トテレスの依頼
「ルイス、アンドレウスさまの話は本当か?」
「……本当です。俺はロザリーと交際していました」
応接間を出てすぐ、カズンが俺とロザリーの関係について問う。
俺たちはフォルテウス城の出口へ向かいながら会話を続けた。
先ほどの話は全て本当だとカズンに述べる。
「お前が婚約指輪を贈った相手は……、ローズマリーさまなのだな」
「はい。ですが、指輪は――」
指輪はウィクタールに奪われた。
あの時、ロザリーは指輪を無くしてしまったことをひどく悲しんでいた。
俺が贈った指輪はロザリーの支えになっていたものの一つ。
「ウィクタールの手にありました」
「……昨日、ウィクタールがローズマリーさまのメイドと揉めていたと報告を受けている。その時にローズマリーさまの私物が壊れ、片づけたと」
カズンの話を聞き、俺は顔が真っ青になる。
ロザリーの宝石箱。
そこには、マリアンヌとの思い出の品、三人で買ったペンダントも入っていたはず。
それらも全てウィクタールに奪われたのだろうか。
大切な宝石箱を失い、ロザリーは今どのような心境なのだろう。
「沢山の手紙が入っていて、それらは中身を読まずすべてフォルテウス城へ送った」
「その手紙は――」
「お前がローズマリーさま宛に書いた手紙なのだな」
「そう……、だと思います」
「もしもの話だが……」
カズンが俺にもしもの話をする。
「お前を養子にし、ローズマリーさまの婚約者としていたら――、ローズマリーさまは婚約発表を先延ばしにせず、すぐに発表していたか?」
「していたはずです」
「そうか」
以降、俺とカズンは会話をすることなく、フォルテウス城を出た。
あとは馬車に乗り、ライドエクス侯爵邸へ帰るだけ。
(帰ったら午後……、ウィクタールのデートには間に合いそうだな)
何も行動に出なければ、俺はウィクタールと結婚する。
長年の願いが叶い、ウィクタールは大喜びするだろう。
トルメン大学校を退学し、結婚式の準備に集中するに違いない。
そうなれば、ロザリーとの約束を果たすのにどれくらいの年月を要するだろうか。
アンドレウスがもう俺たちの関係は終わったと油断するまでにどれくらいかかるだろうか。
「カズン殿!!」
屋敷へ帰る直前、カズンが誰かに引き留められる。
「トテレス第二王子」
カズンを引き留めたのは、ロザリーの腹違いの兄、トテレスだった。
トテレスは本題を話す前に呼吸を整えていた。
偶然、俺たちを見かけて引き留めた様子。
「大丈夫ですか?」
「平気平気。全力で走ったのはとても久しぶりなんだ。体力がないと困っちゃうね」
トテレス第二王子は次期国王候補として期待されている存在。
アンドレウスの仕事を一部、引き継いでおり、いつ王位継承されるかと噂されてる。
「私に御用とは?」
「えっと、用があるのは君が期待している士官学生の子なんだけど」
「ルイスのことですか?」
「そうそう!」
「殿下が俺に……?」
「君がルイス君なんだね!」
「はい。俺がルイスです」
「ルイス君、初めまして! 早速だけど、僕の部屋に来てくれないかな?」
俺はカズンの顔色をうかがう。
カズンは「行け」と言わんばかりの顔をしている。
「帰りの馬車は僕が用意するから! さあ、行こう」
トテレスに腕を掴まれ、ぐいぐいとフォルテウス城へ引っ張られる。
訳も分からず、俺はトテレスと共に、フォルテウス城へ入った。
☆
「さあ、遠慮なく飲んで食べて!」
「……あの、俺に話とは」
トテレスの部屋は画材と何かの設計図で溢れていた。
壁にはトテレスが造ったであろうフォルテウス城の模型や、どこか分からない風景画が飾られていた。
トテレス第二王子は設計と風景画が得意だと聞いていたが、私室に作業場を用意するほどに熱心だとは。
トテレスの部屋を見渡した後、目の前に置かれたお茶と山ほどの菓子を見る。
(ただ俺と喋りたいだけなのかな)
士官学校の友達の家に招かれた時と同じもてなし方をされている。
「君にお願いしたいことがあるんだ」
トテレスはクリームがたっぷりついたカップケーキを頬張りながら、満面の笑みを浮かべている。
甘いお菓子が大好きな人なのだろうと、俺は用意された紅茶に口をつけながらそう思った。
「ローズマリーが生誕祭に毒を盛られたことは知っているね」
「もちろん」
(お菓子を食べながらする話じゃねえだろ)
俺はトテレスの問いに返事をしながら、同時に彼に心の中でツッコミを入れた。
「調査の結果、お金に困っていたカズンの部下が何者かにそそのかされ、犯行に及んだ」
先ほどアンドレウスも似たようなことを言っていた。
「実行犯はすぐに特定され、お父様の手で死刑になった。でも、首謀者はまだ見つかっていない」
トテレスの言う通り、毒を盛った犯人は捕まえたがその毒の調達先について、アンドレウスは口にしなかった。
その件については後でカズンと確認しよう。
「妹は一命をとりとめ、ヴィストンさまが用意した新薬のおかげで全快した」
ヴィストン、それがロザリーの婚約者の名だろう。
俺はトテレスの話に頷く。
「そこまでが父上、僕、君が共通で認識している話」
カップケーキを満足げな顔をして食べ終えたトテレスが、一変。真剣な表情に変わる。
「僕はこの事件の真相を明らかにするために、君に調査をお願いしたい」
「調査……?」
「ペットボーン公爵邸に証拠が残されているかもしれない」
ペットボーン公爵領。
俺が最終試験の実地試験に選んだ場所だ。
ペットボーン公爵はロザリーを目の敵にしている貴族の代表格。
ロザリーの命を狙う計画がされているのではないかと思い、最終試験ついでに情報を得ようと考えていた。
その選択が今、活きるとは。
「イスカ兄さまとヴィストンさまが共謀して、ローズマリーに毒を盛った証拠が」
トテレスは俺の前でとんでもないことを言い出した。
次話は12/4(木)7:00に投稿します!
お楽しみに!!




