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拾われ令嬢の恩返し  作者: 絵山イオン
第3部 第4章 リリアンの改心

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これからは友人として

 私たちはリリアンが作ったマフィンを堪能した。

 皆、反応はよく、グレンは二個目をねだる。

 

「だめ!」

「ええ~、まだ残ってんだろ?」

「まだ、食べてないのよ!!」

「でも、その紙袋にはあと二個マフィンが入ってるよな?」

「は? なんで分かるの? あんたに袋の中、見せてないんだけど」


 グレンの言う通り、マフィンはあと二個残っている。

 リリアンの分を引けば、残り一個だ。

 私は紙袋の中を見せてもらったものの、グレンはどうやって個数を把握したのだろうか。

 リリアンがそれを指摘すると、グレンはしまったといった表情を浮かべていた。

 

「えっと……、袋の中身を透視したんだよ」


 グレンが正直に告げる。

 透視。

 グレンはカルスーン国民。魔法が使える。

 目に魔力を込め、リリアンの袋の中身を見たのだろう。


「それ……、私に使ってないわよね」

「ねえよ! 他の二人も引きつるなよ!!」

「魔法ってそういう使い方があったのね……」


 リリアンが疑念の視線をグレンに向け、マリアンヌは魔法に興味はあるものの、悪い魔法だと判断しリリアンに身を寄せる。

 

「俺の食い意地がはってただけ!! 透視の魔法をやましいことになんて――」

「騒がしいな……」

「チャールズさま」


 マリアンヌを迎えに来たチャールズが部屋に入ってきた。

 いつもは廊下で授業が終わるのを待っているのだが、騒がしいグレンの声を聞き、入ってきたのだろう。


「誰の食い意地がはってたって?」

「俺だよ! 旨かったんだって! リリアンの――」


 私はグレンの身体に飛びつき、彼を押し倒した。

 距離があったから、グレンを黙らせるにはこうするしかなかった。

 

「ぐっ!」

「グレン、黙ってちょうだい」

「な、なんで――」

「黙って見てて!」


 仰向けに倒れ、頭をぶつけたグレンは、痛みをこらえながら顔を起こす。

 私はシッと人差し指をグレンの唇に押し当てた。

 赤面したグレンが理由を問うも、私は話さなかった。

 理由はこれから明らかになるのだから。

 私は密着させていたグレンの身体から離れ、その場に起き上がる。

 グレンも同様に起き上がった。


「マリアンヌ、迎えに来たよ。一緒に――」

「まってください!」

「……なんの用だ」


 チャールズはいつものようにマリアンヌと共に放課後を過ごそうとする。

 違うのはリリアンが、チャールズを引き留めたこと。

 チャールズの声は冷たい。

 マリアンヌにかける優しい声とは真逆だ。

 リリアンはチャールズの変わりように狼狽えるも、深呼吸をし、平静を保った。


「チャールズさまに渡したいものがあります」


 意を決したリリアンは、紙袋から包み紙がされたものをチャールズに差し出した。

 最後の一個。それはチャールズにプレゼントするもの。


「ああ……、そういうこと」


 状況を理解したグレンは独り言をぼやく。


「なんだ、これは?」

「私が作った……、マフィンです」


 リリアンは包み紙の中身をチャールズに答える。

 しかし、チャールズはそれを受け取らない。


「チャールズさまに食べてほしくて」


 リリアンは低く頭を下げた。


「あなたと婚約していた頃、私は何もあなたにプレゼントをしなかった。あなたは私の誕生日や記念日にプレゼントを贈ってくれたのに。当り前のように受け取ってた」

「……」


 リリアンはチャールズにこれが言いたかったのだ。

 前のリリアンは、自分が出来損ないだからチャールズに捨てられたのだと嘆いていた。

 今のリリアンは違う。婚約破棄された原因の数々に気づき、反省し、向き合おうとしている。

 このマフィンはけじめの一つ。

 昔の自分と決別するためのマフィンなのだ。


「一年、遅くなってごめんなさい。受け取ってもらえませんか?」

「わかった。お前の気持ち、頂戴する」


 チャールズは包み紙を受け取った。

 そして、その場で開け、リリアンの手作りマフィンをじっと見つめ、食べた。


「……美味しい」


 ぼそっと感想を述べる。

 しゅんとしていたリリアンの表情がぱあっと明るくなった。


「気づくのが遅かったな」

「いえ、私、リリアン・タッカードは立派な淑女になるために、これから沢山の事を学ぶのです」

「そうか」

「ええ。学びに速いも遅いもありません!」


 リリアンは堂々とした態度でチャールズに宣言した。

 これは後悔ではない。我儘だった過去の自分との決別なのだと。

 リリアンの発言にチャールズは笑った。


「なら、これからは友人として接しよう」

「はい。友人として!」


 チャールズがリリアンに手を差し伸べる。

 リリアンは自身の手を重ね、握手をした。


「お前の次の婚約者は幸せ者だな」


 互いの手が離れた後、チャールズはリリアンにそう言い、すぐに背を向けた。

 マリアンヌはチャールズの後ろを歩き、二人とも部屋を出てゆく。


「……いいもん見せてもらったぜ」


 二人が去り、扉が閉まるとグレンはパチパチと拍手をした。


「見世物じゃない!!」

「いやー、チャールズがあんなキザなこと言うなんておもしれえったら」

「……ああ、チャールズさまのほうね」


 茶化しているグレンにリリアンが怒鳴る。

 グレンはどうやらリリアンではなく、チャールズの様子を見て笑っていたらしい。


「ここで起こったことは、一人で楽しむとして……」


 グレンは扉の方を見る。

 チャールズがマリアンヌを迎えに来たということは、当然――。


「ローズマリーさま! 一緒に寮へ――」


 オリオンの迎えもくるのだ。

 私はいつものようにオリオンの傍に寄ろうとするも、オリオンと私の間にリリアンが割り込んだ。


「それはだめ」


 宿敵であるライドエクス侯爵家とタッカード公爵家のにらみ合いが始まった。


次話は9/2(月)に投稿します!楽しみに!!

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