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拾われ令嬢の恩返し  作者: 絵山イオン
第3部 第4章 リリアンの改心

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生誕祝いの悲劇


 翌日を迎え、私は朝から晩まで応接間で貴族の相手をした。

 皆、それぞれ私への贈り物を用意しており、包みを開けると年頃の少女が好みそうな品々が入っていた。

 髪留め、リボン、人形。

 自身で作曲した譜面、小さなヴァイオリンの模型。

 部屋が物で埋め尽くされるのではないだろうか。

 

「祝いの言葉と贈り物、ありがとうございます」


 贈り物は中身を確認したら、傍にいるサーシャに預ける。

 そしてにこりと貴族に感謝の言葉を告げる。

 今朝からこれを何度繰り返したことか。


「夜会でお会いできることを楽しみにしています」


 夜会に参加する上級貴族にはこの一言も付け足す。

 アンドレウスと親しい貴族たちの名は全て覚えたが、全員となると辛い。

 ふと窓の方へ目をやると、日は落ちており、夕方へとなりつつある。


「……次の方が最後のお客様です」


 最後。

 サーシャのその言葉を聞いただけで、私はほっとする。

 これが終わったら、ドレスを着替え、夜会に参加する。

 少し休憩が取れる。


「クラッセル子爵、お入りください」


 サーシャが最後の訪問客を招き入れる。

 

「クラッセル子爵!!」

「ローズマリー、十七歳の誕生日おめでとう」

「お久しぶりです! お元気でしたか?」

「体調はよかった。けど……」

「けど?」

「屋敷に一人だと寂しいね。少し前までは賑やかだったから」


 クラッセル子爵にようやく会えるとは。

 突然の登場に、私はその場から立ち上がり、クラッセル子爵の元へ歩み寄る。

 正装した姿は、別れた半年前と変わっていない。

 でも、声音は少し暗くなった気がする。

 私とマリアンヌが屋敷を出て、独りになったからだろう。


「渡しそびれるとあれだから、先に渡しておくね」


 クラッセル子爵から小さな包みを受け取る。

 中に入っていたのは、黄色い薔薇の髪飾りだった。

 デザインからして、十五歳の誕生日に貰ったピアスと同じ店が作ったものだろう。


「ありがとうございます!」

「マリアンヌにも色違いのものを贈る予定だ。君たちはお揃いのものを身に着けるのが好きだったからね」


 ということは、マリアンヌは赤色の薔薇の髪飾りが送られるということか。


「それは……、マリアンヌのお母様の形見なのですか?」

「うん」


 故クラッセル夫人は、宝飾品を大事に扱っていた。

 クラッセル子爵の贈り物は特に。

 それを娘のマリアンヌが受け継ぐ。

 とても素敵で羨ましいと思った。

 私のお母さんはもういないから。


「浮かない顔をして、僕の言葉が悪かったかな」

「いいえ。私のお母さんのことを思い出していただけです」

「そのすき間をアンドレウス国王が埋めてくれるさ」

「そう……、ですね」


 私とクラッセル子爵は共にソファに座った。


「学校はどうだい? マリアンヌと仲良くしているかな?」


 私とクラッセル子爵は時間ギリギリまで、トルメン大学校の話で盛り上がった。

 特別講師ブレストの指導を受けていること。

 マリアンヌと二人きりで会話する機会はめっきり減ったが、一緒の授業を受けるのが楽しい。

 二つの実技試験を合格し、二学期の実技試験も頑張ると告げた。


「ブレスト先輩か……、先輩がマリアンヌの指導してるんだ」

「あの、お話が盛り上がっているところ、割り込んでしまい申し訳ありませんが――」


 サーシャが私とクラッセル子爵の会話に割り込む。

 これ以上、引き延ばすと夜会の準備に支障が出るのだろう。


「もっとお話したいのですが……、このあと夜会があるので」

「うん。僕はここで君と話せて満足だ」

「……正直、クラッセル子爵がいらっしゃったときは驚きました」

「それは――、いや、アンドレウス国王から直接聞いてごらん」

「わかりました」


 ドアの近くまでクラッセル子爵を見送る。

 夜会の参加リストに名前は載っていない。

 祝いの場には招いたが、夜会には招かない。

 それがアンドレウスの判断なのだろう。


「またね」

「はい。また、会いましょう」


 クラッセル子爵と別れる。

 久しぶりに会えて、誕生日プレゼントも貰えてとてもうれしい。

 夢みたいだ。


(嬉しいけど……、気を抜かずに)


 私は両頬を叩き、緩んだ気持ちを引き締める。


「ドレスの着替え、お願いします」

「はい。お部屋に戻りましょう」


 気持ちを切り替え、サーシャと共に、夜会へのドレスへ着替える。



 私はアンドレウスと共に広間に入る。

 以前行った私のお披露目会のように、上級貴族たちが私の登場を今か今かと待っていた。

 今回は立食形式となっており、ダンスホールの他に片手でつまめる軽食が並んでいた。


「お二人とも、こちらを」


 従者が二つのグラスを用意する。

 ワインはアンドレウスで、果実水は私のものだ。

 飲み物を手にし、アンドレウスの演説が始まった。

 話の終わりに、私の方へ視線が向く。

 私はグラスを掲げ、一言。


「本日は私の生誕祝いに来てくださり、ありがとうございます! 乾杯」


 私の一言で、会場の皆が傍にいる参加者とグラスを打ち合わせる。

 

「おめでとう、ローズマリー」


 カンッという音がした。

 十七歳の誕生日。

 私は一つ年を取ったのだと思いながら、果実水を口にする。

 甘くておいし――


「っ!?」


 甘味を感じた直後、喉に激痛が走る。

 パリンと私が持っていたグラスが床に落ち、割れる。

 刃物で刺されたような痛みで、外に出そうと私は必死に咳き込んだ。

 喉だけだった痛みが全身に広がる。


「ローズマリー!!」

「お……、とう、さま」


 近くにいるのに、アンドレウスの声が遠い。

 ああ、私――。

 視界が真っ暗になり、ここで記憶が途切れた。

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