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拾われ令嬢の恩返し  作者: 絵山イオン
第3部 第2章 アンドレウスの偏愛

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罪悪感

 日は陰り、夜になる。


「はじめまして、サーシャと申します」


 私の部屋に一人のメイドがやってきた。

 黒の丈長のワンピースに白いフリルのついたエプロン。金色の髪を顔にかからぬよう後ろに縛り、ぱっちりとした茶の瞳は私を見つめている。

 肌のハリからして、年齢は私と近そう。


「アンドレウスさまからローズマリーさまのお世話を任されました。よろしくお願いいたします」

「……よろしくお願いします」


 サーシャは私専属のメイドのようだ。

 

「日が暮れましたので、洋灯を点けに参りました」

「ありがとう。でも、火薬棒をくだされば、一人でできるわ」

「とんでもない! ローズマリーさまにそのようなことさせられません!!」


 部屋が暗くなったから、洋灯に火を点けようと思ったが、先端に少量の火薬がついた火薬棒が見つからず困っていたところだ。

 それさえあれば、一人で点けられるとサーシャに告げるも、彼女は私の言葉に驚いていた。


「もし、姫様の美しい手が火傷してしまったら――」

「……余計なことを言いました。サーシャ、洋灯に火を点けて下さいますか」

「はい!」


 サーシャは部屋の洋灯に火を点ける。その際に油がなかったら注ぐ。

 クラッセル子爵家にいた頃はメイドに油を用意してもらうくらいで、後は一人でやっていた。

 この城では私は王女。

 自ら何かをすることはあり得ない。火や刃物を扱うことはもってのほか。


「終わりました。いかがですか?」

「……読書や書き物をしたいので、机に置く洋灯を一つ欲しいです」


 サーシャは手際よく部屋中の洋灯に火を点けてくれた。

 これで部屋が明るくなったものの、手元が少し心もとない。読書や日記を書く際の洋灯は一つ欲しい。

 サーシャに要望すると、彼女は「すぐにご用意いたします!」と笑顔で答えてくれた。


「他にご用事はありますか?」

「あの、食事や入浴はどうしたらいいのかしら」

「食事はアンドレウスさまとご一緒していただきます。入浴は食後、準備が出来次第、私がローズマリーさまに声をかける形になるでしょう」


 サーシャに私の今後の行動について聞いた。

 自室とアンドレウスの部屋しか自由に行動できない。日常生活はどうなるのかと。

 それを説明してくれるアンドレウスは心労で眠ってしまった。警備をしている騎士はアンドレウスの指示が無いと私に教えることも出来ず、サーシャがやってくるまで私は退屈していた。


「それで……、お父様は――」

「先ほどお目覚めになりました。カズンさまと共に、どこかへ行かれましたが……」


 次にアンドレウスについて聞く。

 私が部屋を訪れた時は、彼は自室で熟睡していた。

 あれから数時間が経つ。

 サーシャにアンドレウスの様子を問うと、彼は目覚めており部屋を出ているようだ。

 護衛であるカズンを連れて王宮を出るのは当然のことで、グレンのことではなくただの公務かもしれない。


「お父様とお話がしたいの」

「えっと……」

「お父様の許可が無いと、王宮から出てはいけないことは知っているわ。でも……、ここは何もなくて退屈だわ」

「私の一存では決められません」


 サーシャは私から視線をそらし、困った顔をしている。目が泳いでおり、優先すべきことはアンドレウスの命令か私の願いかと迷っているみたいだ。

 それらしい理由を並べ、後押ししてみたがサーシャはアンドレウスの命令を優先した。


「わがままを言ってごめんなさい」


 サーシャを説得するのは難しいと判断し、すぐに引き下がる。


「お父様はいつ戻って来るの?」

「分かりません。私はローズマリーさま専任のメイドなので」

「……」


 アンドレウスの予定を知っているのは、宰相、騎士のカズン、サーシャより高位なメイドか執事と限られている。

 私は自分に置かれている状況とアンドレウスの性格を考える。

 少し黙り、私はサーシャに一つお願いをした。


「お父様に伝言を頼みたいの」


 考えた末、私は自らアンドレウスを探すのではなく、彼をここに来るように誘導することにした。

 私の目論見が当たり、アンドレウスは私の部屋にきた。


 

「ローズマリー!」


 アンドレウスは部屋を訪ねて来てすぐ、私を抱きしめた。


「一人にしてごめん。部屋の紹介をしたきりだったね。王宮を散策したかっただろうに、騎士に止められて不安な気持ちにさせてしまったね」


 謝罪の言葉を私にかける。

 アンドレウスは私を愛している。今回はそれを利用してしまった。

 これで伝言は有効ということが分かった。

 アンドレウスが私の用事を最優先することも。


 (これは最終手段にしよう)


 胸がちくりと痛む。

 安易に使っては公務を妨げることになる。家臣に不信に思われてしまうかも。

 必要な時だけにしようと心に誓う。


「君は読書が好きだったね。本を用意するのを忘れていたよ。あと、紙とロウペを用意するね。絵を描くんだったら、簡単な被写体が必要かな……、一輪挿しの花瓶と花を用意しよう」

「あ、ありがとうございます」


 抱擁が解かれ、アンドレウスはぶつぶつと独り言を呟いていた。

 私のこととなると、周りが見えなくなる人だと分かっていたが、ここまでとは。

 サーシャには『退屈しているので、本が欲しい』と伝言をお願いしただけなのに、あれもこれもと物が増えゆく。

 私はアンドレウスの提案の数に戸惑いつつも、感謝の言葉を告げた。


「お父様のために、絵の練習も少しずついたしますわ。でも……、新学期も近いのでヴァイオリンの練習もしたいです」

「あ、ああ……。楽器は毎日指を動かしていないといけないんだったね。今日中に対応するよ」


 引っかかるところもある。

 それはヴァイオリンの話をすると、アンドレウスの表情が陰り、消極的な返事をしてくることだ。

 編入試験の演奏は絶賛してくれたのに。


「これで、君は退屈しないかな? もう少し話したいのだけど、人を待たせているんだ」

「あと一つだけ、私の話を聞いてください」


 アンドレウスには待ち人がいる。

 そこにすぐに戻らないといけない。

 でも、これだけは聞きたい。

 今、話している相手が、“彼“でなくても。


「グレンに会いたいです」

「……」


 笑みを浮かべていたアンドレウスの表情が豹変した。眉が釣り上がり、怒っているのがわかる。

 グレンがやったことを許していない。

 でも、ここは引き下がれない。

 アンドレウスを怒らせることであっても。


「グレンは悪くありません。彼は私のわがままを叶えてくれただけです」


 私はグレンは悪くないと堂々と述べた。

次話は5/6(月)7:00更新です!

お楽しみに!!

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