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拾われ令嬢の恩返し  作者: 絵山イオン
第3部 第4章 リリアンの改心

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過去は消えない

「タッカード公爵令嬢っ!?」


 私に絡んでいた女性貴族たちは、リリアンが近づいてくるのを見るなり表情が青ざめていた。

 彼女たちは口元を引きつらせ、リリアンに作り笑いをしている。


「マリアンヌさんとお話していただけですわ」

「お茶会で初めて会う方だから、ご挨拶していたの」

「では、私たちはこれで……」


 リリアンは三人の女性貴族をきっと睨みつけている。

 彼女たちは差し障りない理由をつけて、この場を離れて行った。


「マリアンヌ、あいつらに何か言われなかった?」

「……」


 私に手を伸ばそうとするリリアンの手を払った。

 去っていた彼女たちの対応が、以前、私に意地悪していたリリアンと重なり、怖くなったから。

 

「あっ」


 自分の思いもしない行動にはっとする。

 今のリリアンは、私の事を助けてくれたのに。

 リリアンは私の非常識な行動に怒りもせず、悲しい表情を浮かべていた。


「そう……、よね。今更私がいいことをしても、過去のことは取り消せないわよね」

「リリアンさまっ」


 リリアンは私に背を向け、トボトボとした足取りで私から離れようとする。


「まって、リリアンさま、違うの!」


 リリアンに追い付こうと歩を進めるも、異国の靴が邪魔をする。

 差は埋まることなく、私はリリアンを傷つけてしまったのだと途方に暮れた。



 少しして、主賓のローズマリーがやって来た。

 ローズマリーの登場によって、場がどよめく。周りは彼女と話をしたい貴族たちでいっぱい。割り込むのは難しい。

 このお茶会では、下級貴族の私だと、ローズマリーと話せるのはほんの一瞬。

 少し前までは、ローズマリーの傍にいるのは私だけだったのに。

 ベッドで横になって、二人きりで夜遅くまでおしゃべりするなんて、もう、できないんだ。


(ああ、惨めだわ……)


 助けてくれたリリアンを傷つけ、本物の姉妹のように育ってきたローズマリーとの身分の差を突き付けられ、胸がきゅっと苦しくなる。


(嫌だ。こんなところ、いたくない……。帰りたい)


 皆がローズマリーと話そうとするなか、私は自分の席に座った。

 四人席で、そこにはローズマリーの名前はない。

 全員、名前の聞いたことのない、クラッセル子爵家では交流のない貴族たち。

 ブレストたちが演奏する曲に一人、耳を澄ませる。

 長い曲が終わりそうなところで、参加者が席についてゆく。

 ローズマリーの席は私からとても遠い。

 これが、私とローズマリーの距離。

 

「ごきげんよう――」


 同席の貴族の男性が私に声をかける。

 他の人たちも、先ほどの女性たちとは違い、優しく接してくれた。

 会話も弾んだが、何を話したかは覚えていない。

 

「そろそろお開きかな……」

「今回はローズマリーさまとお話ができた!」

「次はローズマリーさまと同じ席になれるといいな」


 他の席に座っている貴族たちは、次のお茶会でローズマリーと接触する機会をうかがっていた。


「ちょっといいかしら?」

「タッカード公爵令嬢!! 会の途中で席を立つなど――」

「もう終わるからいいじゃない」

「まあ……、そうか」


 突如、別の席に座っていたリリアンが輪の中に加わってきた。

 一人の貴族にマナー違反だと注意されたものの、リリアンはそんなことを気にすることなく言い返す。


「リリアンさま……」

「なにいじけてんのよ。ほら、いくわよっ」

「え?」


 リリアンに手を引っ張られ、私も席を立つ。

 向かう場所は、ローズマリーが座っている席。

 同席している人たちは、ローズマリーの関心を惹こうと菓子にも手を付けていない。


「リリアン殿、いくらタッカード公爵家の令嬢とはいえ、お茶会のマナーを破るというのは――」

「あたし、とーっても大人しくしてた方だと思うけど?」


 先ほどの貴族とは違い、強い言葉でリリアンを非難する。

 非難されたリリアンは、大声でその貴族に反論する。


「このお茶会の席順、ずーっとおかしいと思ってたのに、文句言うのをここまで我慢してたのよ?」

「席順がおかしいですって!? このお茶会はローズマリーさまとの親睦を深めるために開催されているもので――」

「無駄な話はやめてよ」

「喧嘩を売ってきたのはそっちのほうだろ!!」


 他の同席者も加わり、大きな口論が始まろうとしていた。

 私は仲裁にはいることなく、その場に突っ立っていた。

 ローズマリーも平静な表情を浮かべているけど、カップを持つ手が震えていて動揺している。


「今日のお茶会でこのマリアンヌがローズマリーの隣じゃないって、ありえないでしょ!!」

「……マリアンヌ?」

「あたしとローズマリーのクラスメイト!! ご機嫌取りにきてるあんたたちより、仲がいいんだから!」

「あの!」


 ローズマリーが紅茶をカップに置き、立ち上がる。

 

「本日のお茶会ですが、予定より早く終わりにします。この埋め合わせは次回いたしますので……」


 ローズマリーは同席していた貴族に頭を下げる。

 リリアンの行動に激怒していた貴族たちも、ローズマリーの謝罪に頭が冷えたようだ。


「二人とも、こっちへ――」


 私とリリアンはローズマリーの案内の元、庭園から出て、王宮へ入った。


「二人とも、気持ちは嬉しかったけど……」


 王宮の通路でローズマリーの歩が止まり、私とリリアンを交互に見る。


「あそこは社交の場よ。私と同席出来なかった人は、開始前に話しかけるのがマナーで――」

「ローズマリーは今日のお茶会、楽しかったわけ?」

「そ、それは……」

「本当はあたしやマリアンヌだけで開催したいんじゃないの?」

「……」


 リリアンはずけずけとローズマリーの痛い所を突く。


「マリアンヌもなにか言いなさいよ」

「えっ!?」


 黙っていた私にリリアンがせっつく。

 ローズマリーは辛そうな表情を浮かべている。

 リリアンの発言は図星のようだが、立場上我慢しているといった心情だろう。


「お茶会に招待してくれてありがとう。私を招待するの、大変だったでしょう?」

「……はい」

「約束、果たしてくれたのよね。招待状を貰えて嬉しかったわ」


 お茶会は今まで何度も開催されているのだろう。

 私は今回、初めて招待状を貰った。

 ローズマリーから、王様が私やお父様のことを良く思っていないことは聞いている。

 幼少期をこのフォルテウス城ではなく、私の実家で過ごしたから。

 そんな私をお茶会に招待するまでには、ローズマリーなりの苦労があっただろう。

 

「リリアンさまも、私をここまで引っ張ってくれてありがとう」

「……マリアンヌの信頼を得るには行動で示すしかないと思ったの」

「さっきのことは、本当にごめんなさい。気にしていないと言ったのに、私ったら――」

「いいの。マリアンヌを傷つけたのは本当のことなんだから」


 やっとリリアンに謝れた。

 最近のリリアンは、常に変化を求めている。

 ローズマリーやグレン、そして私と仲良くしようと努力している。

 それを私が邪魔をしたくはない。今度は私が悪者になってしまう。

 

「過去は絶対に消えない。でも、それをずっと引きずってたら前に進めない」

「リリアンさま……」

「マリアンヌ、お願い。私ともう一度友達になってくれないかしら」


 私の前でリリアンは頭を低く下げた。


「もちろんよ」


 私はリリアンの肩とトントンと軽く叩いた。

 頭をあげたリリアンは、私をぎゅっと抱きしめる。


「二人とも、よかったね」


 ローズマリーはパチパチと拍手しながら、私たちの抱擁を見ていた。


「二人とも、まだ時間はあるかしら?」


 ローズマリーが身体を丸め、もじもじしながらぼそぼそした声で私たちにきく。


「お父様にお願いして、もし、客間が使えたら……、三人でお茶会しない?」


 ローズマリーの提案に私とリリアンはすぐに「する!!」と即答した。

 その後、日が暮れるまで私たちは色んな話題で盛り上がった。

次話は9/16(月)に投稿します!楽しみに!!

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