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拾われ令嬢の恩返し  作者: 絵山イオン
第3部 第3章 オリオンの束縛

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元義姉の優しさ

 食堂の個室に入ると、見慣れないものがたくさん用意されていた。

 マジル王国風のティータイムなのだろう。


「わあ……、綺麗だわ」


 私は感嘆の声をあげる。

 花を模した淡い色の物体。これは陶芸品なのだろうか。

 だけど、それは薄い紙の上に置かれていてそのすぐ傍に、木製の小さなナイフがある。

 

「二人とも、座ってくれ」


 チャールズに促され、私とマリアンヌはソファに座った。


「それが気になるかい?」

「は、はい……」


 気づかぬ間に凝視していたのだろう。

 チャールズに声をかけられ、私は小さく頷いた。


「それは”ネリアン”というマジルの伝統菓子さ。季節の花や葉を模して造り、その季節を感じながら茶を味わう文化があるんだ」

「へえ……」

「相変わらず君の反応は面白いね」


 チャールズが笑っている。彼が説明をしている間も、ネリアンを凝視していたからだろう。

 

「マジル国の食文化はどれも目新しいものばかりですから」

「そうやって照れ隠しするところも相変わらずだ」

「……」


 以前、マリアンヌに扮してトルメン大学校に潜入していた頃、私はチャールズと共に昼食を摂っていた。彼はマジル王国の料理を私に食べさせてくれた。

 どれも私を驚かせ、クラッセル領にマジル料理店を開きたいと思ったくらいほどに好きだった。


「マリアンヌは反応が薄くてね……」

「あら、どれも美味しいものでしたわ。特に、お魚! 身がホロホロしていて、新鮮なものですとああいう食感がするのかと驚きましたわ」

「今は、こう言ってるけど、さっきはローズマリーと食事ができなくて落ち込んでいたんだよ」

「……これは本当に思っていたことなのですよ」

「膨れるところも、本物のマリアンヌは可愛いな」


 チャールズとマリアンヌの会話は自然だった。

 二人の関係は良好に向かっているようだ。


「三人分用意されていたということは、私を誘うつもりだったのですか?」

「もちろん」

「ご配慮、ありがとうございます」


 元々、チャールズは私をお茶に誘う予定だったようだ。

 そうでなければネリアンが三人前準備されているはずがない。


「俺の国では茶菓子を食べてからお茶を飲むんだ。お茶はこれから出てくるからゆっくり話そう」


 チャールズは木製の小さなナイフでネリアンを真っ二つにし、口の中に入れる。

 綺麗な装飾がされた菓子を迷いなく真っ二つにするなんて。

 

「この花はマジル王国で入学や卒業の季節に咲く。時間が経つと散るんだが、その様が綺麗でね」

「今に丁度良い花、なのですね」


 私は花びらの形にそってナイフを入れる。

 その一つを口に入れるとほんのり甘い風味がする。

 口触りもメヘロディ王国ではないもの。


「とても美味しいです!!」


 久々にマジル国料理を食べられて、嬉しい。

 マリアンヌはふふっと微笑んでいた。


「よかった」

「え?」

「ローズマリーが素直に喜んでいるから」


 マリアンヌが安堵したのは、私のことが心配だったからだ。

 

「私、ローズマリーとお話がしたかったの! お城にいた時の話とか、相部屋には誰がいたか……、とにかくいっぱい!!」


 マリアンヌは両手を広げ、身体全体でいっぱいを表現した。

 昨日は荷造りや女生徒に囲まれ、昼休みではチャールズと共に食事をとっていた。

 マリアンヌは放課後というこの時を待っていたに違いない。


「君たちのおしゃべりはとても長いんだろう? その前にマジルから取り寄せたお茶を飲んでくれないか?」


 私たちの前に大きな器が置かれる。

 底が深く、メヘロディ王国でも見たことがない形をしていた。

 器の中には濃い緑色の液体が入っていた。

 これが、お茶?

 見たことのない水の色に私とマリアンヌは戸惑っていた。


「これがマジル王国のお茶、ですか?」


 水の色をまじまじと見ながら、チャールズに訊ねる。

 

「俺が飲むからそれを真似してくれ」


 チャールズは器を右手で持ち上げ、左手を底に添える。

 器を右に回し、底を持ち上げ、お茶を口に含む。

 私たちはチャールズの仕草を真似て、緑色のお茶を飲んだ。


「に、苦いわ!!」


 マリアンヌは器をテーブルに置き、こほこほと咳き込んだ。

 彼女の言う通り、紅茶とは違う苦さを感じた。

 舌を口の中で動かすと、まだ苦さが残っている。

 私たちの反応をみて、チャールズは笑っていた。

 

「初めて飲む人は大体、そんな反応をするんだ」

「知っていて試したのですね」

「ローズマリーはそのうちフォルテウス城で体験したさ。その様子だとやってなかったらしいがな」

「そのうち、ですか?」

「異国のマナーとして、教育を受けるだろう?」

「マナー教育……」


 フォルテウス城にいたとき、私はそのような教育を受けていなかった。

 大半はアンドレウスと共に公務を受けていた。

 皆に私を会わせたいのだと思っていたから気に留めていなかったが、チャールズの指摘ではっとする。


「受けていないのか?」

「はい」


 素直に答えるとチャールズは驚いていた。


「あのグレンでさえ、受けているんだぞ」

「チャールズさま、ローズマリーを虐めないでください。彼女は王女になったばかりなのです。マナー教育の前にやらないといけないことがあったのかもしれません」

「そうだな。他国の事情に首を突っ込むものではないな。すまなかった」


 チャールズは私に謝った後、茶を二口飲んだ。

 器の中に入っていたお茶が無くなる。


「三口で飲み切る。それがお茶のマナーだ」

「教えてくださり、ありがとうございます」


 私とマリアンヌはチャールズに教わりながらネリアンとお茶を飲み切った。


「じゃあ、俺は席を離れるよ」

「えっ」

「二人で話したいこともあるだろう? オリオンのこともあるから、一時間で戻ってくるさ」


 そう言うと、チャールズは一人個室を出て行った。

 二人きりになると思わず、私はぽかんとした表情でパタンと締まるドアを見つめる。


「一時間で足りると思っているなんて! 私とローズマリーのおしゃべりはそれでは終わらないわ!!」

「一時間だけでも……、マリアンヌと二人でおしゃべりできる時間が取れて、私は嬉しいですよ」

「そ、それはそうだけど」


 わずかな時間でもいい。

 二人で話したいことが沢山ある。

 感極まった私は、マリアンヌをぎゅっと抱きしめた。

 

「やっぱり、疲れていたんじゃない」

「ごめんなさい。マリアンヌに心配をさせたくなくて。だって、私は――」

「二人きりの時は我慢しなくていいのよ。ロザリー」

「お姉さま」


 マリアンヌは私の背を撫で、トントンと優しく叩いてくれる。

 久しぶりにマリアンヌの事を『お姉さま』と呼んだ。

 その一言で私の胸の内にあった不安が溢れてくる。


「う、うう……」


 涙が頬をつたう。

 ずっと私は我慢していたのだろう。

 私の人生を否定する父親、アンドレウスのこと。

 フォルテウス城での息苦しい生活。

 婚約者であるオリオンの存在。

 恋敵、ウィクタールの存在。

 恋人のルイスに嘘をつかれたこと。

 ルイスは私の事を本当に愛しているのか感情がぐちゃぐちゃになっていること。

 悩みを誰にも相談できなかった。


「今日はロザリーのお話にしましょう」

「おねえさま……、あの、ね――」


 私は泣きながらマリアンヌに、今までの出来事を全て話した。

次話は7/21(日)7:00更新です!

お楽しみに!!

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