表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
拾われ令嬢の恩返し  作者: 絵山イオン
第3部 第4章 リリアンの改心

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

165/188

特別試験


「特別試験を突破するまで……、楽器に触れることを禁じます」

「それじゃあ練習できないじゃない!!」

「お二人の問題は、練習ではないところにありますので」


 ブレストは私たちに楽器の演奏を禁じた。

 実技試験まであと一か月も切っているというのに、ヴァイオリンに触れられないのは痛い。

 無論、リリアンはブレストに抗議する。

 お願いだから、リリアンを刺激しないでほしい。

 暴れ出した彼女を止めるのは私なのだから。


「……それで、一番になれるの?」

「それは、貴方次第です」

「そう……、じゃあ、早く出しなさいよ」


 リリアンはブレストの言うことを聞けば、グレンを越えられると信じている。

 暴れ出すことはなさそうだ。

 

「特別試験は放課後行います」

「放課後……」

「ローズマリーさまは放課後、オリオンさまが迎えにいらっしゃいますね。彼には僕から事情を話しておきます」


 特別試験を突破するまで、放課後が拘束されることになる。

 お目付け役であるオリオンへの説明は、ブレストがやるから問題ない。

 他の問題は絵と手紙。どちらもアンドレウスのご機嫌を取るため。

 放課後を特別試験に割くとなると睡眠時間を削るしかない。

 

「あの、楽器を触れられない間、授業中はどのように過ごしたらよいのでしょうか?」

「そうですね……」


 現在、ブレストの授業は私とリリアン、マリアンヌとグレンの進捗をそれぞれ確認している。

 マリアンヌたちの進捗は順調のようで、ブレストは二人の指導をするわけでもなく様子を見に行くだけ。

 問題があるのは私たち。

 演習練習を始めると、必ずブレストが座っている。


「自由時間といたします」


 少し考えた末、ブレストが答えた。


「でしたら、絵を描いてもいいですか?」

「もちろん」


 授業中に絵を描けるなら、夜更かしをする心配もなさそうだ。

 

「では、授業が終わりましたら僕と一緒に特別試験の会場へ向かいましょう」

「で、どこよそこ」


 腕を組み、渋い表情を浮かべているリリアンが移動場所を訊ねる。

 放課後にしかできない特別試験。

 一体、私たちは何をさせられるのだろうか。


「製菓部です」


 ブレストは笑顔で答えた。



 放課後、私はブレストに連れられ、リリアンと共に調理室へやってきた。

 トルメン大学校には部活動がある。

 大きく文化部・運動部に分かれる。

 一学年、マリアンヌに扮していたときはそれどころでは無かった。

 ニ学年に編入しても、オリオンのこともあり、部活動に入ることなく学園生活を過ごしていた。


「ブレスト先生、こんばんは!」

「こんばんは。お願いしていた件なのですが……」

「はい! 材料はこちらです」


 ブレストが女子部員に声を掛ける。

 女子部員はテーブルに置かれた材料を示す。

 ムギコ、卵、バター、砂糖、膨らまし粉、焼き時間を測定する砂時計が種類ごとに置いてあった。

 この材料があれば、大体の菓子を作ることができる。


「用意してくださり、ありがとうございます。少しの間、調理台をお借りします」


 女生徒は笑顔で『お構いなく』と私たちに告げると、部活動に戻って行った。

 

「あの、質問いいですか?」

「どうぞ」

「どうして、特別試験に製菓を選んだのですか?」


 私は一つブレストに質問した。

 菓子作りは分量の正確さと手際のよさが求められる。

 それが、私とリリアンとの合奏を向上させる手段とは思えない。

 隣にいるリリアンも、不服そうな表情を浮かべている。


「ローズマリー王女に食品を扱わせていいのかしら? 毒見役がいないと食事もままならないのに」


 ブレストが私の質問に答える前に、リリアンが意地悪なことを言った。

 彼女の指摘はその通りで、私が口に入れるものは事前に毒見されている。

 朝食や夕食は料理人が、昼食ではオリオンが。

 目の前の食材を私が調理し、口にしてよいのだろうか。


「ご安心ください。こちらの食材は学長が自ら鑑定したものです。先ほどの女生徒には異物を混入する者がいないか見張りをお願いしていました」

「……ふんっ」

「ローズマリーさまの質問にもお答えいたしましょう」

 

 この特別課題は、実技試験と関係があるものなのか。

 私の問いにブレストが答える。


「合奏は相手の性格を知ることが上達の近道だと私は考えます」


 ブレストの言う通りだと思う。

 現状、主旋律である私の音色をリリアンがかき消している。

 原因は技術力・表現力が不足しているからではなく、互いの性格を理解していないこと。

 

「ただ、時に音楽は曖昧なもので、人によっては理解しがたい芸術です。ですが、製菓はすぐに見た目・味に良し悪しが出やすい。そのため、僕はこれを特別試験に選びました」

「ブレストの意図、理解しました」

「私はさっぱりですけど!!」


 演奏が上手くなっているか。

 合奏が良くなっているかどうか。

 それは指導者が判断することだが、聞き手によっては指導者と違う判断を下すときもある。

 一定の理論はあるものの、正解が個々によって違う、といった曖昧さがあるからだ。

 それに比べて、製菓は結果が見た目や味に出るので誰にでも判断がつく。

 

(私とリリアンの課題は”協力”)


 リリアンと協力して美味しいお菓子が作れたら、合奏も上手くなっている。

 それがブレストの狙いだ。


「リリアンさんは独りよがり、自己中心的な姿勢を矯正すること、ローズマリーさまは消極的なところを改善してもらいます」

「……」


 リリアンが黙った。

 文句をだらだら言い続けても、菓子を作らされるのだと理解したようだ。

 

「さあ、まずはマフィンを作りましょう」


 ブレストの一声で、特別課題が始まった。

次話は8/19(月)に投稿します!楽しみに!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ