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拾われ令嬢の恩返し  作者: 絵山イオン
第3部 第5章 ルイスの試練

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この場で言ってしまいたい

半年ぶりの投稿です。

諸事情(別作品の制作)で更新が滞ってしまい、申し訳ございません。

これから定期更新(週一)更新できるよう、頑張ります。

 演奏を終えたウィクタールがルイスの反応を待っている。

 椅子に座っていたルイスは、パチパチと拍手をしていた。

 二人は演奏室に入ってきた私とオリオンをみて、それぞれ違う反応をする。


「ふんっ、オリオン。なにしにきたのよ」


 ウィクタールは弟のオリオンですら邪険に扱う。きっと、ルイスとの時間を邪魔されたと思ったのだろう。


「オリオン……」


 ルイスは席を立ち、私たちをじっと見つめる。

 オリオンの名を呼んだが、視線は私の方を向いている。


「ローズマリーさまの体調がいいみたいだから、ヴァイオリンの練習に来たのさ」


 オリオンは不機嫌なウィクタールに用件を話す。


「ロザリー、指が動かせるようになったのか!?」


 私のヴァイオリンの練習と聞いて、ルイスの表情がぱあっと明るくなる。

 ルイスは私たちに近づき、私の後遺症が治りつつあることを喜んでいた。


「うん。新しい薬がよく効いているみたいなの」

「そうか!」


 私が答えると、ルイスは私の手を握ろうと手を伸ばす。

 しかし、触れる直前で止まった。


「ルイス……?」

「悪い。勝手にロザリーの身体に触れちゃいけないって、昨日カズンさまに絞られたばかりだった」


 私が触れてこないことに首をかしげると、ルイスはその理由を苦笑しながら答えてくれた。


(私を抱き上げたこと……、カズンさまに怒られていたわね)


 今は二人きりの時間ではない。ウィクタールやオリオンの目もある。

 同じことをしたら、またカズンに怒られてしまうだろう。


「ルイス、手を出して」

「おう」


 ルイスは私に右手を差し出した。

 私はその手を感覚が戻った指の腹でピアノを弾くように触れる。

 ルイスの右手は剣を握っているせいか、皮膚が固くてガサガサしている。

 トントンと五本の指を動かしていると、突然、ルイスが手を引っ込めた。


「……くすぐったい」


 ぼそっと手を引っ込めた理由を私に伝える。

 ルイスの頬はほんのりと赤く染まっており、照れているのがわかった。


「昨日より指が動くのは本当なんだな」

「ローズマリーさまは僕にどんな曲を聴かせてくれるのでしょう? 今からとても楽しみです!」

「そっか」


 オリオンは私のヴァイオリンの音色が聴けると、わくわくした気持ちをルイスに伝える。

 ルイスは喜んでいるオリオンをみて、ふっと口元を緩めた。

 二人の表情を交互に見ていた私は、二人は互いに尊敬しあっているのだと感じた。


「みんな、ローズマリーさまのことばっかり!!」


 和やかな会話は機嫌の悪いウィクタールが割り込んだことで唐突に終わる。

 ウィクタールはルイスの腕を強引に引っ張り、自身に引き寄せる。

 ルイスの腕にウィクタールの胸が押し当てられている。

 それに、ウィクタールは胸元や背が大胆に開いたドレス姿。

 ウィクタールの抜群のスタイルと相まって、絶世の美女というにふさわしい。


「ルイスは今日一日、私と一緒に過ごすの!! 邪魔しないで!」

「ウィクタール、俺は――」

「諦めないから」

「……」

「ルイスの恋人は私。指輪の人じゃないわ」

「違う。俺の恋人はこの指輪を贈った人だ」


 ウィクタールは気に入らないことがあると、すぐに癇癪をおこす。

 それは意中のルイスにもお構いなし。

 ウィクタールはルイスの右手にはめられた指輪を睨む。


「じゃあ、その人に会わせてよ!!」

「それは――」

「何度、お願いしても会わせてくれないじゃない!」


 ウィクタールとルイスは、ルイスがはめている指輪のことで何度も口論になったのだろう。

 ウィクタールは指輪の相手、ルイスが心に決めた恋人に会わせろと。

 対してルイスは無理だと。


(指輪の相手は……、私)


 言いたい。

 この場で言ってしまいたい。

 ウィクタールの文句に困っているルイスなんて見たくない。


「会えない恋人より、常に傍にいる恋人のほうがいいでしょう?」

「ウィクタール……、ずっと言ってるだろ。俺はーー」


 ルイスと一瞬、目が合う。

 私はルイスがどう答えるのか息を呑んで待っていた。


「恋人に浮気を疑われるようなことはしたくない」

「浮気……? 恋人なんていないくせに!!」


 ウィクタールの怒りは収まらない。


「お父様が私とルイスの婚約を認めてくれたのに! なんで嘘までついて断るのよ!」

「えっ」


 ウィクタールの発言に、私は思わず声が出た。

 ルイスとウィクタールの婚約話が出ていたことに衝撃を受けたからだ。

 私の驚いた表情を見たのか、ルイスはばつが悪い顔をしていた。

 聞かれたくない話だったのは間違いない。


「ウィクタール、その話は終わったことだろ」

「終わってない!」

「……ローズマリーさまの演奏の邪魔になる。演奏室から離れよう」


 ここでルイスが諭しても、ウィクタールの怒りの感情は収まらない。

 ルイスはウィクタールを連れ、演奏室へ出てゆく。

 ウィクタールはルイスの腕に身体を密着させ、軽い足取りでこの場を去ってゆく。


「ローズマリーさま、ヴァイオリンの演奏をしましょう」

「え、ええ」


 私はルイスとウィクタールの姿を見えなくなるまで追っていた。

 オリオンに声をかけられ、我に返る。

 演奏室には、何本ものヴァイオリンが並んでいた。

 その中に、見覚えのあるヴァイオリンのケースが置いてあった。私のだ。


「フォルテウス城から持ってきました。演奏でしたら自分の楽器を使ったほうがいいかと思いまして……」

「ありがとうございます」


 私はヴァイオリンのケースを開ける。

 ヴァイオリンは休暇前の状態のまま。誰かが触れた様子はなさそうだ。

 オリオンはウィクタールが座っていた椅子に座り、私の演奏を待っている。


「一曲聞かせてください。ローズマリーさま」


 オリオンは私の演奏を目を輝かせて待っている。


(ルイスのことは気になるけど……、今は演奏に集中)


 久々にヴァイオリンに触れられて嬉しいが、私の頭の中はルイスとウィクタールに婚約の話が出ていたことでいっぱいだった。

 その話は今夜、ルイスの口から訊こう。

 深呼吸で悩みを吐き捨て、オリオンのために一音を奏でる。


10/9(木)7:00に投稿します!

次話お楽しみに!!

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