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拾われ令嬢の恩返し  作者: 絵山イオン
第3部 第3章 オリオンの束縛

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学校でも変わらない

 昼休み。


「一緒にご飯を食べに行きませんか?」

「ええ! ローズマリーとお話がしたかったの!!」


 私はマリアンヌとグレンを昼食に誘った。

 二人は快く受け入れてくれたものの、教室を出るとチャールズがいた。

 

「マリアンヌ、迎えに来たよ」

「あっ、チャールズさま。あの――」

「マジル料理を沢山用意したよ。行こう!」

「……ごめんね」

「いえ。そちらを優先してください」


 チャールズはマリアンヌを昼食へ誘う。

 マリアンヌは困った顔でローズマリー、チャールズを交互にみる。

 断ろうとするも、チャールズの笑みを見てマリアンヌは諦めた。

 二人は並んで食堂へ向かう。

 食堂にある個室でマジル料理を食べているのかしら。

 メヘロディ国では食べたことのない食感や味がするから、マリアンヌにも楽しんで欲しい。

 一緒にお昼ご飯を食べる機会はいくらでもあるだろうし、また誘おう。


「チャールズさま、嬉しそうだったわね」

「まあ、敗戦処理も終わっただろうしな。マリアンヌと一緒に居られる時間も長くなるだろうし」

「その……、グレンとチャールズさまは――」

「面識はあったぜ。近い年頃だったからしょっちゅうな」

「じゃあ、グレンが”グレゴリー”だったことも」

「当然知ってただろ。一学年の時は戦争のこともあって互いに仲が悪かっただけだ」

「そう」


 食堂へ向かいながら、私とグレンはチャールズの話をする。

 一学年の頃、チャールズがグレンに殺意を抱いていたのは互いに一国の王子だったから。

 終戦した今、二人の関係は少し良くなったようだ。

 

 チャールズの祖国、マジル王国はカルスーン王国との戦争で負けた。

 マジル王国が敗戦したことはメヘロディ王国でも大きく報じられた。

 かの国と交流を深めようと思っていたこちら側としても大問題だ。

 フォルテウス城内でも「マジル王国との関係を控え、カルスーン王国との関係を深めるべきではないだろうか」という議論が今も続いている。

  

「仲良しってわけでもなかったけど」


 間を置いて、グレンがぼそっと呟く。

 話が一段落し、私とグレンは黙って歩く。


「ローズマリーさま!」


 この声は。

 振り返ると、オリオンがいた。

 満面の笑みを浮かべて。


「グレゴリーさま、”あの時”以来ですね」


 グレンを見るなり、オリオンの口元が引きつっている。

 無理をして笑っているようだ。

 棘のある挨拶をグレンにかける。


「そ、そうですねえ」


 グレンはオリオンの威圧に怯えていた。


「他国の王子でもあれは許されませんと思いましたが、よくトルメン大学校の在学を許されましたね」


 オリオンはグレンの痛い所を突く。

 隣にいたグレンはオリオンから視線を逸らしている。


「貴方はアンドレウスさまの寛大な処置でここにいることをお忘れなく」

「ええ。あのようなことは二度といたしません。お恥ずかしながら、オリオン殿と同じことを兄に言われましたので」


 グレンの声が段々と小さくなってゆく。

 きっとヴィストンにこっぴどく叱られたのだろう。


「でしたら、ローズマリーさまから離れていただけませんか」

「……」


 オリオンは端的に用件を告げる。

 グレンは気まずそうな表情で私を見た。

 現状はグレンが圧倒的に不利だ。

 私は首を小さく振り、オリオンの元へ歩いた。


「では、一緒にまいりましょう」


 私は差し伸べられたオリオンの手を取った。

 私たちはグレンを残し、食堂へ向かった。



「こちらへ」


 オリオンは学生たちが利用している場所ではなく、個室へと通される。

 個室へ入ると、食べきれない量の料理が用意されていた。

 向かい合う形で座ると、飲み物が注がれる。


「グレンと仲がよいのですね」

「はい。クラスメイトですから」

 

 食事を始めるなり、オリオンは私にグレンの話題を振る。

 私は正直に答えた。


「マリアンヌさんとは……、言わずもがなですよね」


 マリアンヌと六年間一緒に育った。

 そのことは父親のカズンから聞かされているだろう。


「マリアンヌさんはともかく……、グレゴリーさまと親しくなるのは良くないと思います」

「……」

 

 オリオンは私に苦言を呈す。

 私はオリオンの言葉聞きながら、口の中に入っている料理を飲み込む。

 オリオンはグレンの事を良く思っていない。むしろ嫌いだと思う。

 でも、オリオンの言葉は個人の感想ではなく、メヘロディ国の情勢を考えての発言だろう。

 今の情勢は不安定だ。

 それなのに、王女である私がカルスーン王国の第五王子であるグレンと二人きりで歩いていると、王家はカルスーン王国につくのかもしれないなどと周りが勝手に思う可能性がある。


「我が国はまだマジル王国に付くという方針です。ローズマリーさまがチャールズさまではなく、グレゴリーさまと仲良くしていたら――」

「オリオンさま」


 私はオリオンの発言を遮る。


「トルメン大学校では、皆、平等です。身分・国籍関係なく勉学や技を磨くことを理念にしています」


 私はトルメン大学校の理念を口にした。

 その理念があるから、王女である私も付き人のサーシャを付けず、一人の女学生として学園生活を送れている。


「校内ではチャールズさま、グレン、私もただの生徒です。オリオンさまに私の交友関係をとやかく言われる筋合いはありません」


 私はきっぱりオリオンにそう言い、今後もグレンと友人として付き合うと主張した。

 私の主張にオリオンはため息をついた。


「平等? そんなわけないでしょう」


 普段の口調と少し乱れている。

 不機嫌になっているのが感じ取れる。


「ただの生徒として生活されては困ります。あなたはメヘロディ王国の第一王女。今は平和ですが、イスカさまの息がかかった生徒が、ローズマリーさまの食事に毒を混ぜて殺害するかもしれませんから」


 個室に通されたのは、ちゃんとした理由があったのか。

 第一王子は初めて会ったときから敵意を私に向けていた。

 トルメン大学校まで来れば何もされないだろうと思っていたが、オリオンとウィクタールのように、イスカの息のかかった生徒がここにいるかもしれない。

 そこまでは考えていなかった。

 私はオリオンの言葉にはっとする。


「ローズマリーさまの身の安全を守るために僕と姉がここにいるのです」

「……ありがとうございます」

「食事と水を飲むときはお気を付けください。僕や姉が傍にいないときは特に」


 学園での生活は危険が多く潜んでいる。

 フォルテウス城を出ても、私はイスカに怯えて生活しないといけないのか。

 この様子だと、グレンやマリアンヌと食堂で共に食事を摂ることは出来なさそうだ。

 フォルテウス城の生活から解放されて、自由な学園生活が送れると思っていたのに。

 私は心の中でため息をつく。

次話は7/8(月)7:00更新です!

お楽しみに!!

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