馬車の中で二人きり
「ルイス、起きた?」
目覚めるとすぐにウィクタールが声をかけてきた。
寝ぼけていた俺は、ウィクタールを見て夢の続きかと思ったが、すぐに現実であることに気づく。
「少しのつもりだったんだが……、ぐっすり眠っていたな」
「ええ。いつもは少し肩を叩くだけで目をさますのに、今回は少し身体を揺らさないと駄目だったもの」
どうやら俺はウィクタールに起こされたようだ。
彼女が傍にいる時は、何が起こってもすぐに起きれるよう意識しているというのに、気がゆるんでいたようだ。
「馬車が止まってる……」
「宿に着いたの。だから――」
「まだここはペットボーン公爵領だろ!? 俺は――」
「ええ。だから用意したのは御者の部屋だけ」
ウィクタールが俺を起こしたのは宿屋に到着したから。
だが、俺はペットボーン公爵の屋敷からローズマリー暗殺の証拠を持ち出した重罪人。領内の警備兵や騎士たちに追われている身だ。
そんな俺がペットボーン侯爵領の宿屋で一泊するのは危険である。
どうぞ捕まえてくださいと痕跡を残しているものだ。
ウィクタールに文句を言う途中で、彼女の人差し指が俺の唇に触れ、彼女に発言を遮られる。
「ルイスと私はこの馬車で一緒に眠るの」
「は?」
「ルイスが座っている椅子に折りたたまれている板を伸ばしてベッドにしたいから、起こしたの」
「ちょっと待て。ウィクタール、今なんて――」
俺とウィクタールが馬車の中で一緒に寝る!?
ウィクタールの発言に俺は動揺した。
聞き間違えであって欲しいと、俺は聞き返す。
「ルイスと一緒に馬車で眠る。そう、言ったわ」
「ウィクタール、それは駄目だ。お前も宿屋で部屋を取れ」
「いや」
聞き間違えではなかった。
俺はすぐに拒否した。
宿屋で部屋を取ってそっちで眠れとウィクタールに告げた。
ウィクタールも引き下がらない。
「馬車の荷物を盗む野党が現れるかもしれない」
「野党くらい、ルイスが追い払ってくれる」
「……馬車の中は寒いぞ。宿屋のあったかくてフカフカなベッドで眠ったほうがいいって後悔する」
「暖かいルイスがいるから平気よ」
「……仕方ねえな」
馬車で眠るデメリットを告げてみたものの、即座にウィクタールに論破される。
じっと睨み合う俺とウィクタール。
ウィクタールは絶対に引き下がらない。
悟った俺はため息交じりで、ウィクタールと共に馬車で眠ることを了承した。
それを聞いたウィクタールは鼻歌混じりで支度をする。
本来は御者が馬車の中で眠るための組み立て式のベッド。
俺が座っていた椅子にはベッドにするための木材が差し込まれており、それを引っ張り出すと大人が足を伸ばして眠れるベッドになる。
天井に置かれている荷物の中に毛布があり、それを身体に掛けて眠るのだ。
俺は周りに人がいないことを確認してから、毛布を引っ張り出し、それを馬車に持ち込む。
その間にウィクタールはベッドに横になっていた。
脱いだドレスが雑に置かれている。
「……」
「ルイス、一緒に寝よう」
意を決し、俺はウィクタールの傍で横になる。
すぐにウィクタールから背を向け、毛布をかぶった。
「どうして背を向けるの?」
「そりゃ――」
下着姿のウィクタールを直視したくなかったから。
従者の時は仕事だと割り切って、彼女の着替えを手伝っているが今は状況が違う。
今の俺はウィクタールの婚約者。
立場上、恋人だ。
俺はずっと避けていたけど、ウィクタールはこの時を狙っていたのだろう。
「私と愛し合うのは……、いや?」
「……」
俺の背にピタッとウィクタールがくっつく。
柔らかい感触にほんのりと体温を感じる。
耳元で囁かれ、ビクッと身体が震える。
「そういうのは……、結婚してからにしようって話し合っただろ」
「どうして?」
「だって――」
「初めてじゃないのに」
ウィクタールは俺に事実を突きつける。
俺とウィクタールは愛し合ったことがある。
五年前、俺がウィクタールの従者として仕えて二年目の頃だ。




