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拾われ令嬢の恩返し  作者: 絵山イオン
第1部 第4章 助けるグレン

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仕返し

 一昨日、グレンと図書館で話した夜まで振り返る。

 グレンが私に話してくれた内容はこうだ。


「無くなるなら、目印を付ければいい」

「目印……? 名前は書いていますわよ」

「すまん。答えが短すぎたな。これから説明する」


 グレンは近くの棚にある本を一冊、適当にとり、戻ってきた。


「表紙一面に特殊なインクを塗る。それで盗った犯人を見つければいいんだ」

「インクを塗るの? それじゃあ、仕掛けだってすぐに判ってしまうわ」

「普通のインクだったらな」


 表紙一面に特殊なインクを塗る?

 インクを塗ったら目立つため、リリアンたちが警戒して犯行に及ばないのではないだろうか。

 犯人を捕まえるとしたら、犯行に及んだ後に暴くのがいい。

 グレンの考えには穴があるんじゃないかと指摘すると、彼はニヤリと笑った。


「そのインクは明日持ってくる。始業前の図書館で渡すよ」

「……また図書館に来ないといけないのね」


 図書館は始業前も開いている。そのため、担当の図書委員は朝の掃除が免除される特権がある。

 私の朝は寮の掃除の他にマリアンヌに変装するための準備と、授業の内容を記憶することで手一杯なのに。それを早く終わらせて図書館に行かなきゃいけないのか。


「俺が持ってくるインクは、塗ったら透明になるんだ。だから見た目ではインクが塗ってあるとは分からない」

「それって、私たちにも見えないってことでしょ? どうやって目印を見つけるのよ」

「そのインクは触れた人の手や服に付着する特性がある。お前にも見えるように後でしておくよ」

「そう……。なら、大丈夫そうね」


 私が心配していたことは、解決している。

 塗ったら透明になり、そのインクが触れたものに付着する”特殊”なインク。

 犯人探し向きな道具はメヘロディ王国にはない。留学生であるグレンならではの発想だ。


「それでだな……」

「なにかしら?」


 グレンの会話が急に歯切れの悪いものになった。

 特殊なインクにはなにかデメリットがあるのだろうか。


「お前さ……、チャールズ先輩と仲がいいだろ」

「ええ」

「だったら、あいつから教科書を貰ってきてくれ」

「チャールズさまから!?」

「盗んだ教科書が先輩のものだったら、リリアンのショックもデカいだろ」

「確かに」

「それと、朝に渡すインクをついでに塗ってもらうといい。あのインクは扱いが難しいからな。先輩に任せた方がいい」

「わかった。そうする」


 インクを塗る教科書はチャールズのものにする。

 そうすれば、暴いたときのショックとそれがチャールズのものだったショック、二重にかかる。


「じゃあ、朝、ここでな」

「ええ。ごきげんよう。また明日」


 グレンと別れた私は、彼の言う通りに行動し、今に至る。



「これは、私の教科書に塗った特殊なインクです!!」

「そんなでまかせ―ー」


 私は言い逃れをする彼女の目の前に一つ残した教科書を突き付ける。

 それには香水を吹きかけており、彼女と同じ色で反応している。

 彼女はあわあわと震え、首を横に振った。

 この人が犯人だと確信した私は、先生の方へ向き、はっきりとした声で宣言する。


「先生、この人が私のロッカーの中身を盗んでいました!!」

「……そうか。今日は自習とする!」


 私の主張に納得した先生は、授業内容を変更した。

 そして、桃色のインクが付着した女生徒の元へ近づき、彼女の腕を掴んだ。


「話がある、生徒指導室まで来てもらおうか」

「……はい」


 彼女は先生に連れていかれた。

 人の物を盗んだ罪は重い。良くて一か月の停学、悪くて退学だろう。

 

(やったわ……!)


 リリアンにやられてばかりだったけど、やり返した。

 この出来事でロッカーの物が盗まれることはないだろう。


「……っ!」


 悪寒がする。

 振り返ってはいけない。そんな予感がした。

 

「調子に乗るなよ……、田舎貴族が!!」


 先生が立ち去ったタイミングで、リリアンが私に怒鳴りつける。

 私はとっさに振り返り、リリアンが掴みかかるのを避けた。

 暴れ出すリリアンをクラスメイトが取り押さえる。


「マリアンヌ、出るぞ!」


 私の前にかばうようにグレンが現れ、強引に私の腕を掴む。

 グレンは私の腕を引っ張り、教室を出て行った。


「ええ!? 勝手に出ていいの!?」

「あれは出たほうがいいだろ。リリアンのご機嫌はクラスメイトに取らせて、お前はどこかに言ったほうことが早く収まる」

「それで、どこに行くの?」

「庭園にでも行くか」


 グレンの言う通り、私があの場にいては激昂したリリアンを静めることは難しいだろう。いない方が上手く行く気がする。

 私とグレンは学校の外へ出て、庭園のベンチに座った。


「手伝ってくれてありがとう」

「ま、まあ……、あいつら度が過ぎてたからな。やりすぎだって思ってたし」


 私が感謝の気持ちをグレンに伝えると、彼は私から視線をそらし、空を見上げていた。

 

(外の空気が美味しい)


 私は外の空気を肺いっぱいに吸う。

 マリアンヌに扮してトルメン大学校に潜入してから、窮屈な生活が続いていた。

 校内で親しくしてくれるのは今までチャールズだけ。

 チャールズ以外の人と話したのは久しぶりだ。


「あっ!!」

「な、なんだよ急に。びっくりするじゃねえか」


 私はあることを思い出した。

 驚くグレンに、私は両腕に香水瓶の液体を吹きかけ、あらわになった桃色のインクを見せた。


「洗っても取れないの! どうにかして!!」

「あ、悪りい……」


 グレンは平謝りしつつ、私の腕に触れる。


 

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