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拾われ令嬢の恩返し  作者: 絵山イオン
第1部 第6章 立ち向かうロザリー
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返還の条件

 どうしてリリアンが持っているの!?

 私は目を見開き、動揺するも、すぐに気持ちを落ち着かせた。

 自分のロッカーに物を入れたら無くなってしまう環境だ。マリアンヌの物をリリアンに盗られていてもおかしくない。

 きっと、あのイヤリングはロッカーに入れていたところをーー。


「そうそう、クラッセル子爵家はヴァイオリンの演奏で爵位を得た貴族よね。あなたのお父様で一代目」

「……それがなんだっていうの?」

「対して、わたくしの家、タッカード公爵家はメヘロディ王国が建国した時から王家を支えてきた由緒ある家柄。わたくしのお父様で十九代目となりますわ」

「お前の父親の成果だろ? それ比べて何が楽しいんだ?」

「部外者は黙ってなさい!!」


 長ったらしい自慢をしているリリアンに、グレンが割り込んできた。


「親の権力を振りかざすなんて……。トルメン大学校の理念は『生徒である内は身分・出自は関係なく平等に接する』、であること、忘れたの?」

「あんたも急にマリアンヌの味方し始めて、学長の娘だからって、生意気なのよ!!」


 すかさず、マリーンもリリアンの主張に文句をいう。

 二人に調子を乱されたリリアンには、先ほどまでの余裕はなかった。二か月、実家で考えた【復讐の方法】は互いの親の家柄を並べるだけなのか。知恵を付けてきたのかと思いきや、いつものリリアンと変わりない。


「と、とにかく! 私はクラッセル子爵の仕事を無くすことが出来るの!!」

「それは脅しととらえていいですわね」


 リリアンが実家の権力を持ち出してきた。これは彼女が追い詰められている私に勝てる唯一の手段。

 流石にクラッセル子爵に影響が及ぶのは避けたい。私はリリアンがどういう要求に出るのか、黙って話を聞くことにした。


「マリアンヌ、一学期にも”チャンス”を与えたわよね」

「……」

「実技試験で不合格になって、って」

「っ!」


 マリアンヌの成績が最下位だったのは、リリアンが脅していたから。

 当時のマリアンヌはそれに従い、課題曲を評価が落ちるようにわざと弾いたに違いない。


「だけど、あんたは二十位。しぶとく残った。約束を破ったから、クラッセル子爵を舞台に立てないようにしようとしたら―ー」


 リリアンは自分の耳にある、飾りに触れた。


「この耳飾りを渡してきたのよね。実家に持って帰ったきりだったの、忘れてたわ」


 リリアンの発言で、全部わかった。

 マリアンヌが大切にしていた形見の耳飾りは、無くしたのではなく、リリアンに奪われたものなのだと。


「でも、残念だわ」


 リリアンはわざとらしくため息をついた。


「『大切なものを渡すから、許してください』と言われて貰ったものが、クズ石で造られた安物なんてね。田舎貴族だから、宝石の一つや二つ持っていると思ったのに。あなたの家、領地経営で精一杯な貧乏貴族なのね!!」

「……侮辱しないで!!」


 確かに、私とマリアンヌの耳飾りは、価値のない色のついたクズ石で造られている。

 貴族である私やリリアンにとっては安値だが、平民、ましてや学生にとっては高価な品物だ。

 それは当時、平民でトルメン大学校の音楽科に在学していたクラッセル子爵が、貴族だったクラッセル夫人と恋人になって初めて贈ったプレゼントなのだという。

 クラッセル夫人はそれを大切に持っていて、娘であるマリアンヌに受け継がれた。

 大切なものをそんな風に言われたら、不快だ。

 私は声を荒らげ、リリアンに怒りの感情を向ける。


「私にとっては、とても大切な耳飾りなの!! 返しなさいよ!!」

「ええ、返してあげるわ」


 リリアンは耳飾りを返せ、という私の要求をあっさりと受け入れた。


「次の実技試験、”一人”でやり切ったら、返してあげる」

「……その言葉、忘れないで」

「ふふ、一学年最後の実技試験。今度こそ、不合格になるといいわ!!」


 返す条件を出され、私はすぐに返事をする。

 返事を聞いたリリアンは、上機嫌でその場を去って行った。

 出された条件が無茶なものだったのは、もう少し後の私が知ることとなる。

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