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拾われ令嬢の恩返し  作者: 絵山イオン
第3部 第5章 ルイスの試練

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誰に頼れば

「トテレスさまはヴィストンに失脚させられるとお思いなのですね」

「まあね」


 イスカはともかく、アンドレウスの公務を一部引き継いでいるトテレスをどうやって王位継承権をはく奪させるのか。


「ヴィストン殿は父上に上手く取り入っている。今は無理でも、数年すれば、何かしらの罪を僕に擦り付けてくるだろう」


 ヴィストンは新薬でロザリーの後遺症を回復させた存在。そのおかげで、ロザリーの婚約者にもなれた。

 ヴィストンはイスカやアンドレウスの懐に入り込んでいる。

 きっとイスカは今回の事件の首謀者としてアンドレウスに裁かれる。ヴィストンは告発者として、更にアンドレウスに気に入られるだろう。


「今すぐには行動に起こさないだろうけど、数年後……、僕が王位を継ぐときになったら――、似たような事件を起こして僕を犯人に仕立てあげると思う」

「それが現実になって、トテレスさまが王位をはく奪されたら――」

「妹が王位を継ぐことになる。このまま進めば、ヴィストン殿は妹を傀儡にして政治をするだろうね」

「メヘロディ王国がヴィストンに乗っ取られる……」


 ヴィストンにメヘロディ王国が乗っ取られれば、カルスーン王国びいきの政治が始まるに違いない。

 それに気づいたとしても、アンドレウスは絵に夢中だろうし、ロザリーは俺との駆け落ちにしか興味がない。二人ともメヘロディ王国がどうなろうと無関心のはず。


「僕はイスカ兄さんも護りたいし、ローズマリーも護りたい。どちらの味方でもありたい」


 中立のトテレスが俺に依頼をし、自分から動こうとしている。

 俺はトテレスの気持ちに応えたいと純粋に思った。


「胸の内を打ち明けてくださりありがとうございます」


 俺はその場に立ち上がり、トテレスに頭を下げ、礼を言った。


「……ルイス君、まだ時間はある?」


 話が終わるかと思いきや、席を立ち、トテレスが俺を引き留める。

 俺はウィクタールとデートする約束を思い出し、少し悩んだが、トテレスを優先した。


「あります」

「じゃあ、少し城内を寄り道しようか」

「寄り道……?」


 トテレスは従者を連れ、部屋を出た。

 俺は疑問に思いつつ、トテレスの背を追う。

 トテレスはスタスタと歩く。


(あ――)


 歩いていると、ヴァイオリンの音色が聞こえた。

 きっとロザリーがヴァイオリンの練習をしているんだ。


「トテレスさま、貴方様でもこの部屋には――」


 トテレスの行く手を騎士が阻む。

 ここで騎士に阻まれるということは、たとえ兄妹でも直接会うことを許されていない、ということ。

 トテレスは騎士の言うことを素直に聞き、立ち止まる。

 騎士の安堵の表情が浮かんだ。


「夜会を除いて、妹を感じられるのはこのヴァイオリンの音色だけ」

「ロザリー」

「今日は悲しい音色が聞こえるね」


 トテレスの呟きの通り、ロザリーのヴァイオリンの音色には悲しみが込められているように感じた。


「さあ、今度こそ城の外まで送るよ」


 トテレスが言った”寄り道”とは、俺にヴァイオリンの音色を聴かせたかったのだろう。

 トテレスとの会話から、彼は何度もこの場所に足を運んでいる。ロザリーのヴァイオリンを聞いて、彼女の身を案じている。


(ロザリー、俺が証拠を持ってきて、ヴィストンとの婚約をぶっ壊すからな)


 俺は心の中でロザリーに近い、トテレスと共にフォルテウス城を出た。



 城外ではライドエクス侯爵の家紋がついた馬車があった。


「カズンは軍の馬を借りて、屋敷に帰ったようだね」


 馬車は俺が屋敷に帰る用に残してくれたみたいだ。


「トテレスさま、必ずペットボーン公爵領から証拠を手に入れます」

「頼んだよ」


 別れ際、俺はトテレスに証拠を持ってくると宣言し、馬車に乗った。

 少し経ち、馬車が動き出す。

 フォルテウス城から離れてゆく。


「ロザリー、何年も待たせねえ」


 馬車の中、俺はロザリーの言葉を思い出す。


 ――何年でも待ってる。


 ロザリーは俺と共に暮らす未来を諦めていない。

 自分や俺が誰かと結婚しようとも、何年経ってもその未来を掴もうとしている。

 俺は何年も待ち続けるのが辛いことを知っている。

 俺は八年もロザリーに片想いしていたのだから。


「約束……、ちゃんと守るから」


 二年後、ロザリーと結婚する。

 俺はその約束を守りたい。


「そのために俺の結婚も……、どうにかする」


 問題はロザリーだけではない。

 ロザリーと結婚するには、俺とウィクタールの結婚を破棄しなくてはいけない。

 今まではウィクタールの我儘だったが、今回はアンドレウスの命令。

 カズンを説得するだけでは解決しない。

 別の方法が必要だ。

 だが、今の俺はその方法が思いつかない。


(俺の結婚を破棄するには誰かの協力が不可欠。でも、誰に頼れば……)


 この問題は俺一人では解決できない。

 誰を頼ればいいのか。

 依頼を受けたトテレスか、友達のグレンか、ロザリーに変装できるマリアンヌか――。

 その答えはライドエクス侯爵邸に到着しても、出なかった。


次話は12/18(木)7:00に投稿します!

お楽しみに!!

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