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拾われ令嬢の恩返し  作者: 絵山イオン
第3部 第5章 ルイスの試練

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王子たちの企み

「なっ!?」


 驚きのあまり、思わず声が出た。

 トテレスの依頼内容に俺は耳を疑った。

 だが、トテレスの表情は真剣そのもの。


「ちょっと性急すぎたね。カズンならともかく、ルイス君には事情を説明しないと」


 俺の反応を見たトテレスが呟く。

 トテレスは二つ目の焼き菓子を手に取り、ほうばる。


「ルイス君は王家のこと、どれくらい知ってる?」

「どれくらいと申しますと……」


 俺は知ってる限りのことを話した。

 アンドレウス国王は娘のローズマリーを溺愛していて、常に傍に置いている。

 息子であるイスカとトテレスは必要最低限の付き合いで、特にイスカは冷遇されている。そのため、王位継承はトテレスになるだろうと、カズンを含む臣下たちはそう思っている。


「うん、僕と父上、兄上の関係はそんな感じだね。この調子だと噂は現実になるだろう」

「トテレスさまでもロザリー、いえ、ローズマリーさまには――」

「全然会えない。妹のヴァイオリンの音色を耳にするくらいだ」

「そうですか……」

「君は妹のことを”ロザリー”と呼ぶんだね」

「俺にとって、あいつはロザリーなんです」


 ロザリーの悲しい顔。

 思い出しただけで胸が締め付けられる。


「カルスーン王国との夜会……、僕も参加してたんだけど、妹の婚約者が発表された途端、パニックになってね」

「パニック……」

「妹が『嫌だ!』って騒ぎだしたんだ。夜会はそれで中断。以降、妹は退席したまま。会場に戻ってこなかった」


 ロザリーは必死に抵抗したのだ。

 トテレスから夜会の様子を聞いて、事情を知らない人たちはさぞ混乱しただろう。


「そのせいだろうね、世間もこの婚約を祝福していない」

「……」


 俺はトテレスの従者から新聞を受け取る。

 その間、トテレスは三個目の焼き菓子を口にしていた。

 新聞には昨日の夜会で、ローズマリーの婚約者が発表されたことについて大見出しで取り上げていた。

 だが、ローズマリーは婚約者を拒絶しており、他に想い人がいるのではないかと推測する文面が書かれている。


「さっき、君は父上と話していたね」

「ロザリーと会いたいなら、ウィクタールと結婚しろと言われました」

「そうか……」

「俺はロザリーのあんな悲しい顔は見たくない。だから、ヴィストンの婚約がなくなる手段があるなら……、俺は協力します」

「なら、僕の依頼は君にも都合がいい」

「はい。トテレスさまの依頼、引き受けます」


 トテレスが言う、イスカとヴィストンの企みの証拠が見つかれば、ヴィストンとロザリーの婚約は破談になる。

 ロザリーの悲しみを一つ取り除くことができる。


「ペットボーン公爵の屋敷が一番怪しい。君は最終試験中にそこへ忍び込み、証拠を手に入れるんだ」

「承知いたしました」


 アンドレウスとの会話で最終試験へのモチベーションが下がっていたが、トテレスの依頼でぐんと上がった。

 話題はここで途切れた。

 トテレスは紅茶を飲み干しており、本来なら、ここで退席するタイミングだろう。

 だが、俺はトテレスに聞きたいことがある。


「一つ、聞いてもよろしいでしょうか?」

「いいよ」

「トテレスさまはどうやってイスカさまとヴィストンの企みを知ったのでしょうか」

「それは……、グレゴリーが教えてくれたんだ」

「グレンが……?」


 唐突にグレンの名前が出てきて、俺は首をかしげる。

 グレンは俺の友達であり、カルスーン王国の第五王子。ヴィストンの弟だ。

 トテレスとどうやってつながったのだろうか。


「僕とグレゴリーは”ピストレイ”の曲が大好きでね。演奏会の時に何度か顔を合わせているんだ」


 疑問はトテレス自身が答えてくれた。

 俺は興味ないが、グレンは音楽がとても好きだ。

 特にピストレイ・クラッセルの楽曲が好きで、演奏会にもよく足を運んでいた。

 そこでトテレスと親しくなったらしい。


「グレゴリーに生誕祭で起こった話をしたら……、妹の症状や処方された薬について色々質問されてね、資料を集めてゆくうちに、首謀者がヴィストン殿ではないかという可能性が浮上したんだ」

「ヴィストンが……、ロザリーに毒を――」

「でも、この作戦は魔法があるとはいえ、ヴィストン殿だけでは達成できない。カズンを陥れるための実行犯を用意し、オリオン君を妹の婚約者から外す作戦を立案した協力者がいる」

「それが……、イスカさま」

「イスカ兄さんならやるだろうね。妹が毒で苦しもうが、平気だろうさ」


 ロザリーは毒で死の淵を彷徨い、激痛で苦しんでいた。

 その元凶がヴィストンとイスカであるならば、絶対に許しはしない。

 俺は拳を強く握り、込み上げる怒りを鎮める。


「グレゴリー曰く、ヴィストンは妹の婚約者になりたがっていたらしい。公務でアンドレウスに会うたびに婚約の話を口にしていたとか」

「それは、ヴィストンがロザリーに惚れたから」

「ではないね。グレゴリーも断言していたよ」

「何故、ロザリーに執着するんですか?」

「それは……、権力だ」


 権力。

 だが、俺はピンと来ていなかった。

 王位を継ぐのは目の前にいるトテレスであり、ロザリーはアンドレウスの愛娘。

 傍に置いておきたいだけで、結婚したとしてもそれが覆ることはない。


「ロザリーと結婚しても、アンドレウスさまはトテレスさまに王位を継がせるかと」

「妹が王位を継ぐことはない。そうしたら、絵を描く時間なんて無くなっちゃうからね」

「ですよね」


 アンドレウスの願いはロザリーと共に絵を描くこと。

 もし、ロザリーが王位を継いだならそんな時間はない。

 現状、アンドレウスがロザリーに王位を継がせることなど断じてない。


「でも、僕とイスカ兄さまが失脚したら……、妹に危害を加える事件を起こしたと冤罪を掛けられたら、父上は僕らを王族から外す。フォルテウス城から追い出す」

「ま、まさかヴィストンは――」

「僕らを追い出し、妹に王位を継がせ、メヘロディ王国を乗っ取るつもりだ」


 ヴィストンの狙いはロザリーとの結婚を足掛かりに、イスカとトテレスを失脚させ、自身がメヘロディの王となること。

 それがヴィストンの最終目標。彼が求める”権力”なのだ。

 

次話は12/11((木))7:00に投稿します!

お楽しみに!!

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