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拾われ令嬢の恩返し  作者: 絵山イオン
第1部 第3章 いじめるリリアン
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命の恩人

 私とチャールズは食堂に着いた。

 けれど、私たちは皆が利用している場所ではなく、別室に案内される。

 そこにはすでに料理が用意されていた。

 トルメン大学校は身分が高いものでも、特別扱いをしないことを校風にしているが、隣国の王子になるとそれは影響されないらしい。

 私はチャールズに促され、席に着いた。使用人に紙ナプキンをつけてもらう。


「さあ、召し上がれ」

「……本当にご一緒してもよろしいのでしょうか」

「遠慮しないでおくれ。君は俺の命の恩人なのだから」


 マリアンヌはチャールズを助けたらしい。

 命の恩人と感謝されるくらいだから、相当なことだ。

 思いつくのは、トルメン大学校に潜む暗殺者からチャールズを救った、だろうか。

 マリアンヌは困った人に手を差し伸べる優しい子ではあるけど、自ら危機に飛び込むような子ではない。暗殺者から身を挺して守ることはしないはずだ。そこまでしてチャールズを救う理由が分からない。


(どうやってチャールズを救ったのか分からないけど、話を合わせなきゃ)


 豪華な昼食に誘われてしまったのだから、とぼけることは出来ない。

 マリアンヌが答えそうな言葉を並べて乗り切ろう。


「お気遣いなさらないでください。私は当然のことをしたまでですわ」

「池で溺れていた俺を助けたことが当然の事……!? マリアンヌはなんて思慮深いんだ!」


 池、トルメン大学校の庭園に大きな池が記されていた気がする。

 チャールズは何らかの理由で溺れ、それをマリアンヌが助けたと。

 マリアンヌの事だ。制服を脱ぎ捨て、下着姿で浮輪を抱えて池に飛び込んだのだろう。それなら、すぐに行動していそうだ。


(だから”命の恩人”なのね)


 溺れていたチャールズを助け、マリアンヌは彼から特別待遇を受けている。

 チャールズの婚約者であるリリアンはそれが気に食わない。

 元凶であるチャールズはリリアンを冷遇し、マリアンヌを敬えと強制する。

 誰も幸せにならない、不幸の連鎖だ。


「ありがとうございます。お食事も美味しいですわ」

「そうだろう! 今日はマリアンヌにマジル国の郷土料理を食べてほしくてね」

「ああ、どおりで初めてみる料理があるのですね」


 塩辛い味がしつつも、深みのある茶色いペースト状の調味料。マジル国では豆を塩で発酵させたものをお湯に溶かしたり、食べ物に塗って焼いたりするのだと授業で学んだ。

 チャールズに勧められるままに料理を口にした。メヘロディ王国は味わえないものだ。


「本日は食事にお誘い頂き、ありがとうございます」

「毎日誘っていた甲斐があったよ。やっと恩返しができる」

「……ごめんなさい。チャールズさまにはリリアンさまという婚約者がいますから、ただの子爵令嬢が受けていいものか考えていましたの」

「ふーん、世間体ってやつか」

「はい、そうですわ」

「なら、どうして今日は俺の誘いを受けたんだ?」

「それは……」


 私は、少し考えた後、チャールズに答える。


「リリアンさまがクラスメイトを使って、私に嫌がらせをするからです」

「……ふむ」


 私は素直にチャールズに助けを求めることにした。

 チャールズがリリアンに”マリアンヌに危害を加えるな”と命令すれば、虐めが無くなると考えたからだ。


「私はそれで困っております」

「例えば?」

「ロッカーに紙ごみや生ごみが入っていたり―ー」


 私が虐めの内容をリチャードに告げ口する。

 ロッカーの下りは事実だが、他はいじめっ子がやりそうなことを列挙した。

 私の話を相槌を打って聞いていたリチャードは、結論を下す。


「まあ、妥当だろうな」

「え?」


 私はリチャードの発言に唖然とした。

 話の流れからして、マリアンヌを助けるところではないのか。リリアンを制裁するところではないのか。これが小説だったらそのような展開になっているだろうに、現実は違った。


「あの下品な女がやりそうなことだ」

「あなたの婚約者の行動に困っているのですが……」

「俺があの女に注意しても、マリアンヌへ仕打ちは止まらないと思うぞ」

「ええ……」

「無くなったもの、壊れてしまったものを提供することはできる。俺が協力できるのはそれだけだ」

「そ、そうですか……」


 味方になってくれないの!?

 私は心の中で、チャールズを非難した。

 けれども、チャールズの意見は間違っていない。一時的に大人しくなるだけで、彼の見えないところで虐めが起こるだけ。気休めの言葉をかけずに、無くなったものを提供すると言っているだけましといったところか。


「俺としても、あの女と今すぐにでも婚約を破棄したい」

「……お気持ち、察します」


 チャールズは大きなため息と共に、本音を吐き出した。


「だが、メヘロディ王国には王女がいない。次に位が高いのがあの女なのだ」

「……」


 メヘロディ王国には二人の王子がいる。一人は王様の補佐をしており、一人は公爵家に婿入りした。

 チャールズの言う通り、メヘロディ王国には王女がいない。だから、リリアンがあてがわれている。


「噂では、国王は王女をひた隠しにしていると聞くが……」

「まさか、国王に隠し子がいると?」

「それがまことであれば、俺は婚約者をそいつにするがな」


 メヘロディ王家に隠し子がいるという噂は初めて聞いた。

 チャールズはフッと笑ったあと「ただの妄想だ」と言い、その話を終わらせた。

 話題が途絶えた私とチャールズは、目の前にある料理を黙々と食べる。

 午後の授業を告げる鐘が鳴り、私たちはそれぞれの教室に帰った。

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