ローズマリーのためなら
その後、俺はウィクタールの要望通り、彼女を連れ、ライドエクス侯爵領へ向かった。
そして、ウィクタールが彼女の祖父に俺のことを懇願した結果、俺は士官学校で騎士を目指すこととなる。
貴族と結婚するに見合う立場になれということだろうが、俺には好都合だった。
騎士になったら、貴族令嬢と結婚できる。
ロザリーに見合う男になれるのだから。
☆
(くそっ、五年前のこと思い出しちまったじゃねえか)
狭い部屋でウィクタールと二人きりになりたくなかった理由、それは関係を持ったあの日のことを思い出してしまうから。
「……まだ、ローズマリーのことが好きなんでしょ?」
返事をしないでいると、ウィクタールが核心をついてくる。
「いいや、俺はーー」
「うそよ。誤魔化さないで」
いつもの癇癪だろうと、俺は愛の言葉を囁こうとした。
だが、今夜のウィクタールはそれに騙されなかった。
「あなたの上着から、ローズマリー毒殺未遂の真犯人ついて書かれてた手紙が出てきたわ」
「っ!?」
俺は上着のポケットを漁る。
そこに入っていた手紙と証拠はなくなっていた。
「他にも、トキゴウ村の襲撃の資料もあったけど……、ルイスがペットボーン公爵領で試験に挑んでいたのは、ローズマリーとヴィストン第二王子との婚約を破棄させるためなんでしょ」
「ウィクタール、手紙と証拠をどこにやった」
それらを抜き取って隠したのはウィクタールだ。
彼女は俺の狙いを全て理解した。
「返してくれ。あれは、トテレスさまの依頼で取ってきたものだ」
「破棄したら、ルイスはローズマリーのところへ行っちゃう。そんなの嫌!」
俺の話を全く聞いてくれない。
仕方なく、俺は身体の向きを変え、ウィクタールの方へ向く。
密着していると、ウィクタールが震えているのがわかる。
これは寒さからの震えではない。俺を失うかもしれないという恐怖からの震えだ。
「私は……、ルイスと家族になりたいの」
ウィクタールの細い指が俺の頬を触れる。
彼女の甘い吐息がかかり、互いの唇が触れ合う。
いつものキスではない、五年前のような熱いキス。
「ウィクタール……」
ウィクタールの言う通り、俺はロザリーを諦めていない。
ロザリーとの約束を果たすためには、ウィクタールが隠した証拠が不可欠。
でも、ウィクタールはトテレスの依頼だと告げても話を聞いてくれなかった。
(ウィクタールから手紙と証拠を取り戻すには……、いや、でも俺はロザリーを裏切りたくない)
手紙と証拠を取り戻す方法。
それはウィクタールの望みを叶えること。
この場で彼女を抱くこと。
だが、それはロザリーを裏切ることになる。
「ルイス」
ウィクタールは俺の手を自身の胸元に誘う。すべすべして柔らかい素肌の感触がして、考え事から現実に引き戻される。
「私、五年前より大人になったよ」
「……」
「お医者様の話だと、今夜、赤ちゃんを授かりやすい日なの」
「だから、ペットボーン公爵領に来たんだな」
「ええ。結婚してから……、なんて待てないから」
ウィクタールは俺と家族になりたがっている。俺との子供を欲しがっていた。
「ねえ、ルイス」
ウィクタールは俺の耳元で囁く。
「ローズマリーのためなら、ルイスは私と愛しあうでしょう?」
「ロザリーのため……」
「このまま何もなければ、ローズマリーはヴィストンと結婚して、愛し合うことになるのよ」
ペットボーン公爵邸に忍び込む前はとても怖かった。ここに何もなければ、ロザリーはほかの男に抱かれる。
ロザリーが他の男のものになる。
俺は何度もその悪夢をみた。
ここで何もしなければ、悪夢は正夢になる。
ウィクタールはふふっと、妖しく笑う。
「私、ルイスとの赤ちゃんが欲しい。叶えてくれるよね?」
「叶えたら、手紙と証拠を返してくれるな」
「ええ。約束する」
「……わかった」
ロザリーが知ったら、ショックを受けるだろう。俺を罵り、嫌われるかもしれない。
でも、これはロザリーのため。
俺は覚悟を決める。
ウィクタールを床に寝かせ、彼女の上に乗る。
俺は服を脱ぎ、裸になる。
(真っ暗でウィクタールの顔が見えないだけ、救いだな)
洋灯が消えた馬車の中は真っ暗で、ウィクタールの姿がはっきりと見えない。
(ごめん、ロザリー。これは、お前のためなんだ)
心の中で、ロザリーに謝り、俺はウィクタールと五年前のように愛し合った。




