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拾われ令嬢の恩返し  作者: 絵山イオン
第3部 第4章 リリアンの改心

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煩わしい思い

「長期休暇まで、もう少しですね」

「そうですね。教室では休暇中の予定を話していました」

「ローズマリーさまのご予定は?」

「私は、お父様の傍にいることになると思います。フォルテウス城を出ることはないでしょう」

「あの……、また、僕の屋敷に来てボードゲームをしませんか?」


 女子寮へ帰る途中、オリオンと軽い会話をする。

 今日の話題は長期休暇の話。

 私の予定を訊いたオリオンは、ぼそぼそとした声で私を屋敷に誘う。

 横目でチラッとオリオンの横顔を見上げると、彼の頬は真っ赤だった。


「チェスの他にも面白いゲームがあるのですか」

「はい! 有名なものから、新しいものまで。ローズマリーさまと遊びたいものが沢山」

「それは楽しみです。お父様にライドエクス邸へ遊びに行っていいか、聞いてみますね」


 ライドエクス侯爵邸なら、アンドレウスも外出を許してくれるかもしれない。

 私とオリオンはアンドレウスが決めた婚約者なのだから。

 前に食事会をしたときも、外泊をすんなり許してくれたし。


(ライドエクス侯爵邸に遊びに行ったら――)


 夜、ルイスに会えるかもしれない。

 ルイスとはグレンを通じて文通を続けている。

 もうじき、最終試験に入るらしく、トゥーンを離れるそうだ。

 開始時期は、私が二学期に入る頃らしい。

 最終試験は半年近くかかるため、それが始まれば、しばらく手紙は届けられないとのこと。

 最終試験、ルイスはペットボーン公爵領を選んだ。

 縁のあるライドエクス侯爵領を選ばなかったのは意外だ。

 

「来週で一学期が終わるんですね」

「そうですね」


 来週、私はフォルテウス城へ帰り、アンドレウスと過ごす。

 正直、気分が乗らない。

 学校生活も、楽しくなってきたところなのに。

 ルイスとの仲だって――。


「浮かない表情ですね」


 オリオンの束縛は相変わらず酷いが、気を遣ってくれていて、話しやすい。

 だからこそ、辛い。

 本当の悩みをオリオンに打ち明けられないことが。


「公務が詰まっているんじゃないかと思うと、気が重くて」

「父上から聞きましたが、編入前は一日中アンドレウスさまの傍にいたと」

「はい。ドレスを三回着替えることもざらでして……」


 女子寮の前、オリオンと別れる直前。

 私の手をオリオンに掴まれる。

 真っすぐな瞳で私を見つめていた。

 いつもと違う雰囲気に、私はどきっとした。


「ローズマリーさまは僕の家に嫁ぐのです。忙しいのも、今だけですよ」


 王位を継ぐのはイスカかトテレス。

 私がその地位に就くことはない。

 いずれオリオンと結婚し、ライドエクス家に嫁ぐことになる。


「愛しています。ローズマリーさま」

「っ!?」


 突然の愛の言葉に、私の鼓動は跳ね上がる。

 手を引かれ、私の身体はオリオンの胸の中にあった。

 ぎゅっと抱きしめられる前に、私はとんとオリオンの胸を軽く押し、後ずさる。


「学園ではちょっと……、まだ、私たちは婚約者だと公に発表されていないですし」

「……僕はいつまで耐えればいいんですか」


 胸の内を私に告げる。


「一緒の学校に通っていれば、こうやってお話をしていれば、ローズマリーさまに僕の愛が伝わると思っていました」

「……」

「ですが、あなたは僕に関心がない」


 適切な言葉が見つからず、私は口を閉じる。

 半年オリオンと共にいるが、抱いている感情は好きではなく”煩わしい”。

 私とオリオンが普通の村娘と村人の関係であったら、「他に好きな人がいるから」と伝えられるのに。

 王族である私と貴族であるオリオンではそれが出来ない。

 婚約は両家を繋ぐための手段。

 個人の都合で変えられるものではないから。


「他に想い人がいても、あなたの婚約者は僕です。それをお忘れなく」


 オリオンは背を向け、去ってゆく。

 私は彼の姿が見えなくなるまで動けなかった。

 親しく話してくれるオリオンとは違う雰囲気だったから。


(ごめんなさい。私はルイスと一緒にいたいの)


 私とルイスは一緒にいたいという理由で、彼が騎士になるその日を待っている。

 オリオンへの気持ちは始めからないのだ。

 


 一週間はあっという間に過ぎ、長期休暇に入る。

 私はクラスメイトと別れの挨拶をし、迎えの馬車に乗った。


「っ!?」

「やあ、迎えに来たよ」

「お父様!! 驚きました」


 馬車にはアンドレスが乗っていた。

 一人になれると気を抜いていた私は、体勢を崩し、飛び込むような形で椅子に座った。

 

「ど、どうしてこの馬車に?」

「ローズマリーと出掛けたい場所があったから」


 馬車の扉がしまり、馬が走り出す。

 私が尋ねるとアンドレウスは笑顔で答えてくれた。


「出掛けたい場所……」

「そう。着いてからのお楽しみ」


 どこへ向かうのだろう。

 私は窓の外を眺め、行き先を考える。


(トゥーンの方へ向かっているわ)


 城の方向ではなく、街の方へ向かっている。

 

「一学期おつかれさま。試験の方は順調だったみたいだね」


 学校生活については毎日手紙で報告している。

 アンドレウスのことだから、トルメン学校側に私の成績を事前に訊いているのだろうけど。


「学校に入る前みたいに、僕と一緒に公務をこなしてゆくことになる。大変な時は言うんだよ」

「はい」


 今日は妙に私の事を気遣ってくれる。

 いつもは自分のことしか見えていないのに。

 会話が止まり、私とアンドレウスは互いに黙った。

 少しして馬車が止まる。


「ここは……」

「ブティック。たまにはこういうところで買い物してみたら楽しいかなって」


 馬車から出ると、大きな建物が目に入った。

 建物の外観と、周りを歩いている人たちの服装からして富裕層が利用している通りのようだ。

 ブティックといったから、多くの商品が置かれており、眺めるだけでも楽しそう。

 ローズマリーになってから、自分の好きなものを選んで買うということがなかったから、これは嬉しい。


「店は貸し切ってあるから。好きなものを選びなさい」

「ありがとうございます。お父様」


 私は小走りで建物の中に入り、目を輝かせながら、店にある商品を眺める。


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