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拾われ令嬢の恩返し  作者: 絵山イオン
第3部 第3章 オリオンの束縛

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王女の試練

「うそ……」


 私はブレストの話を聞き、絶句した。

 アンドレウスは私の入学をしぶしぶ認めてくれたのだと思ったのに。

 自身が安心するようにお目付け役にはライドエクス姉弟、講師にはブレストを送って私の学園生活を見守ってくれるのだと思っていたのに。

 アンドレスは私を卒業させる気などなく、ブレストに命じて第二学年で退学させようとしていたとは。


「王命ですので、それを守らねば僕は”神の手”の座を降ろされ、音楽界にもいられないでしょう」

「……」

「家族を養わねばなりませんので、僕はその命令に従わなければなりません」


 ブレストはアンドレウスの臣下。

 命令を守らなければ、今の地位をはく奪される。


「お父様は……、私が音楽の道に進むのを許していなかったのね」


 アンドレウスは私をフォルテウス城に閉じ込めたいらしい。


「何故、僕が貴方にこの話をしたかと申しますと……」


 ブレストが私に正直に話してくれたのには理由がある。

 私はブレストの話を待った。


「ローズマリーさまの演奏がお上手だからです」

「……」

「クラッセル子爵が弾いているような音色でした」

「あ、ありがとうございます」


 演奏を褒められると思わず、私は戸惑いながら礼を言った。


「実は、フォルテウス城でヴァイオリンを指導していた部下にもローズマリーさまの腕前を聞いていたのです」

「そ、そうなのですね」

「僕の見立てですと、グレン殿と同じく、難なく進級出来るかと」

「……ということは、私の課題は――」


 ブレストの話を聴き、私の課題はリリアンやマリアンヌと違うものだと悟る。


「お父様を説得すること……、そうですよね?」

「私に与えられている王命を解いてください。そうすれば、ローズマリーさまは進級出来ます」


 私の課題はアンドレウスを説得すること。

 学園生活を送りたい、卒業したいことを当人に伝えないといけない。

 アンドレウスが音楽の道に難色を示しているのは、養父クラッセル子爵の存在だ。

 自分の手で私を育てたかった。自身が極めている絵の道に娘を進ませたい、という気持ちが強いのだ。

 私に対する執着も、幼少期共にいられなかった寂しさからきている。


「助言ありがとうございます。一年かけて説得いたします」

「ヴァイオリンに関してはキリアイン殿を頼ると良いでしょう。フォルテウス城では引き続き部下を指導に付けます」

「ご配慮ありがとうございます」


 ブレストは私に協力的だ。

 私はブレストに感謝する。


「僕の話は終わりです」


 ブレストが席を立つ。

 彼に合わせて私も席を立ち、彼についてゆく。


「では、グレン殿」


 ブレストがグレンを呼ぶ。

 私は舞台袖から出て、マリアンヌの下へ戻る。



 午後の授業も終わり、放課後。

 私たちは演奏室を出る。


「俺、図書委員の話し合いがあるから」


 グレンは早々に輪の中から抜ける。

 リリアンも別れの挨拶をせずにこの場から去っていった。


「ローズマリーは予定はある?」

「いいえ。女子寮へ帰ろうと思っていました」

「だったら、お茶を飲みにいかない? お話がーー」

「マリアンヌ!」

「あっ……」


 マリアンヌに誘われるも、チャールズが現れる。


「チャールズさま……」

「やあ、そっちも授業が終わったんだろ?」

「ええ。ローズマリーとお茶の約束を――」

「ローズマリーさまか……」

「駄目かしら?」

「いいや。俺もローズマリーさまと話したいな」

「あら?」


 また、誘いを中断されると思いきや、話に加わりたいと言い出した。

 想定外の答えにマリアンヌはびっくりしている。

 

「それとも、秘密の話をする予定だったのかい?」

「ただのおしゃべりよっ! ローズマリーがいいのなら……」

「私は構いませんよ」


 私は困っているマリアンヌに助け舟を出した。


「じゃあ、食堂へ行こうか」


 私とマリアンヌ、チャールズはお茶が飲める食堂へ向かおうと歩き出したその時。


「ローズマリーさま」


 授業を終えたオリオンとウィクタールが私を呼ぶ。

 チャールズの存在に気づき、オリオンは彼に頭を下げた。


「チャールズ王子、ごきげんよう」

「やあ、オリオン。学校で話すのは初めてだね」

「も、申し訳ございません。寮内の顔合わせが思ったより長引きまして――」

「グレンには嫌味を言えたのにな」

「……」


 チャールズは挨拶をしつつも、鋭いところをついてくる。

 オリオンが苦い顔をして、黙り込んでいる。


「オリオンは入学のあれこれで大変でしたの! それでいいでしょう?」

「ウィクタール、君は相変わらずだな」

「ふんっ!」


 ウィクタールは困っている弟を庇う。

 その様子をチャールズに笑われるも、ウィクタールは視線を背けた。

 美形のチャールズに微笑みかけられても、ウィクタールはなびかない。

 ウィクタールの理想の男性はルイスただ一人なのだから。


「私たち、ローズマリーさまを迎えに来ましたの。そちらは何を?」

「ウィクタールさま、あの……」


 ライドエクス姉弟の目的は私だ。

 登校もオリオンが待っていたのだから、下校もやってくるだろうと思っていた。

 だが、私はマリアンヌとお話がしたい。

 同じ学校に通えているのに、これではお喋りもままならない。


「私……、マリアンヌとお話をしようと思っていて」

「ローズマリーをお茶に誘ったの! チャールズさまと一緒に行くのだけど……、だめかしら?」


 私は二人に”用事がある”と告げた。

 マリアンヌが私の隣に立ち、用事を簡単に教える。

 昔から、マリアンヌはおねだりが上手だ。

 自分たち二人ではなく、チャールズ王子が一緒だからいいでしょ?と相手が妥協しそうなことを言う。


「なら、いいんじゃない? どう、オリオン」

「……分かりました。チェスの続きはまた今度にいたしましょう」

 

 二人はあっさりと引き下がった。

 これがもし、グレンだったら昼食の時のように挑発的に出ただろう。

 ライドエクス姉弟は私たちに背を向け、この場から去って行った。


「さあ、行こう。メヘロディ王国の隠し子、ローズマリー王女」


 チャールズは以前、私に話してくれた言葉を使う。

 私はそれに対して口を開いたが、その前にチャールズが背を向け、歩き出す。

次話は7/15(月)7:00更新です!

お楽しみに!!

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