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拾われ令嬢の恩返し  作者: 絵山イオン
第3部 第4章 リリアンの改心

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お茶会に招待したい

 実技試験が終わり、私はフォルテウス城へ帰ってきた。

 アンドレウスが一番に駆け付けてくれ、「おかえり」と声をかけてくれる。

 私はそれに娘として笑顔で応える。

 メヘロディ王国の王女となり、三か月が経とうとしている。

 けれど、私はまだアンドレウスの娘なのだと実感がなかった。

 

「お父様、失礼します」


 フォルテウス城へ入り、自室でドレスに着替えた私は自身の絵を持って、アンドレウスの部屋に入る。

 アンドレウスは画材と二脚の椅子を用意して待っていた。


「今週はどんな絵を描いてきたんだい? 僕に見せておくれ」

「こちらです」


 私が城へ帰ってくる夜から、私が学校へ出掛ける朝までは公務を入れていない。

 その間、私はアンドレウスと共に、親子の時間を過ごす。

 絵を渡し、私はアンドレウスの評価が出る前に椅子へ座った。


「うん、うん! 上手に描けているね。最初の頃よりもいい線だ」

「ありがとうございます」


 私の絵を眺めるアンドレウスはご機嫌だ。

 三か月経ち、始めの頃より上達したと思う。

 モノを中心に書き写しており、今週はリリアンと共に作ったケーキを描いた。

 人数分に切り分けられたケーキの一切れ。

 真っ白なクリーム、ふわふわなスポンジ、その間に挟まれている季節の果実。

 ティータイムに出るような完璧な形ではなかったが、不出来な所も味があると思っている。


「形はよくとらえているし、色に頼らず、クリーム、スポンジ、果実の描き分けができているね」

「……お父様」

「なんだい? ローズマリー」

「そのケーキ、タッカード公爵令嬢と作ったの」


 アンドレウスは絵の評価しかしない。

 どうして、私がケーキの絵を描いたのか聞いてくれない。

 私は絵の勉強に入る前に、学校で楽しかったことを話したいのに。


「タッカードの娘……、そういえば、ローズマリーと同じ年だったね」

「友達とお菓子を作ることがあまりなかったので、とても楽しかったです」

「そうか……、それはよかったね」


 ケーキを作って食べたこと、手紙に書いたはずなのに。

 アンドレウスの反応を見て、私は落胆した。

 手紙が一日でも遅れると、文句を言ってきたのに、届いた内容は覚えていないらしい。

 娘から返信がくることだけが、喜びなのかもしれない。


「この間あった実技試験も、タッカード公爵令嬢と挑んで、合格しましたの」

「試験に合格したのか。おめでとう」

「……ありがとうございます」

「合格したのだから、お祝いをしないとね。ローズマリーはなにか欲しいものはあるかい?」

「えっと……」


 私は少し考える。

 一人で外出もできない不自由な生活を送っているものの、衣食住は十分なほどに提供されている。

 この間、頼んだ本だって、翌日には本棚の一段分が埋まっていた。

 小難しいものではなく、年頃の女の子が読むものが並べられており、配慮がされていた。

 ”物”は都度、与えられている。

 ここでお願いするのは、気になった小説の続きではなく――。


「マリアンヌをお茶会に招待したいです」

「……なるほど」


 アンドレウスが目の敵にしているクラッセル子爵家の娘をフォルテウス城で開催されるお茶会に招待したい。

 クラッセル邸で別れた時、私はマリアンヌに「お茶会に招待する」と約束した。

 お茶会は休日に何度か開催されているが、あの約束はまだ果たされていない。

 私はそれを思い出し、アンドレウスに”欲しいもの”としてお願いした。


「ちょうど、明後日に開催されるね。明日の朝に届くよう手配しよう」

「ありがとうございます」


 明後日にあるんだ。

 自分の予定をそこで知った。


「じゃあ、僕もローズマリーの絵をみて、ケーキを書くね」


 アンドレウスは私の隣に座り、乳白色な上質紙にペンをはしらせる。

 少し経って、美味しそうなケーキの絵が描かれたのは言うまでもない。



 お茶会当日。

 フォルテウス城でのお茶会は庭園で行われる。

 参加者は、私と年が近い十五歳から十九歳の男女。

 ほとんどが伯爵、侯爵、公爵の上級貴族たちである。

 オリオンは対象年齢ではないため参加できず、ウィクタールは資格はあるものの、一度も姿を現さない。

 庭師が手入れした季節の花々に、菓子職人が作ったお茶菓子、メイドが淹れた紅茶、そしてブレスト率いる国立音楽隊が奏でる音楽。

 王女である私はこの場の主賓である。


「ローズマリーさま、ごきげんよう」

「ごきげんよう」

「お茶会にご招待いただき、ありがとうございます」

「こちらこそ、来てくれて嬉しいわ」

「少し、お話いたしませんか?」

「ええ」


 お茶会の参加者は三十人。

 顔と名前は覚えたものの、大勢の人たちと三時間会話するのはものすごく気を遣う。

 皆、私が関心を持ちそうな話題を持ってきてくれるが、お茶会終盤になると、上の空だ。


(……マリアンヌ、来てくれたかしら)


 招待状を送ったとアンドレウスから聞いている。

 私は出席している貴族たちの相手をしながら、マリアンヌを探した。


「あっ」


 見つけた。

 マリアンヌは楽団の傍にいた。

 私はそこへ向かおうとするも、貴族たちに囲まれ身動きが取れなかった。

 彼らを掻き分けてマリアンヌの元へ向かうのも良くない。

 私はマリアンヌと話したい気持ちをぐっと堪え、目の前にいる貴族たちの話を辛抱強く聞く。

次話は9/9(月)に投稿します!楽しみに!!

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