親子で夢を語らう
翌朝。
目覚めた私は、ルイスがいたほうへ顔を向けた。
その場にルイスはおらず、ベランダの窓も閉まっていた。
昨夜は夢のような幸せな時間を過ごせた。
「おはようございます。ローズマリーさま」
定刻になるとサーシャが私の部屋に入ってきた。
両手に、私のドレスや化粧箱を抱えている。
「いい夢を見られたようですね」
「えっ!?」
「とても良い笑みを浮かべていましたので」
サーシャに言われ、私は両頬をおさえる。
口元が今まで以上に緩んでいたのかしら。
図星を突かれ、私はサーシャに背を向けた。
「では、ドレスに着替えながら今日の予定についてお話いたしますね」
「ええ。お願い」
私とサーシャは午後の公務に向けて、身支度を整える。
☆
ルイスと再会した夜から、二週間経った。
その間、私はメヘロディ王国の王女としてアンドレウスと共に、数々の公務をこなした。
要人との顔合わせに、領地を治める貴族たちの嘆願、政の参加など休む間もなかった。
空いていた時間をヴァイオリンの練習にあて、編入に備えていたのもある。
指導者がクラッセル子爵ではなく、楽団一のヴァイオリン奏者に変わったため、慣れるのに苦労したが感覚は取り戻せたはずだ。
「ローズマリー、明日から学校だね」
夜、私はアンドレウスの部屋に呼ばれた。
明日、フォルテウス城を出てトルメン大学校に入寮する日だ。
「本当は君をトルメン大学校に連れて行きたくない。でも、ヴァイオリンを続けたいんだよね」
アンドレウスは最後の最後まで、トルメン大学校の編入について難色を示している。
「はい。音楽が大好きですから」
「……休日は帰って来てほしい」
「善処します。難しい時は手紙でお伝えしますね」
手紙で伝えなければ、毎週、大学校の前に馬車を置いて迎えにくるだろう。実技試験のこともお構いなしに。
「時間があったら……、絵も描いて欲しい」
「絵を教えてくださる約束でしたのに、私が疲れて眠ってしまい……、お父様に教えてもらう時間を作れませんでしたね」
「いいや。今回は詰め込み過ぎたから仕方ないよ」
「お父様は、公務の後、自室で絵を描かれているのですか?」
「寝る前に少しずつ、ね。王様になってからはそこしか自由な時間が取れないから」
立てかけてある製作途中の絵を見る。
私とアンドレウスが広間で並んでいる立っている絵。
周りには私たちを歓迎してる貴族たちが描かれている。
お披露目会の一面のようだ。
まるで、絵の中に私たちがいるような描写で、素人の私でもかなりの腕前だというのがうかがえる。
絵のそばに様々な色の絵の具が置いてあることから、現在は絵に色を付ける工程のようだ。
「お父様の絵……、素敵です」
「昔は時間を忘れるほど没頭していたんだけどね」
「そうなのですね」
「この絵も、君が学校へ行く前に完成させたかったんだ」
昔、それはアンドレウスが王子だった頃のことだろう。
アンドレウスが描いた絵は、王宮や美術館に飾られている。
背景画・人物画・抽象画どれも一級品だった。
「完成、楽しみにしています」
「そう言ってくれると、作業もはかどるよ」
アンドレウスはポンと私の頭の上に手を置き、優しく撫でてくれる。
「僕は親子で絵のことを語るのが夢だったんだ」
「お父様……」
夢見心地に語るアンドレウスの傍ら、私はうつむいた。
アンドレウスにとって、”親子”と呼べるのは娘の私だけ。
その夢に二人の兄たちはいない。
国王の私に対する偏った愛情はどこからくるのか。
私はまだ、アンドレウスに聞けずにいた。
今回で第2章が終わりました。
次章からトルメン大学校編に戻ります。
音楽科二学年に編入したローズマリー。
彼女の学園生活はいかに!!
次話は6/16(日)7:00更新です!
お楽しみに!!
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