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拾われ令嬢の恩返し  作者: 絵山イオン
第1部 第5章 抗うマリーン

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マリアンヌは真実を知る(マリアンヌ視点)

マリアンヌ視点に入ります。

時系列的にロザリーが実技試験を受けているときの出来事です。

次話もマリアンヌ視点で物語が進みます。

 クラッセル邸。

 時はさかのぼり、夏季休暇が過ぎて一か月が経った頃。

 私、マリアンヌは演奏室にいた。

 ピアノの椅子に座って、私は大窓から見える外の景色、庭師が手入れした庭園を眺めながらロザリーの事を考えていた。

 ロザリーが学校の演習で一週間友達の家に泊まるなんて聞いてない。

 あの子がそんな大事なこと、直前に言い出すなんておかしい。

 私はそうお父様に意見したのに、『とりあえず一週間待ってみよう』なんて悠長なことを言われた。

 

(もし、町で誘拐されてたら……、ああ、なんてこと!)


 その一週間は過ぎ、一か月も経っている。

 けれどもロザリーが屋敷に帰ってくるという知らせは全くない。


「マリアンヌさま、昼食の時間です」

「……いらない」

「そう言って、二日も食事を抜いているではありませんか!」

「ロザリーが帰って来ないんだもの。心配で喉も通らないわ」

「ロザリーさまは学業に励んでおります。マリアンヌさまが心配することはありません」

「でも……!」

「今日は喉が通らなくても、食堂へ連れて行けと旦那様に命じられています。さあ、行きましょう」

「……分かったわ」


 食欲はわかないのだけど、メイドにそう言われては仕方がない。

 食堂にはスープとパン、果物が要されていたけど、私はスープだけを飲み干し、食事を終えた。


「マリアンヌさま、それでは身体を壊して―ー」

「私の事なんてどうでもいいの!! ロザリーは、いつ帰ってくるの!!」

「そ、それは……、私には分かりません」

「ご、ごめんなさい! 私、貴方に強く言うつもりはなかったの」


 私の体調を心配されても、ロザリーは帰って来ない。

 メイドの気遣いが障った私は、カッとなり、声を荒らげてしまった。


「……だめね。私、部屋に戻るわ」

「はい。掃除とベッドメイキングは済んでおります。ご入用がありましたら、何なりとお呼びください」

「ありがとう」


 私はメイドに一礼し、私室に入った。

 音楽を、ピアノを辞めると決めてからここは客室と変わらない、ただ高価な家具が置かれただけの殺風景な部屋。洋服も三着を繰り返し身に着けているだけ。ただ、時間だけが過ぎている。


(……この感じ、”あの時”と似ているわ)


 心にぽっかりと穴が開いている、喪失感。

 ”あの時”、お母様が亡くなったときと似ている。

 血がつながっていなくても、ロザリーは大切な妹、家族なのだと思い知らされる。


「ロザリー……、どうして屋敷に帰って来ないの?」


 最後にロザリーに会ったのは、長期休暇の最終日。夜に、彼女は私の部屋を訪れた。


(あっ)


 あのとき、ロザリーは”トルメン大学校の制服が欲しい”と言ってた。

 今まで、有名校の制服を着てみたかっただけだと思っていたけど、もし、ロザリーの目的がそれだけではなかったら―ー。

 トルメン大学校の制服を着て、何か行動に出るとしたら―ー。

 

 私は、一つのことを確認するため、部屋を飛び出し、隣の部屋、ロザリーの私室に入った。

 ロザリーの部屋は、紙とペン、本が多く置いてある。

 私はそれらには目もくれず、ロザリーのクローゼットを見た。

 ロザリーが好みそうな長い丈の、緑、茶、青などの自然色で統一されたワンピース、コートとドレス、白いブラウスと花柄のスカートが並ぶ。


(ない!!)


 隅々までクローゼットを確認するも、トルメン大学校の制服はなかった。

 学校の友達に見せるために、持って行ったのだろうか? いや、ロザリーはそんな目立ちたがり屋な性格ではない。


「うーん……、あまり考えたくないんだけど」


 続いて、私はロザリーの装飾品が置いてある棚を見た。帽子に、バックに、靴。


「……やっぱり!!」


 私の髪色に似た、金髪のカツラが無くなっている。

 お父様を驚かせるために、用意したカツラ。

 私の制服とカツラ。

 ロザリーの部屋からこの二つが無くなっている。


「え、まさか、あの子……」


 この二つを使って、ロザリーは私に変装してトルメン大学校へ潜入した。

 私はその可能性を見出し、絶句する。

 でも、それが本当だと決まったわけではない。


「誰か、誰かいる!!」


 私はロザリーの部屋を出て、大きな声でメイドを呼ぶ。

 彼女はすぐに私の元へ来た。


「いかがいたしましたか?」

「町へ、町へ出掛けたいの! 馬車の用意をして!!」

「お一人で外出するのはーー」

「急いで!!」

「……かしこまりました。馬車の手配をいたしますので、その間に身支度を」


 少し経ち、外出用のドレスと化粧をした私は、メイドが用意してくれた馬車に乗り、町へ向かった。



「ロザリーさまは一か月休んでいます」

「そ、そうですか……」

「そろそろご家族に伝えようと思っていたところでした」

「ありがとうございます。私が父に伝えます」

「お願いします」


 町へ向かい、私はロザリーが通っている学校へ向かった。

 職員室に入り、ロザリーの様子を訊くと、担任の先生が『ロザリーは一か月休んでいる』という事実を私に伝える。

 私は担任の先生からロザリーが休んでいた一か月分の授業の進み具合と、宿題を受け取り、学校を出る。


「マリアンヌさま、他に向かう場所はありますか?」

「……屋敷へ戻ってちょうだい」

「分かりました」


 御者に次の目的地を問われ、私は屋敷へ戻るよう彼に命じた。

 馬車に乗り、受け取った宿題を傍に置く。


「ロザリー……、貴方って子は!」


 ロザリーは私たちに嘘をついて、首都トゥーン、トルメン大学校へ行っていた。

 その事実を知った私は、額に手をやり、深いため息をついた。

 

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