特別な講師
マリアンヌと再会した私は、一緒に校内へ入った。
音楽科二学年の始業式は、私が参加するため、別室で行うことになっている。
騎士たちとは、校内に入るところで別れ、私とマリアンヌは指定された部屋まで一緒に歩いた。
「あの、チャールズさまはどうしたのですか?」
「始業式。さっきまで一緒にいたんだけど、ローズマリーの所に行きたいって、私から離れたの」
「その……、結婚の件ですが」
「チャールズさまは気落ちしていたけど、気にしないで」
私は婚約者のチャールズについて聞く。
マリアンヌとチャールズは入学前に結婚する予定だったが、彼の祖国マジル王国が戦争に敗戦したため、ご破算になったらしい。
私も招待客として呼ばれていたのだが、中止の連絡が届き、心配していたのだ。
「正直、私はほっとしているの。チャールズさまのこと、少しずつ知れるから」
マリアンヌは自身の婚約者のことを良く思っていない。
だが、婚約者として歩み寄ろうとしている。
きっと二人は良い夫婦になれるだろう。
「よっ、二人とも」
「グレン!!」
私たちの前に、制服姿のグレンが現れた。
グレンとは客間での一件きり、会っていない。
彼の兄ヴィストンに叱られた後、何をやっていたのだろうか。
「ローズマリー、この間はありがとうな」
「あの後……、どうなったの?」
「ヴィストン兄さんに怒鳴られただけ。うん」
第二王子の事を話題に出すと、グレンの声のトーンが一段階落ちた。
こっぴどく叱られたのだろう。
「……相当酷かったのね」
「結果、家出から留学に変わったから。それに戦争も終わったし」
グレンはカルスーン王国から来た留学生となったため、学費の心配をしなくてもよくなった。奨学金にこだわらなくてもいいのだ。
「ローズマリーはどうだったんだ?」
「私は――」
私はマリアンヌとグレンにフォルテウス城の出来事を話す。
一日で三回ドレスに着替えたとか、スケジュールが緻密に決まっていて、自由な時間が起床と就寝時間しかないなど。
友人と話が出来て、晴れた気分になった。
「あら、わたくし以外の三人は、仲良しですのね」
「……リリアンさま」
「残ったのは、マリアンヌとグレンと……、ああ、編入した噂の王女様ですわね」
少し遅れて、リリアンがやってきた。
リリアンは態度や振る舞いは堂々としていたものの、彼女は一人で、いつもそばにいる取り巻きがいなかった。あの人たちは最終試験に落ちたのだろう。
「邪魔でしょうけど、二年間よろしくあそばせ!」
リリアンはわざとらしい一言を私たちに投げ、先に教室へ入って行った。
「うっわ~、嫌な奴」
リリアンがいなくなった後、グレンは率直な感想を述べる。
「私たちも入りましょう!」
マリアンヌに引かれ、私たちも教室に入る。
教室には四組の机と椅子が横一列に並んでおり、教壇に私たちの担任の先生が立っていた。
(あっ、クラッセル子爵の後輩の――)
その先生はクラッセル子爵の後輩。
私がマリアンヌとして潜入した時、実技試験官の一人だ。
「四人とも、二学年への進級おめでとう」
机にそれぞれの名前が書かれている。私たちの席のようだ。
左から、私、グレン、マリアンヌ、リリアンの順。
私たちは起立した状態で、先生の話を聞く。
「僕は君たちの担任のキリアインだ」
キリアインは私をじっと見る。
「今年はローズマリー王女が在学している。注目されるだろうが、気にせず、個々の能力を伸ばすように」
「はいっ!」
皆の返事が重なる。
私が在学していることで、音楽科二学年は注目されるだろう。
私の姿を見るために、他学年の生徒がここに来るかもしれない。
キリアイン先生はそれを見越して、私たちに鼓舞した。
コンコン。
誰かのノック音が聞こえる。
キリアインはコホンとわざとらしい咳払いをする。
「このクラスはそういった事情もあり、特別講師を呼ぶことになった」
パンッと廊下にいる人に向けて、手を叩く。
それを合図に、一人の男性が入ってきた。
「っ!?」
男性の登場に私たちは息を呑む。
「メヘロディ国立楽団のピアニストをしております、プレスト・コン・アレガロと申します。お見知りおきを」
私たちの特別講師が、神の手であるブレストだったからだ。
次話は6/23(日)7:00更新です!
お楽しみに!!




