰りましょう」

「そうね」


 マリアンヌが何か言いたげだったが、それは店を出る機会を見計らっていたようだ。

 私は彼女に賛同し、会計を終えて店を出た。

 そのまま二人、専用の馬車に乗って屋敷に帰る。


「ロザリー、今日は楽しかった?」

「……まあ」


 馬車の中、マリアンヌは私に今日のお出かけの感想を聞く。

 ルイスとの再会は驚いたが、久しぶりにマリアンヌと街へ出掛け、外食をしたのは楽しかった。


「ルイスにすぐに手紙を送るのよ」

「えっ!? あ、はい。分かりました」


 連絡先を催促したのは私だし、屋敷に帰ったらすぐに手紙を書こうと思っていた。

 でも、マリアンヌに催促されるとは思わず、私は少し驚いた。


(ルイスに手紙を書くのだったら、トキゴウ村の孤児院にも手紙を書こう)


 五年ぶりにトキゴウ村の孤児院に連絡を取ってみよう。

 その考えが大きな事件を引き起こすとは、今の私には知る由もなかった。

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