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拾われ令嬢の恩返し  作者: 絵山イオン
第3部 第5章 ルイスの試練

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嘘を吐く

 士官学校の長期休暇が終わり、最終試験の時期になった。

 俺は荷物をまとめ、ライドエクス侯爵邸を出る。

 屋敷の外には、カズンが用意してくれたペットボーン公爵領行きの馬車が止まっていた。

 カズンが俺にそのような措置をしてくれるのは、ウィクタールとの結婚が決まったから。俺がライドエクス侯爵家の人間になるからである。 


「ルイス!」


 ウィクタールが見送りに来た。

 俺はウィクタールに抱きしめられ、引き留められる。


「騎士になれたのに、どうして最終試験を受けに行くの?」


 結婚が決まってから、ウィクタールは俺にべったりだ。そんな彼女が疑問を口にする。

 俺はアンドレウス国王から騎士勲章を貰った。

 最終試験の結果はそれに左右されない。つまりは受けなくてもいいのだ。

 ウィクタールとしては、結婚式の準備を俺と共に進めたいのだろう。


「それは――」


 理由を言い留まる。

 俺がペットボーン侯爵領へ向かうのはトテレスの依頼をこなすため。

 もし、トテレスの情報が本当で、そこに証拠があれば、ロザリーとヴィストンの婚約は破棄される。

 だが、この目的はカズンにも話していない。

 俺とロザリーの逢引きを屋敷の誰かがアンドレウスに密告していたという事実がある以上、屋敷の人間は誰も信用できない。


「試験をサボって騎士勲章を貰ったってなると、色々面倒なんだよ」


 事実を告げるも、ウィクタールは眉を吊り上げ、納得していない様子。


(……仕方ねえな)


 こんな状況でもウィクタールを納得させる方法がある。

 俺はウィクタールに近づき、彼女の唇を奪った。

 唇を離すと、突然のキスにウィクタールは目を丸くし、頬が真っ赤になっている。


「離れても、俺はウィクタールを愛してる」

「ルイス……」


 それは嘘を吐くこと。

 本当はロザリーが好きなのに、ウィクタールに愛の言葉を述べること。

 でも、ウィクタールは俺の本心に気づいていない。


「私もルイスのこと……、愛しているわ」


 照れながら、ウィクタールは俺の右手にそっと触れる。

 右手の薬指には、婚約指輪を付けている。

 ロザリーに贈った大切な指輪のはずなのに、対になる指輪はウィクタールの右手で輝いている。


「でも、ルイスが傍にいないなんて……、寂しい」

「三か月いなくなるだけだ」

「その後は……、私と一緒にいてくれる?」

「ああ。結婚式が終わったら、ライドエクス侯爵領で一緒に暮らすんだからな」

「領地にいるお爺様もきっと喜ぶわ」

「だから、ちょっとだけ我慢してくれ」

「……ちょっとだけよ」

「じゃあ、行ってくる」


 俺はウィクタールに背を向け、馬車に乗った。


「ごめん……、ロザリー」


 馬車に乗り、一人になった直後、俺は謝罪の言葉を呟いた。

 それから一週間後、俺は最終試験場であるペットボーン侯爵領に着いた。



 最終試験では、俺は先輩や同期から嫌われていた。


「なんであいつがペットボーン侯爵領を選ぶんだよ」

「ライドエクス侯爵の令嬢と結婚が決まったんだろ? だったらそっちに行ってくれよな」


 俺が気にしないフリをしていることをいいことに、同期が俺の悪口を言う。

 ペットボーン侯爵領を選んだ同期は、ほとんどがカズンに敵対する派閥の子息たち。

 カズンの権力が強かった時は、嫌な顔をするだけで俺に対して何も言ってこなかったが、ロザリーの生誕祭で失態を起こした今では均衡状態にある。

 ウィクタールと婚約し、ライドエクス侯爵家の一員となる俺に嫌味が飛んでくるのは必然ともいえる。


「ルイス! ここにある荷物、全部屋敷に持っていけ」


 先輩たちも俺に雑用を押し付ける。


「一人で全部だ。手伝わせたら減点するからな」


 山積みの荷物。

 到底、一人で運ぶ量ではなく、嫌味を言っている同期とと共にやる仕事だ。

 だが、先輩たちは俺にすべて押し付ける。

 ”減点”という脅しをかけて。


「……承知いたしました」

「なんだ、その反抗的な返事は」

「……」

「ウィクタールさまと婚約したからって調子に乗ってるだろ」

「いえ――」

「噂では、ローズマリーさまとも仲が良かったらしいな」


 先輩が痛いところを突いてくる。

 俺とロザリーの関係は広く知れ渡っている。

 恋人関係だったことがアンドレウスにバレ、互いに婚約者をたてることで関係を強制的に終わらせられたことも。


「お前、顔だけはいいからな。弄ばれたローズマリーさまが可哀そうだぜ」

「……」


 俺は先輩たちを睨みつける。

 ロザリーを侮辱された。

 だが、ここは最終試験場。

 結果が反映されないとはいえ、怒りに任せて先輩たちを殴って騒ぎを起こしてしまったら、試験が強制終了になってしまい、トテレスの依頼をこなすことができない。

 俺は拳を強く握って、込み上げる怒りを静め、一つ荷物を持った。


(嫌な奴らばっかだけど、いいこともある)


 荷物を運ぶときは一人で過ごせること、そして、荷物の運び先がペットボーン侯爵の屋敷だということ。

 自然な形で屋敷内を歩き回ることができる。


(トテレスさまがいう証拠……、絶対見つけ出してやる)


 俺はその目的を達成するためだけに、執念を燃やす。

 

 

次回は12/25(木)7:00に投稿します!

お楽しみに!

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