間違っていない
誰かが小瓶に入った液体を口にした後、症状が一致し、ヴィストンが用意した治療薬で完治すれば、ローズマリーが飲んだ毒だと証明できる。
ローズマリーは僕たちにそう提案した。
失望していた彼女の瞳に光が戻った気がする。
きっと、望まぬ相手との結婚を破棄できるチャンスだと思っているのだろう。
「問題は誰がその毒を飲むかだが……」
言葉にせずとも僕らの意見は一致している。
「イスカ兄さまに罪を償ってもらいます」
僕は毒を飲むに相応しい人物を告げた。
☆
数日後、僕は行動に出た。
遠方の公務を終え、フォルテウス城に戻ってきたイスカを僕の部屋に招いた。
「何の用だ」
最近のイスカは僕に対しても苛立っている。
アンドレウスに遠方の公務ばかり押し付けられたからだろう。
イスカよりだった貴族たちからも見放され、孤立している。
(兄さん……、哀れだな)
原因は自分で作ったのに。
イスカは反省せず、ローズマリーの存在を否定し続け、最近では僕のこともうっとうしいと思っているらしい。
(ヴィストンに利用されていることにも気づけないなんて)
僕はイスカの現状を哀れに思う。
ヴィストンの策にのって、アンドレウスが偏愛しているローズマリーに手をかけるなんて、なんてバカなことをしたんだろう。
そんなことをしても、アンドレウスは僕たちに関心を向けるはずないのに。
「兄さん……」
「お前はいいよな、父上に可愛がられて」
棘のある言葉が僕の心に刺さる。
「そんなことないよ」
「お前はフォルテウス城、俺は遠方、どう考えても王位を継ぐのはお前だろ!!」
イスカに怒鳴られ、僕は萎縮する。そして、言葉に詰まった。
「これも、ローズマリーが城に来てからだ! あいつさえ居なければ、俺が王位を継ぐはずだったのに……!」
(兄さん……)
僕は兄さんの罵声を受け止める。
(兄さんは何もかわかってない)
ローズマリーの存在が公になる前から、アンドレウスはイスカを見限っていた。
第一王子だから、今の今まで失態を見逃されていただけ。
でも、イスカはアンドレウスが大事にしているローズマリーを傷つけた。
今までは嫌がらせの程度だったから、僕が間に入って、ローズマリーに実害が及ばないように庇っていた。
僕が中立の立場となり、イスカとローズマリーそれぞれを守っていたのに。
イスカはそれすら気づいていない。
あろうことか、最悪の相手と手を組み、最悪な方法で王位を継ごうとした。
「王位を継ぎたかったから、手段を選ばなかったんだね」
すうっと息を吸い、気持ちを整えてから、僕はイスカに本題を告げる。
「手段? 何のことだ」
僕はメイドに合図し、毒の入った紅茶をイスカに出した。
「ローズマリーの生誕祭、兄さんは多額の借金を負っていた実行犯に借金の帳消しと引き換えに、ローズマリー毒殺を唆した」
「毒? 俺が?」
イスカは笑った。
「そんな作り話、よく考えたな」
「ローズマリーが飲んだのはカルスーン王国で開発されたもの。特効薬はヴィストン第二王子が持っていた。そうだろう?」
毒の内容を告げると笑っていたイスカが口を閉じる。同時に笑みが消えた。
「何度も聴取を受けたが、俺は遠方の公務にあたっている。相手貴族の証言もある。俺がいた場所からフォルテウス城は三日かかる距離だった。そんな状態でフォルテウス城に戻ってくるのは無理ーー」
「魔法がある」
イスカの言っていることは本当だ。
相手貴族の領地で二人会議をしていた。
目撃情報もある。
でも、そのアリバイは簡単に崩せる。
ヴィストン第二王子と共謀しているのなら。
「ローズマリーとグレン殿は魔法で姿を消した。二人はクラッセル子爵邸にいたそうだよ」
「……俺はそんなの知らない」
「ヴィストン殿は"移動魔法"が得意だと聞いていてね、馬車で三日かかる距離でも、魔法を使えば一瞬で移動できるらしいじゃないか」
これはグレンから得た情報。
アンドレウスもカズンも知らない。
メヘロディ王国は魔法に疎い。
ヴィストンとイスカはそこを突いてきたのだ。
「ヴィストンと共謀? でたらめを言うな」
もちろんイスカは認めない。
「証拠は? 俺を犯人扱いするんだから、もちろんあるんだろうな?」
「……」
証拠はこれからつくる。
でも、それはイスカを命の危機においやることになる。
(最悪の場合、僕は兄さんを殺すことになる)
これがイスカとの最後の会話になるかもしれない。
そう思うと、僕はとても悲しくなってきた。
「反論できずに泣くのか? お前はいつもそうだよな」
ポタポタと涙を落としている。
昔から僕はイスカに言い負かされ、反論できず泣いてきた。
でも、今日は違う。
「兄さん……、証拠は兄さんの目の前にあるよ」
「目の前……?」
「紅茶さ」
「まさかっ!?」
僕の言葉でイスカは全てを悟ったようだ。
「兄さんに拒否権はない。アンドレウス国王の命令だ」
「父上が……?」
毒を飲め。
アンドレウスが実の息子に命じたことなのかと言わんばかりの絶望の表情をしていた。
「兄さん、その紅茶を飲み干すんだ」
「……」
「僕たちの会話で湯気立っていた紅茶も冷めてる」
逃げ場のない状況に、イスカは突然高笑いをした。
「とうとう俺は"いらない子"になったか」
僕は沈黙を貫く。
イスカがティーカップを持つ。
その手は震えていた。
「……父上に言いたいことはあるかい?」
紅茶に口をつける寸前、僕はイスカに問う。
「俺は間違ってない。王位を継ぐのは俺だ」
そう言い残し、イスカは冷めた紅茶を一気に飲み干した。
「がっ……!」
すぐに苦しみだし、イスカはその場に倒れた。
次話は3/19(木)7:00に投稿します!お楽しみに!!




