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拾われ令嬢の恩返し  作者: 絵山イオン
第3部 第4章 リリアンの改心

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休暇の予定

 時は過ぎ、長期休暇が近づく。

 二回目の実技試験も合格。

 筆記試験も終わり、数日経てば一学期の成績が出揃う。

 赤点を取れば補習だが、私とは無縁のことだ。


「ああ~、お勉強から解放されるわっ」


 筆記試験を終えたマリアンヌの第一声がこれだ。

 目元には濃い隈があり、試験のために猛勉強をしたのだというのがうかがえる。

 ただ、二学年のマリアンヌは前より勉強を苦に思わなくなった気がする。

 私に変装して、進学校に潜入していた際に、克服したのだろうか。


「長期休暇よね、あんたたちは予定あるの?」


 この頃になると、リリアンもクラスに打ち解けている。

 自己中心的な部分は無くなってきたが、目立ちたがり屋なところは相変わらずである。

 リリアンに訊かれ、私は少し考えて答えた。


「公務と絵とヴァイオリンの練習……、ですね」


 長期休暇中はフォルテウス城にずっといることになる。

 そこで何をするのかといえば、アンドレウスと共に公務に出席し、アンドレウスと共に絵を描き、ブレストの部下にヴァイオリンの指導を受ける、その繰り返しだろう。


「ええ~、どこかに出かけないの?」

「旅行……」

「あたしの領地とかどう? 楽器職人とか音楽家とか大きいコンサートホールとかがあって、外国の観光客に人気なのよ!」


 リリアンは好意でタッカード領に来ないかと誘ってくれているが、それは叶わないだろう。

 王族だって旅行をするときはある。

 だが、アンドレウスは私をフォルテウス城の外へ出すことは許さないだろう。

 城内でも、私が少し離席しただけで慌てふためくのだから。

 また私がいなくなってしまうのではないかと恐れている。

 その恐怖が消えることは、しばらくないだろう。


「お誘いありがとう。でも……、今年は公務で忙しいから」

「そう。残念だわ」

「じゃあ、私が遊びに行ってもいい?」

「勿論よ。チャールズさまと一緒にいらっしゃい!」

「やった! じゃあ、今日中にチャールズさまに確認を取って、いいか悪いか教えるわね」

「部屋で待ってるわね」


 私はリリアンの誘いを断った。

 がっかりしているリリアンに、すかさずマリアンヌが声をかける。

 二人は寮の部屋が同じだから、友達になった今は、互いに共同部屋での会話が楽しいらしい。

 リリアンが部活動で作ってきた焼き菓子を食べながら、就寝時間まで語り合うのだとか。

 いざこざがあった二人を同室にするのはいかがなものかと、当初マリーンが心配し、度々マリアンヌに声をかけていたが、今は二人の仲の良さに不思議そうな表情を浮かべている。

 

「おいおい、俺の予定は聞いてくれないのかよ」

「え? グレンの予定なんて興味ないもの。どうせ、カルスーン王国に帰るんでしょ?」

「冷たいなあ。二人みたいに気にかけてくれよお」

「嫌よ。気があるって誤解されたくないもの」


 リリアンはグレンにだけはそっけない態度を取る。

 その理由は、私とグレンが恋仲であると勘違いさせているからだ。

 色恋沙汰で私との友情を失いたくないという、意思の表れともいえる。

 

「誤解って……、まあいいや。勝手に話そうっと」


 グレンはべらべらと自身の予定を話始めた。

 

「俺、カルスーンに帰らないでさ……、クラッセルさんのところにいようと思ってる」

「えっ!?」


 グレンの予定を訊き、マリアンヌが驚いていた。


「私も……、チャールズさまと私の実家で過ごそうと計画しているのだけど」

「そうなの!?」

「じゃあ、今年はチャールズさまとグレンが屋敷にいるのね。楽しみだわっ」

「俺は最悪なんだけど……」


 二学年に進級し、半年経ってもマリアンヌとチャールズの結婚話は出ていない。

 マリアンヌにその話を聞くと、彼女は「それは……、分からないわ」と言葉を濁される。

 要因として考えられるのは、三国の情勢が不安定なこと。

 特にマジル王国はメヘロディ王国との友好関係の維持と自国の治世で手が回らないらしい。

 戦争に敗戦したことで、国内で王族に反感を持っている国民が急増したらしく、それの対応に追われているとか。

 マジル王国とは対照的にカルスーン王国は絶好調。

 メヘロディ王国との関係を深めるために、大使であるヴィストンがアンドレウスとよく話しているらしい。


「グレンは、あの夜会に参加しないの?」

「ああ。あれは出る」


 ”あの夜会”というのは、フォルテウス城の広間で、カルスーン王国の要人を集めた夜会のことを指す。

 第五王子であるグレンは出席しなければいけない立場だろう。

 なぜ、私が知っていたかというと、試験前の休日、アンドレウスに夜会があると伝えられ、それ用のドレスを作るからと採寸をしたからだ。

 

「あたし、その夜会に招待されてないんだけど」

「カルスーン王国の要人しか出席しない夜会だからな。出席できても、リリアンの両親くらいじゃねえの」

「ふーん」


 自身の知らない夜会があると知り、リリアンは不満げだ。

 グレンの言う通り、今回の夜会はカルスーン王国の貴族との交流がメイン。

 メヘロディ側で参加できるのは、リリアンの両親、カズンと彼の夫人くらいだろう。


「二学期になったら、休みの話を沢山しましょ。じゃあね」


 リリアンはスタスタと部屋を出る。

 休み明けに色々な思い出話をしてくれるだろう。


「マリアンヌ」

「チャールズさま! じゃあ、私も行くわね」


 マリアンヌを迎えにチャールズが教室に現れた。

 彼の姿を見るなり、マリアンヌは私たちから離れ、チャールズの元に駆け寄る。

 

「チャールズさま、あのね、リリアンが――」


 マリアンヌの弾む声の断片から、タッカード領に遊びに行きたいという話をしていている。チャールズとの仲も良好みたいだ。


「あのさ――」


 教室にいるのは私とグレンだけ。

 チャールズがマリアンヌを迎えに来たということは、もうじきオリオンがやってくる。

 オリオンとグレンの仲はとても悪い。

 いまだにグレンを見かける度、嫌な顔をするし棘のある発言をしている。


「いや、なんでもない」


 グレンは私を呼ぶも、すぐに黙る。

 最近、曇った表情をすることが多い。

 なにか悩みがあるのだろうか。


「そう」

「じゃあ、次の夜会で会おうな」

「うん」


 グレンも教室を出て行った。

 残されたのは私、一人。


「ローズマリーさま」


 オリオンが迎えに来た。

 私は彼に送られ、女子寮へ帰る。

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