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拾われ令嬢の恩返し  作者: 絵山イオン
第3部 第2章 アンドレウスの偏愛

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王家の恥

 名前は知っていたが、第一王子の姿は初めて見た。

 現在のクラッセル子爵家は王家との繋がりが薄く、夜会の招待状も届かない。そのため、王族と接触することはなかった。

 真っすぐな茶の髪は後ろに結び付け、藍色の瞳は私を睨んでいる。


「俺は貴様を妹と思っていない」


 イスカの態度や言動からして、家族として歓迎されていないのはすぐに分かった。彼の母親は私を消そうとしていた。アンドレウスの手前、それを実行できなくて歯がゆいといった心境だろう。

 

「メヘロディ王家の恥。目障りだ」


 攻撃的な発言。

 覚悟はしていたけど、実際に言われると傷つく。

 イスカは母親から私の存在を聞かされて育った。何年もずっと。

 私が何を言っても関係は良くならない。和解など永遠にないだろう。

 私はイスカの暴言に沈黙を貫いた。


「どけ、父上に近づくな」


 どうやらイスカはアンドレウスに用があったらしい。

 イスカは私を押しのけると、ドアをノックし、アンドレウスが部屋から出てくるのを待った。

 一度、少し待って二度、更に長く待って三度。

 イスカは三度ノックしたが、反応はない。


「……なんだよ」

「イスカお兄様と同じく、お父様にお聞きしたいことがあるので」

「ふんっ」


 隣でイスカが苛立っている様子を黙ってみていた。

 決してイスカの傍に居たい訳ではない。彼と同じくアンドレウスに用があるからこの場に残っている。

 じっと私が隣に立っているのが気に食わなかったらしく、イスカが私に声をかけてきた。彼の問いに私は正直に答える。

 私がこの場を離れることはないと理解したイスカは、不快な態度を露わにしながら、アンドレウスの部屋をじっと見つめる。


「父上、入ります」


 大嫌いな私がじっと傍にいる状況に耐えられなかったのか、イスカはおそるおそるドアを開ける。

 きょろきょろと辺りの様子を確認したのち、そろそろと部屋に入って行った。

 少しして、部屋からイスカが出てきた。


「父上は熟睡しておられる。起こすんじゃないぞ」

「教えてくださりありがとうございます」


 嫌な顔はしているものの、アンドレウスの状況を教えてくれた。無視をしてこの場から去る選択もあったのに。

 これは私に対する優しさではない。アンドレウスに対する気遣いで注意している。

 教えてくれたのには変わりないので私はイスカにお礼を言った。彼はそれを無視し、この場から去ってゆく。

 どうやら、イスカの部屋はここから離れた場所にあるようだ。

 イスカの後姿を目で追い、私は反対の方向へ歩いた。

 アンドレウスはノックの音に気付かないほど熟睡している。目覚めるには相当の時間を要する。

 その間、私は自分の力でグレンの行方を探そうと思い、王宮内を歩くことにした。


「ローズマリーさま!!」


 少し歩いただけで、巡回していた騎士に声をかけられる。

 騎士は私の前に立ち、行く手に立ちはだかった。


「この先はお通しできません」

「どうしてですか?」

「公務が無い限り、ローズマリーさまをこの先へ行かせるなと命じられておりますので」

「そう、ですか……」


 アンドレウスに命じられているのなら、破ってはいけない。

 仕方なく、イスカが去って行った方へ歩いても、同じように止められた。

 騎士たちの発言からするに、私の行動範囲は制限されている。

 第一王子のイスカよりも厳しく。

 現に、私の行動範囲は自分の部屋とアンドレウスの部屋のみ。

 二人の兄の私室や食堂、浴場への移動も制限されている。

 仕方なく、私は部屋に戻り、ソファに座った。


(お父様は異常だ)


 消息不明になり、大騒ぎになったものの、それが原因で私の警備が厳重になったとは思えない。

 これは私を王女として迎えたが、王宮を安全な場所だと認めていないアンドレウスの警戒心の現れといえる。

 アンドレウスが信用できるのは、一部のメイドとカズンが率いる騎士団のみ。彼は自分の家族を信用していないのだ。

 きっとイスカはこの部屋を訪れる際、ここを警備している騎士に訪問目的を訊ねられ、凶器を持っていないか身体チェックをしていたかもしれない。

 父親の部屋を訪れるだけなのに、危険人物だと思われているのは心外だろう。

 その現状を作り出したのは私なので、恨まれて当然だ。

 アンドレウスにとって、二人の息子は王位を継ぐ為の”道具たち”に過ぎない。自分に従順な方に王位を継がせる。

 私の考えだと、イスカは王位を継げない。

 ”従順”の一つに私の存在を”認める”ことが入っているから。イスカはそれが出来ていない。となると、次代の王は第二王子トテレス・アリス・メヘロディになるだろう。

 

 家族関係を考えている間、私の身体は小刻みに震えていた。

 跡継ぎ候補である二人の王子よりも、私の方が大事。

 この偏愛はアンディおじさんとして接していた時からずっと変わっていない。

 ここ最近の問題ではない。

 十六年間、ずっと続いているのだ。

 それを知った私は、アンドレウスに恐怖した。


(部屋はともかく、クローゼットに入っているドレスや装飾品、宝飾品の数……。溺愛どころじゃない)


 ドレスの数からして、王妃が亡くなってすぐではないだろう。

 トゥーンで暮らしていた時は、貧しい生活を強いられていたとはいえ、アンドレウスの管理下にあった。

 しかし、お母さんが亡くなり、私はトキゴウ村の孤児院、クラッセル子爵家の養女とアンドレウスの手から七年離れた。

 その七年間で用意したんだ。

 年数が経っても劣化しない宝飾品から始まり、私の成長した姿が分かるようになってからは装飾品、ドレスなどを買い集めたに違いない。

 部屋の中にあるものの総額は、クラッセル子爵家が十年働かずとも過ごせる額だろう。

 アンドレウスは自身の妻や息子たちよりも隠し子である私を優先した。


「”王家の恥”と罵られて当然ね」


 この話は世間には出ていない。

 表になれば、アンドレウスに対する評価は一気に下がる。

 妻ではなく、愛人の子を優先する国王として、民衆の支持は一気に下がっただろう。

 アンドレウスの愛人であるお母さんは、世間から冷たい視線や暴言を浴びせられていたはずだ。

 アンドレウスを狂わせてしまったのは、お母さんと私のせい。

 イスカに”王家の恥”と罵られて当然だ。


「お父様は私の気持ちなんて考えてない」


 この部屋は事情があったとはいえ、貧しい生活を強いてしまった私に対する贖罪だと思う。

 クラッセル子爵家に拾われる前の私だったら、高級品に身を包み、何不自由のない、お姫様な生活を送れることに満足していただろう。

 このような生活を送れても、私は"ロザリー"に戻りたい。

 クラッセル子爵とマリアンヌと家族だった頃に戻りたい。

 私が望むのは贅沢な生活ではない。

 好きな人と好きに会える生活だ。

次話は5/5(日)7:00更新です!

お楽しみに!!

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