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拾われ令嬢の恩返し  作者: 絵山イオン
第3部 第5章 ルイスの試練

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何年でも待ってる

「ロザ――」


 泣いているロザリーに触れようと手を伸ばす。


「娘に触るな」


 アンドレウスの冷酷な一言で、手が止まる。


「本来なら、娘をたぶらかした罪として死刑なのだが」


 アンドレウスがロザリーに触れ、彼女の背を優しく撫でている。

 だが、ロザリーは泣き止まない。


「だめ、ルイスを奪わないで」

「ローズマリーはこれまで、自分の育て親、孤児院の子供たちと沢山のものを失っている。これ以上大切なものを奪ったら、絵を描く気力すら失うだろう」

「だから俺は……、生かされているんですか?」

「ああ。今はね」


 今は。

 これは俺とロザリーへの警告。

 ロザリーと駆け落ちでもしようものなら、命はないと。


「ルイス、お願い、遠くに行ったりしないで」


 遠くに行く。

 以前、俺は『ロザリーが他の男と結婚するなら、見たくない。他国へ去る』と言った。

 ロザリーは俺の発言を覚えているのだろう。

 もう、俺に会えなくなってしまうのではないかと不安がっている。


「ルイス君、再びローズマリーと会いたいのであれば……、君も相手を決めなさい」

「俺に……、結婚相手を決めろと」

「そうだ。カズンの娘が丁度いいのではないかね。そうだろ、カズン」


 アンドレウスは俺の意見を決めずに話を進める。


「え、ええ。ウィクタールもそれを望んでいます」


 急に話をふられたカズンは、はっとした表情を浮かべるも、すぐにアンドレウスの問いに答える。


「なら、すぐに結婚式の準備をするといい。式は騎士勲章授与式の当日にしなさい」

「陛下、それではルイスが――」

「騎士勲章であれば――」


 アンドレウスが傍にいた従者に視線を送る。

 従者が動き出し、テーブルの上に騎士勲章を置いた。


「今、差し上げよう。ルイス君を特例で騎士に任命する」

「なっ」

「騎士という肩書がなければ、ローズマリーと話すのに都合が悪いだろう? ルイス君の成績であれば、最終試験の成績を待たずしても合格だ」

「そ、それは……」

「ふむ……、ではこうしよう」


 カズンの反応を見て、アンドレウスは条件を変える。


「最終試験は受けてもらう。その成績関係なしにルイス君は騎士勲章を授与する。この件はこの場にいる者だけの秘密とする。そうすれば、ルイス君の立場も守れるよね」

「ご配慮、ありがとうございます」


 カズンとアンドレウスの間で俺とウィクタールの結婚の計画が進んでゆく。

 日程も騎士勲章授与式の当日。

 これで、俺とロザリーが結婚する道は完全に塞がれた。


「ルイス君の結婚式にはローズマリーを出席させる」

「っ!?」


 俺とウィクタールの結婚式にロザリーが出席する。

 それは、俺の結婚をもって、俺たちの関係が完全に終了したことになる。


「いいね、ローズマリー」

「……はい。お父様」


 ロザリーはアンドレスの要求を受け入れた。


「話はこれで終わり。二人とも話を聞いてくれてありがとう」


 俺の主張も聞かずにアンドレウスは一方的に話を断ち切った。

 ロザリーの手紙に『お父様は私の話を聞かずに勝手に予定を詰める』と文句が書かれていたが、その通りだ。


「では陛下、私たちはこれで失礼します」


 俺とカズンが席を立つ。

 ロザリーはアンドレウスの隣で泣いたまま。


(ロザリー)


 今のロザリーをみているのはとても辛い。

 叶うなら、ロザリーを抱きしめて、安心させてやりたい。

 そして、ロザリーの笑顔がみたい。


「ルイス、行くぞ」


 カズンに呼ばれるまで、俺はロザリーを見つめていた。


「はい、カズンさま」


 俺はカズンと共に部屋を出ようとする。


 トン。


 背後から誰かに抱きしめられた感触がした。


「ローズマリー!!」


 アンドレウスの慌てた声。

 ということは、この感触は――。


「ルイス……、ウィクタールと結婚しても、私はずっとルイスのこと、愛してる」


 ロザリーの声。

 振り返ると、すぐ傍にロザリーがいた。


「何年でも待ってる。だから……、一緒にここから逃げよう」


 俺にしか聞こえない小さな声で、ロザリーは俺との駆け落ちを願う。

 まだ、ロザリーは諦めていない。

 俺と一緒になることを何年かかっても遂げようとしている。

 次はない、そうアンドレウスに言われても。ロザリーは俺と一緒に暮らす未来を願っている。


(あ、この香りは――)


 ロザリーの髪からふわりと甘い香りがした。

 それは俺がロザリーを想って作った、香水と似ている。


「待っててくれるか?」

「うん。信じてるから」


 短い会話。

 それでも、ロザリーと強い絆を感じられた。


「ルイス君に抱き着くなんて……、いけない子だ」


 ロザリーを抱きしめようと手を伸ばしたが、アンドレウスに引き離される。

 ロザリーは俺を求めて、手を伸ばす。


「あ……」


 その薬指には、いくつかの小さな宝石をあしらった金の指輪がはめられていた。

 カルスーン王国第二王子がロザリーに贈った、婚約指輪だろうか。

 ロザリーはアンドレウスに連れられ、俺が入った場所とは違う別のドアから退席した。


(ロザリー、新しい約束……、今度こそ守るから)


 俺はロザリーとした新たな約束を胸に、応接間を出た。

次話は11/27(木)7:00に更新します!

お楽しみに!!

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