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拾われ令嬢の恩返し  作者: 絵山イオン
第1部 第5章 抗うマリーン

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切れる緊張の糸

 私をリリアンから助けてくれたのは、同室のマリーンだった。

 マリーンは木の棒のようなものを手に持っている。持ち手が彫られ、艶が出るように加工された、先端が丸い木製の棒。先端には何が起こったか分からない、きょとんとしたリリアンがいた。

 私も何が起こったか分かっていない。

 リリアンを突き飛ばしたのはマリーンなのだが、彼女がリリアンに体当たりをした感覚はなかった。

 息苦しさがスッと無くなった。そんな感覚だ。


「マリーンあなた―ー」

「動かないで!」


 リリアンがその場から立ち上がり、邪魔をしたマリーンに詰め寄ろうとするも、彼女の覇気のある声にすくみ、歩を止めた。

 マリーンは木の棒の切っ先をリリアンに向けたまま、彼女に注意をする。


「あたしが止めなかったら、マリアンヌは死んでいたわよ!」

「どいてよ! あいつ目障りなのよ!!」

「……」


 今のリリアンでは会話が出来ないと悟ったマリーンは、木の棒の先端を床に下ろし、指揮者のように振り上げた。それと同時に、リリアンに破壊されたガラスペンの破片が宙に浮き、リリアンの前で停止している。


(え……?)


 私はその不可思議な現象を目の当たりにし、驚いていた。

 破片がまるで生きているかのような動きをしている。

 もしかして……、目の前で起こっている不思議な現象は魔法、なのだろうか。

 でも、マリーンは学長の娘、メヘロディ王国の出身のはずだ。

 リリアンに襲われ、死に直面した私にはこれ以上答えを導き出すことはできなかった。

 

「一歩でも近づいてみなさい、このガラスで怪我するわよ」

「なによ、なんであんたがマリアンヌの味方をするのよ!! わたくしの邪魔、しないでよ!!」

「味方しないと、あんたが殺人犯になるからよ!!」

「悪いのはマリアンヌよ!! 私の婚約者を奪うあいつよ!」

「……」


 リリアンは何故マリアンヌの味方をするのかとマリーンに激怒する。

 冷静なマリーンは、まっとうな答えを出すも、リリアンの耳に入っていないようだ。

 マリーンはちらっと横目で私を見た。


 ”部屋に入って。入ったら、鍵をかけて”


 唇の動きと視線で、私に指示を送る。

 私は小さく頷き、マリーンの後ろに隠れた。

 マリーンがリリアンに近づき、私の姿が見えなくなったところで、部屋に入った。

 部屋に入り、私は内側から鍵をかける。


(私、生きてる……)


 施錠してリリアンがこの部屋に入ってこれないと分かると、私は膝から崩れ落ちた。

 身体が恐怖で震え、立ちあがることが出来ない。

 とても怖かった。

 死ぬかと思った。

 部屋の外では、リリアンの怒号と冷静なマリーンの声が聞こえている。

 少し経って、他の女生徒の声も聞こえ、次第にリリアンの声が小さくなっていった。


 コンコン。


 ドアのノックがし、私はその場に座り込んだまま、内側のカギを開け、ドアをゆっくりと開けた。

 向こう側にはマリーンがいて、彼女は私に微笑んでいる。


「う、うう……」


 マリーンの笑顔を見て、緊張の糸が切れた私の目には大粒の涙がこぼれた。


「リリアンは自分の部屋に帰ったわ」

「うっ、えっぐ」


 マリーンが私を抱きしめる。泣き出した私を安心させるために背中を優しく撫でてくれる。


「怖かったわね、もう大丈夫だから」

「うわああああ!」


 感情が外れ、私はマリーンをぎゅっと強く抱きしめ、声を出して泣いた。



 翌日。

 私は腫れた目のまま、登校した。

 あの後、マリーンは私の涙が収まるまで親身に話を聞いてくれた。

 入浴時間を逃した私は、化粧を落とさないで眠った。その日は、マリアンヌが大泣きしている私を慰めてくれている夢を見た。私が怖がったり、悲しい気持ちになった時は、いつも彼女が寄り添ってくれたので、それを思い出したのだろう。


「おはよ」

「ごきげんよう」


 教室に入ると、マリーンが声をかけてきた。

 私はそれに応える。


「昨日の件、女子寮の寮長と当番の先生に報告したわ。それで、リリアンの行動が目に余るものだから、二か月の停学処分になってる。今日のうちに実家に帰ってるはずだから、安心して」

「……そう」

「リリアンが激怒する原因は、マリアンヌとチャールズさまにあるのだけど……、これからあなたたちどうするの?」

「分かりません。チャールズさまのお気持ち次第です」

「ふーん」


 マリーンは、私が眠っている間に事後処理をしてくれていたようだ。

 その結果、リリアンは二か月の停学処分になった。公爵令嬢にそのような処分を下したのは、私を殺そうと首を絞めたからだろう。

 しばらくリリアンと顔を合わせることはない。それにはほっとする。

 昨夜の件はそれで一件落着したが、マリーンはリリアンを激怒させた要因である、私とチャールズの関係を指摘してきた。

 私は正直な気持ちをマリーンに打ち明ける。

 それを聞いたマリーンは相槌を打つ。


「リリアンの件、チャールズさまにはあなたが話してね」

「……分かったわ」


 チャールズには今日の昼食に会う約束をしている。

 家族に贈るお土産はめちゃくちゃに壊されたけれど、代金は持ってきた。

 リリアンが二か月停学した話を聞いて、チャールズはどんな反応をするんだろう。

 私はそれが気になり、午前の授業には集中できなかった。


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