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拾われ令嬢の恩返し  作者: 絵山イオン
第3部 第5章 ルイスの試練

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不意打ちのキス


 ヴァイオリンの練習をしたあとは、自室に戻り、オリオンと共にボードゲームをした。

 二人ではすぐに決着がついてしまうので、途中、サーシャを加えて三人で遊んでいた。

 ボードゲームはどれも面白く、記憶力を競うものは私が、反射を競うものはオリオンが、言葉あそびはサーシャが勝ち、誰かが一方的に負けることはなかった。

 日が暮れたところで、ボードゲームが終わる。


「遊びに加えていただきありがとうございます。私はローズマリーさまの夕食の用意がありますので」

「一緒に遊んでくれてありがとう。とっても楽しかったわ」

「ローズマリーさまと一緒に遊べるなんて……、ボードゲーム最高です!」


 サーシャは私と遊べる口実が出来てとても嬉しそうだった。

 仕事へ戻る足取りが軽い。

 サーシャは私の夕食を取りにゆくため、一度部屋から出て行った。


「今日は上の空になることが多いですね」

「えっ」


 二人きりになったオリオンが唐突に話題をなげてきた。

 演奏やボードゲーム中はルイスとウィクタールの事を考えずに済んだ。

 何もない時は二人のことを考えてしまう。

 特に、ルイスがウィクタールと婚約関係になりかけていたこと。


「ルイスのこと……、ですか?」


 オリオンは私のことをよく見ている。


「……はい」


 私は正直に答えた。


「ルイスとウィクタールさまに婚約の話が出ていたなんて」

「それは……、ルイスが十三歳の時から毎年出ていました」

「十三歳……、ルイスが士官学校に入学した時から」

「ええ。父上もルイスを姉さんと結婚させて、義息子としてライドエクス家に迎え入れたかったようです。士官学校や寮の費用を援助しているのも、義息子として迎え入れるための準備だと言っていました」


 ライドエクス侯爵はルイスのことを気に入っている。

 私の護衛に選ぶくらいだ。

 だが、家族として迎え入れたいほどに気に入っているとは思わなかった。


(また、ルイスは私に隠し事をしてた)


 ルイスは私を不安にさせるような事実は隠す。

 事実、オリオンから話を聞いて、私の心はぐちゃぐちゃになっている。

 聞かなければよかったとさえ思っている。


「はぐらかしていたルイスが姉さんとの婚約をきっぱり断ったのは、今年になってからです」


 オリオンはルイスのことについて教えてくれた。


「その時、ルイスは指輪を付けていました。『婚約指輪』なのだと父と姉さんにはっきり言ったんです」

「そ、その後はどうなったの? ウィクタールは認めてないようだけど、ライドエクス侯爵は?」

「父上は……、残念そうでしたが『婚約おめでとう』と口にしていました」

「そう」

「ルイスが騎士になるのはほぼ確定ですから。部下として面倒をみるつもりなのでしょう」


 オリオンの話で私は乱れていた気持ちが少し落ち着いた。

 ライドエクス侯爵が、私の父アンドレウスみたいに、理想を押し付けるような人ではないことに安堵する。


 コンコン。


 サーシャが私の夕食を持って戻ってきた。


「では、僕も夕食をとってきます」


 今日のオリオンの護衛はこれで終わり。

 あとはサーシャが持ってきた夕食を食べ、医者に容態を診てもらったあと、身体を洗って、眠るだけ。


「今日はありがとうございました」

「こちらこそ、ローズマリーさまのヴァイオリンが聴けて嬉しかったです」

「あれは……、本調子ではなくて」

「次の護衛のときも聴かせてください」

「ええ。そのために練習しますわ」


 私は部屋を出てゆくオリオンの隣を歩く。

 たわいもない別れの挨拶。

 オリオンはそのまま部屋を出てゆくのだと私は油断していた。


「ローズマリーさま」


 オリオンの手が私の頬に触れる。

 触れられたと気づいたときには、頬にちゅっとキスされた。


「っ!」


 驚いた私は、さっとオリオンから離れる。


「おやすみなさい、ローズマリーさま」


 オリオンはいつもと変わりない穏やかな笑みを浮かべて、私と別れた。



 一連の予定を終え、寝間着姿の私はオリオンとのキスについて考えていた。


「今日のオリオンさま、積極的でしたね!」


 傍にいたサーシャはあの光景を目にし、とても浮かれていた。

 婚約者らしいスキンシップを見れて、メイドとして幸せなのだろう。


「……そうね」


 大して私はショックを受けていた。

 頬とはいえ、ルイス以外の男性にキスされた。

 触れられた箇所がとても気になる。


「明日は朝の診察のあと、ルイスさまが護衛にいらっしゃいます」

「うん」

「あと、アンドレウスさまから手紙を預かりました。明日の夕食までに返事を書いてください」

「わかったわ」


 サーシャから手紙を受け取る。

 また、トルメン大学校の時のように毎日アンドレウスへ手紙を書かなければいけない。

 ライドエクス侯爵やオリオンが私の日常について報告書として書いているだろうが、私の直筆でないとアンドレウスは納得しないようだ。


「一週間後にはカルスーン王国の重鎮との夜会があります。この調子ですと、ローズマリーさまも出席できるかもしれませんね」


 カルスーン王国との夜会。

 そこにカルスーン国王は参加せず、第二王子のヴィストンと第五王子のグレンが参加するらしい。


「そうね」


 出席するとなれば、私はライドエクス侯爵邸からフォルテウス城へ移っているだろう。

 そうなったらまたルイスと会えなくなる。


(もう一度、お父様にルイスのことを話してみようかしら)


 ルイスともっと一緒に居たい。

 我慢していたのに、今日、ウィクタールがまだルイスを狙っていることを知ったら、決断が揺らいでしまう。


「では、私はこれで失礼します」


 仕事を終えたサーシャは、私にぺこりと頭を下げた。


「おやすみなさいませ、ローズマリーさま」

「おやすみ。サーシャ」


 サーシャが部屋からいなくなった。

 ここからは一人の時間。

 私はベランダの窓をじっと見つめていた。


(ルイス……)


 今夜来るであろう、ルイスを待って。


次話は10/16(木)7:00に投稿します!

お楽しみに!

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