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拾われ令嬢の恩返し  作者: 絵山イオン
第3部 第3章 オリオンの束縛

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取引

「そう……、一人で溜め込んで辛かったわね」

「聞いてくださり、ありがとうございます」


 抱擁を解き、私は胸の内をぽつりぽつりとマリアンヌに話す。

 マリアンヌは私の話を親身になって聞いてくれた。

 やっと誰かに話すことができて気持ちがすっと軽くなった。


「王様やオリオンさま、ウィクタールさまのことはよく知らないから答えられないけど――」


 マリアンヌは天井を仰ぎながら、私にかける言葉を探している。

 

「ルイスはあなたの事を愛しているわ。ウィクタールさまに心移りするはずがない!」

「そう……、でしょうか」

「正直に話してくれたのでしょう? あなたを愛しているからこそ本当のことを教えてくれたのよ」


 マリアンヌは半年間、ルイスと共に個室で勉強をしていた。

 その時にルイスから私の話をたくさん聞いたらしい。

 

「元主人のウィクタールさまには逆らえないのかもしれないわ」

「ウィクタールさまは……、ルイスに恋をしてます。あんな綺麗な方に猛アプローチされたら、私なんて――」

「ロザリー!! 弱気にならないの!」


 マリアンヌは私の頬をつまみ、軽く引っ張る。

 

「あなただって、ウィクタールさまに劣らず美人よ。自分に自信を持ちなさい!!」


 私が、美人?

 あのウィクタールさまに劣らず?

 私はマリアンヌの言葉を信じられず、ぱちぱちと瞬きをする。


「お手紙のお返事を書きましょう。ロザリーが訊いたらきっとルイスは答えてくれるわ」

「わかりました」


 朝、グレンから貰った手紙はバックの中に入っている。

 他に預かっていたものがあったみたいだが、それは明日受け取る約束だ。

 チャールズが戻ってきたら、私は女子寮へ帰り、ルイスへの返信を書こう。


「お姉さま、その……、チャールズさまとの仲は――」

「見ての通り、仲良しよ。ロザリーが心配することはないわ」

「結婚のことは――」

「それは先延ばしになっただけ。ついでだから私の卒業まで待ってもらおうかしら」

「チャールズさまと結婚したらお姉さまは……、マジル王国へ行ってしまわれるのですよね」


 マリアンヌの表情が陰る。

 結婚すれば、マリアンヌは王子妃としてマジル王家へ嫁ぐ。

 

「今のロザリーを残して嫁ぐのは……、心配だわ」


 ぼそぼそとマリアンヌは呟く。


「それを言い訳にしているのかもね。ズルいわね、私」

「お姉さま……」


 やはり、チャールズとの結婚について葛藤しているみたいだ。

 仲良くなったけれど、今のマリアンヌはチャールズを婚約者としてみていない。

 本心で私のことを心配してくれているが、まだマジル王国へ嫁ぐ決心がついてないようだ。


「私のことはいいの! ロザリーの方が大変そうだもの」


 マリアンヌの笑顔が戻った。

 私もつられて笑みを浮かべてしまう。

 

「ロザリーだったらきっと乗り越えられるわ。私の力が必要ならいつでも声をかけてね」


 マリアンヌは泣き腫れた私の目元に触れる。


「もう、また泣きそうな顔をして。ロザリーは泣き虫ね」

「だって、お姉さまが優しい言葉をかけるから」

「あら、厳しいことを言ったほうがよかったかしら?」

「いいえ。今の私は……、お姉さまに甘えたいです」


 私はマリアンヌに抱きしめられる。腕の中にいると不安がまぎれる。


「一緒にトルメン大学校を卒業しましょう」

「はい」


 頭を優しく撫でられる。

 耳元で約束を告げられ、私ははっきりとした声で返事をした。


 コンコン。


 ノックの音が聞こえた。

 チャールズが戻ってきたようだ。


「もう、いいかな?」

「チャールズさま。マリアンヌと話す時間を作っていただき、ありがとうございます」

「ローズマリーと親交を深めることは、こちらとしても利点になるからな」

「利点……」

「マジル王国はカルスーン王国に敗戦した。このままではメヘロディはカルスーンに付くだろう」


 祖国の立場が不安定だから、チャールズは一国の王子として私と親交を深めたいんだ。

 アンドレウスは私を溺愛している。

 私の機嫌を取れば、二国間の関係を維持できる。

 打算的なところは相変わらずのようだ。


「俺は祖国の関係維持、君はマリアンヌと昔の様に話せる。互いに良い条件だろう」

「……そうですね」


 マリアンヌはチャールズの婚約者。

 もう、気軽に会って話せる間柄じゃない。

 辛いことが多い、今の私にはマリアンヌの支えが不可欠。

 不本意だがチャールズの条件に乗るしかなかった。


「二人とも、女子寮まで送るよ。それがオリオンとの約束だからな」

「チャールズさま、お茶の時間とても楽しかったです」

「また、茶菓子を食べにおいで」

「はい」


 私はチャールズと次のお茶会の約束をし、女子寮へと帰る。



 部屋に帰ると、ふてくされた顔のウィクタールが待っていた。


「ローズマリーさま、こちらを」


 私の前に一通の手紙が付き出される。


「アンドレウス国王からのお手紙です。明日の朝に届くよう、今夜中に返事を書いてください」

「えっ、お父様から!?」

「その時間に手紙が届いていなければ、アンドレウスさまは直接トルメン大学校に来られるでしょう。最悪、フォルテウス城に連れ戻されるかもしれませんね」

「……分かりました。すぐに書きます」


 私はウィクタールから手紙を受け取り、自室に入った。バックを置き、デスク前に座り、ペーパーナイフで封を開ける。

 離れて一日も経っていないのに、城へ戻ってきて欲しいという気持ちが延々と綴られていた。

 明日の朝までに返信しろだなんて。

 寮内でやらなくてはいけないことがまだあるというのに。


「ううん、弱音を吐いては駄目。支えてくれるみんなのために頑張らないと」


 私はぶんぶんと首を振ることで気分を変え、荷物に入っていた筆記用具を使ってアンドレウスに返事を書く。

次話は7/22(月)7:00更新です!

お楽しみに!!

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