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拾われ令嬢の恩返し  作者: 絵山イオン
第2部 第1章 ロザリーは再会する
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焼き付いて離れない

第2部開始です。

毎週月曜日に投稿してゆきますので、お楽しみに!!

 情勢のせいで、祖国カルスーンに帰れず、行くあてもないグレンにマリアンヌが救いの手を差し伸べた。

 グレンはマリアンヌと彼女の後ろにいる私を見ている。

 目を大きく見開き、マリアンヌの発言に驚いている。


「えっ、お前、チャールズの婚約者だろ? 俺はーー」

「グレンは私のお友達。ね、チャールズさま、そうでしょう?」


 グレンが驚いていたのは、チャールズの婚約者になったマリアンヌが救いの手を差し伸べてくれたことだ。

 チャールズとグレン、互いの祖国は”戦争”を行っていて、とても仲が悪い。

 だからチャールズと関係のあるマリアンヌの行動を、グレンは”異様”と感じたらしい。

 私はマリアンヌの隣に立ち、表情をうかがう。

 マリアンヌはチャールズに微笑んでいた。


「俺は君がグレンとどうなろうが気にしないよ。最後に俺と結婚すればいいんだから」

「安心してください。彼と私は恋仲にはなりませんから」

「それよりも、お前がマリアンヌの厚意を踏み弄るのが許せないね。嫌というんだったら俺の馬車にお前をねじ込むぞ」

「ま、マリアンヌ! お前の家にお世話になるよ!!」


 チャールズの脅しが決め手になり、グレンは二学年の始業式までの間、クラッセル邸で過ごすことを決めた。


「チャールズさま、始業式までごきげんよう」

「ああ。君と二か月も離れ離れになるなんて寂しいよ」

「……私も、同じ気持ちです」


 チャールズはこの場に私とグレンがいることを気にせずに、マリアンヌに接近し、彼女のさらさらとした金髪に触れ、指ですいた。


(お姉さま……、嬉しくなさそう)


 チャールズは本心でマリアンヌに甘い言葉を投げかけている。

 けど、マリアンヌはチャールズから視線をそらし、か細い声でチャールズが望む言葉を口にした。

 普通の人ならば、愛らしい仕草の一つに見えるだろうが、マリアンヌの声が小さくなる時は大体”嫌々”な感情を出している。五年間、姉妹のように暮らしてきた私だから分かる細かな反応だ。


「マリアンヌ」


 チャールズはマリアンヌを抱きしめる。

 マリアンヌは、チャールズに身体を預けていた。


「お姉さま、私はグレンさんと一緒に馬車へ―ー」


 二人の世界を邪魔してはいけないと思った私は、グレンを連れて馬車へ向かおうとした。

 言い終える前に、マリアンヌが私の服の裾を掴む。

 「いかないで」。

 チャールズの身体が覆いかぶさり、表情が見えない彼女の感情が伝わってくる。

 

「キス、してもいい?」


 チャールズがマリアンヌに囁く。

 私はその言葉を聞いて、頬が真っ赤に熱くなった。

 やっぱり二人の世界に私が傍にいるのはおかしい。

 私の服を掴んでいるマリアンヌの静止を振り切ってこの場から逃げようとするも、彼女は離してくれなかった。

 このまま、二人がキスするところを見ていろというのか。


「……」


 マリアンヌがチャールズにどう答えたのか、私には分からなかった。

 だけど、チャールズとマリアンヌの唇が重なり、離れるまでの光景は、私の目に焼き付いて離れない。

 


 私たちはチャールズと別れ、馬車に乗った。

 馬車の中では、皆黙り込んでいた。

 私はマリアンヌとチャールズのキスを目の当たりにして、恥ずかしくて、話題を切り出せずにいた。

 きっと、向かい側の席に座っているグレンも私と同じ感情を抱いてるに違いない。だって、私たちに顔を合わせないようにしつつも、時折、マリアンヌに視線を向けているから。

 私の隣に座っているマリアンヌは、婚約者とキスをしたはずなのに堂々としている。普段通りの表情だ。


「二人とも、様子がおかしいわ。馬車酔いしたの?」


 沈黙を破ったのはマリアンヌだった。

 私たちが挙動不審であることを指摘し、馬車に酔ったのかと問う。


「ち、違い―ー」

「チャールズとキスしてるとこ、見せつけられたら気まずくなるに決まってんだろ」

「あら、チャールズさまは私の婚約者よ。口づけして、当り前じゃない」

「そ、そうなのか……?」

「ええ。あら、違うの? ロザリー」


 馬車に酔ったわけじゃないと伝えようとするも、グレンが踏み込んだ話を始めた。

 マリアンヌは恥じらうこともなく、即答した。

 マリアンヌの態度にグレンは困惑している。

 グレンの反応を見たマリアンヌは、私に問う。


「……小説ですと、婚約された方と口づけを交わした後は、頬を赤らめ、相手の方を想い、気持ちが満たされるといった描写が書かれていた気がします。お姉さまの反応はそれとはかけ離れていて……、私も動揺しています」

「そう。初めてだったけど、全然そう感じなかったわ」

「は、初めて!?」

「グレン、まだ不満があるの?」

「ある! あるけど……、もういい」

「そう」


 グレンが言いたかったこと、分からなくもない。

 異性とのキス。これは十五歳である私たちにとって緊張する出来事だ。

 私たちのクラスでも、異性交流をしている人たちはいた。手を繋いで、教室を出て行く姿を何度も見ている。

 異性交流の中でも、初めて交際した異性とのキスは貴重な体験である。私はまだ体験したことが無い。グレンもきっと私と同じだ。

 そんな貴重な体験をマリアンヌは私たちの目の前で終えた。それをあっさりと告白するとは。


「グレンさん、お姉さまは少し常識が抜けているんです。学校でも苦労したのではないでしょうか」

「さっきの発言ほどじゃないけどな。こいつ、リリアン・タッカードっていう公爵令嬢に目を付けられてたんだけどよ―ー」


 私はグレンに話を振る。

 グレンは、二学期で起こった出来事を話始めた。

 私が”マリアンヌ”として変装し、リリアンに仕返しした出来事を。


「ふふっ」


 マリアンヌはグレンの話を楽しそうに聞いている。彼女が馬車の中でしたかった話題は、グレンが今話している内容そのものだったからだ。

 

 

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