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拾われ令嬢の恩返し  作者: 絵山イオン
第3部 第5章 ルイスの試練

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引き裂かれた仲

 ウィクタールのキスを受け入れた直後、俺は我に返り、ウィクタールを突き飛ばす。


「いたっ」


 身体をソファの肘にぶつけ、ウィクタールが痛がっていた。


「ご、ごめん」


 ルイスはすぐにウィクタールに謝った。


「まず、顔を拭いてドレスに着替えよう。髪も結わえてやるから、な」

「……ルイスが手伝ってくれるなら」


 ウィクタールはぶつけた箇所をさすりつつ、クローゼットを開けた。

 クローゼットにはワンピースとドレスがこれでもかと並んでいる。


「ルイス、今日はどれが似合うと思う?」


 ドレスを選ばせるのも、俺をウィクタールの部屋に長く居させるための常套句。

 本来はメイドの仕事だが、ウィクタールはこれを全て俺にやらせる。

 ウィクタールの身体は十一歳の頃よりもはるかに女性らしくなった。

 ロザリーよりも背が高く、手足が長く、スタイルがいい。

 顔立ちもライドエクス侯爵夫人に似て美人だ。

 同じ年頃の貴族たちがウィクタールに見惚れ、求婚するのも頷ける。

 それなのに、ウィクタールは全ての求婚を断り、平民の俺を求める。

 俺はそれに今まで応えてこなかった。

 でも――。

 ロザリーとの結婚の道が絶たれたことを聞かされ、一瞬、俺の意思が揺らいだ。

 ウィクタールとキスをしてしまった。


(このままだと、俺はウィクタールと――)


 ウィクタールと結婚してしまうかもしれない。

 ロザリーを裏切ってしまうかもしれない。


(ロザリーには『結婚できなかったら国を出ていく』って言ったのに……、本当のことになったら、ウィクタールの言葉に甘えようとしてるなんて)


 俺は自分の気持ちの弱さに呆れた。


「ルイス?」

「そうだな……」


 ウィクタールに声をかけられ、俺はウィクタールの服選びに付き合う。



 ウィクタールの世話が終わり、軽装に着替えた俺は、稽古場へ向かった。


「カズンさま……」


 そこには主であるカズンとオリオンがいた。

 二人は何かを話していたようで、オリオンが落ち込んでいる。


(カズンさまがフォルテウス城から戻ってきている。もしかしたら、ロザリーの婚約者がカルスーン王国の第二皇子になったことを話したのか?)


 ウィクタールの話は本当だったのだ。


「ルイスか」


 カズンが俺の存在に気づく。


「カズンさま、オリオンさまと一体何を――」

「オリオンとの稽古は中止だ。私と共にフォルテウス城へ向かうぞ」

「は、はい」

「私が用意する服にすぐに着替えろ」

「承知いたしました」


 俺を見つけるなり、カズンは俺に二つ命令する。


(俺がフォルテウス城に?)


 稽古場を出て、カズンが用意した服をみる。

 それはオリオンの正装だった。

 カズンの命令に疑問を覚えつつも、俺はそれを着る。

 手足の袖が短いが、上着を着れば大丈夫だろう。


「カズンさま、着替えました」

「なら、行くぞ」


 フォルテウス城へ向かうため、俺はカズンと共に屋敷を出る。


「ちょっと! お父様」


 だがエントランスでウィクタールが待っていた。

 ウィクタールの後ろには困り顔のヴァイオリンの講師がおり、稽古の最中なのがうかがえる。


「ルイスをフォルテウス城へ連れて行くってどういうこと!?」


 ウィクタールがカズンに突っかかる。


「ルイスとデートする約束をしたの! ルイスを連れて行かないで!!」


 ウィクタールの主張にカズンはため息をついた。


「これはアンドレウスさまの命令だ。我儘を言うな」

「いやだ! ルイスと買い物に行きたい!!」

「……行くぞ、ルイス」


 ウィクタールの我儘を無視し、カズンは屋敷から出て行った。

 俺はウィクタールと見つめ合う。


「ごめん。この埋め合わせはいつかするから」

「じゃあ、帰ってきたらすぐ私のところにきて」

「……わかった」

「約束よ」


 ウィクタールがぎゅっと俺の手を握る。

 その薬指にはロザリーの指輪がはめられている。


(いつか、ウィクタールから取り返さねえと)


 俺はそう思いながら、カズンの後を追う。



 フォルテウス城。

 ロザリーが閉じ込められている場所。

 俺は生まれて初めて、その城に入った。

 城に入ると、俺はある部屋に通される。

 そこには、アンドレウス国王とロザリーがソファに座っていた。

 ここは応接間で来賓客の対応をする場所のようだ。


(ロザリー!)


 俺はロザリーに会え、胸が高鳴る。

 でも、ロザリーの目は腫れていて、俺に会えたというのに表情が暗い。


「カズン、ルイス君、よく来てくれた」

「陛下、昨夜の婚約の件は一体なんなのですか!」


 カズンがアンドレウスに怒りの感情をあらわにする。


「要望通り、ルイスを連れてきました。さあ、理由を話してください」


 俺をフォルテウス城へ連れてきたのは、アンドレウスに命令されたから、らしい。


「そうだね。話そうか」


 アンドレウスは深呼吸をした後、オリオンを婚約者から外した理由を告げる。


「カズン、君は僕のためによく働いてくれた。その働きには今も感謝している。だが、ローズマリーの生誕祭、娘の大事な夜会で君は失態を犯した」


 ロザリーはその日、毒を飲まされた。


「ロザリーに毒を盛ったのは……、君の部下。君は僕の信頼を裏切った」

「……だから、オリオンを婚約者から外したのですね」

「そうだ」


 カズンの部下が毒を盛った犯人だったから。

 それが、オリオンがロザリーの婚約者から降ろされた理由。


「ヴィストン殿が用意した新薬がなければ、ロザリーの後遺症は治らなかった。ヴィストン殿は良い人だ。だから、彼をローズマリーの新たな婚約者とすることにした」

「そう……、ですか」


 ローズマリーの身体の痛みが診断よりも早く引いたのは、ヴィストンが新薬を用意したから。きっとメヘロディでは出回っていないもので、ヴィストンの協力がなければ手に入らなかった薬なのだろう。


「カズン、これは騎士団をまとめきれなかった君への罰だ」


 毒を盛った犯人を死刑にしたように、オリオンをロザリーの婚約者から外したのは、警備を指揮していたカズンへの罰。

 アンドレウスの主張に納得したカズンは、怒りの感情を収め、黙り込んでいた。


「さて、話をルイス君へ移そう」

「俺、ですか?」

「ルイス君、君はローズマリーとまだ恋仲にあったようだね」

「っ!?」


 カズン話が終わり、次は俺の番。

 アンドレウスが俺を呼びだしたのは、俺とロザリーの関係について問い詰めるため。

 隣に座っていたカズンが、アンドレウスの発言を聞き、驚いている。


「……はい。俺はロザリーを恋人として愛しています。俺が騎士になり、授与式に参加したその時に、結婚を宣言しようと約束しました」


 俺は正直にアンドレウスに計画のすべてを話した。

 アンドレウスの口ぶり、ロザリーの泣き腫らした顔から、隠しても仕方がないと感じたから。


「ルイス……、全部、お父様にバレちゃった」


 今まで黙っていたロザリーが口を開いた。

 ロザリーの目にはボロボロと涙が流れている。


「私……、ルイスと、結婚、できない」


 泣きじゃくりながら、途切れ途切れの言葉。


「ルイス……、ごめんね。もらった指輪……、なくしちゃった」

次話は11/20(木)7:00に更新します!

お楽しみに!!

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