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拾われ令嬢の恩返し  作者: 絵山イオン
第2部 第5章 ローズマリーは抵抗する

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グレゴリーの恩返し

 私をダンスに誘ったのは、正装姿のグレンだった。

 

(あ、お義父さまの服だ……)


 よくよく見ると、グレンが着ている正装服は本日クラッセル子爵が身に着けていたものだ。

 無一文に近いグレンが、正装姿で現れた理由は分かったが、どうやってフォルテウス城の広間に潜り込んだのだろうか。


「ローズマリーさまのお知り合いのようですね」


 グレンに話しかけるオリオンの口調が突然冷たくなる。

 横目でオリオンの表情をうかがうと、彼はグレンを睨んでおり、不快感を露わにしていた。

 私と相手をしていたときは笑っていて、穏やかな表情を浮かべていたのに。

 

「えーっと、ロザ……、ローズマリーさまの前で本名を明かすのは初めてなのですが」

「本名?」

「う、うん」


 先ほどまでの自信はどこへ行ったのか、グレンはオリオンの冷たい視線に怯え、ぼそぼそと身の上を語る。

 グレンはカルスーン王国出身ということしか知らない。

 ファミリーネームを名乗らない、隠していることから身分を隠さないといけない事情がある、というのは感じ取っていたのだけど、この場で明かしてくれるようだ。


「俺はカルスーン王国第五王子、グレゴリー・フィフ・カルスーンと申します」

「カルスーン王国の王子……、だと!?」


 オリオンの態度が急に変わる。

 周りも他国の王子の登場にざわついていた。


「第五王子って……、行方不明ではなかったか?」

「紅蓮の魔術師と呼ばれる、最年少国家魔術師だったような……」


 ガヤの会話に耳を澄ませると、グレンは祖国では有名な魔術師のようだ。

 ”紅蓮”という二つ名から、火を操るの魔法が得意なのだろう。


「えっと、俺もあなたの名前を存じないので名乗って欲しいのですが……」

「これは……、他国の王子だと知らず、無礼をはたらいて申し訳ございません。僕の名はオリオン・ライドエクスと申します」

「ああ、いいです。俺、五番目の王子なので立場もそんなに強くないですし」


 慌ててオリオンがグレンに頭を下げる。

 グレンはオリオンの謝罪をヘラヘラ笑って許した。


「じゃあ、ローズマリーと一曲踊っても、よろしいですよね」

「は、はい……」

「ローズマリーも、いいよな?」

「うん。お、お願いします」


 グレンはオリオンに確認を取ったのち、私の手を引く。

 私とグレンは再び、ホールの中に入った。


「グレン、あなたどうしてここに――」

「学長とご飯食べた後に、クラッセル子爵とマリアンヌに合流する予定だったろ」

「……そうでしたね」

「そこでお前がいつまで経っても戻ってこないって心配してたから、マリーンにロザリーの居場所を訊いたんだ」

「マリーンに……」

「で、ここのことを聞いたから、色々手を使って会いに来たってわけ」


 ダンスが始まる前に、私はグレンに色々問い詰めた。

 グレンはここへ来た経緯を簡単に話してくれた。

 色々手を使ったというのは、隠していた身分を明かし、カルスーン王国の王族という立場を使って、この会に入ったことだろう。


「お義父さまとお姉さまは――」

「クラッセル邸に帰ってもらってる。フォルテウス城に入れたのは俺だけだ」

「そう……」


 二人ももしかしてと期待したが、グレンは首を横に振る。

 私が気分を落としたところで、二曲目が始まった。

 私とグレンは音楽に合わせて、踊る。


「あなた、グレゴリーって名前だったのね」

「親しい人には”グレン”って呼ばれていたから、そのまま使ってた」

「えっと……、どちらの名前で読んだらいいかしら?」

「グレンでいいぜ」

「うん。そう呼ばせてもらうわ」


 グレンもオリオン同様、ダンスが上手だった。

 王族として、ダンスの教育が徹底していたのだろう。


「ロザリー、お前、これからどうしたい?」

「この場にいる皆、私の秘密を知ってしまった。もうアンドレウス国王からは逃れられない」

「これから”ローズマリー”として生きるんだな」

「ええ」


 ”ロザリー・クラッセル”には戻れない。

 私はメヘロディ王国第一王女”ローズマリー・メヘロディ”として生きる。

 グレンの問いに私はそう答えた。

 

「でも、こんな別れ方は嫌じゃねのか?」

「嫌よ……、お義父さまにもお姉さまにもお話出来ないまま、お別れだなんて」


 私は本音をグレンに吐露した。

 この会が終わったら、私はフォルテウス城で暮らすことになる。

 マリアンヌと次に会うのは新学期が始まってからだろう。

 だけど、私の周りには常に誰かがいる状況になるし、マリアンヌはチャールズと結婚する。

 私たちが姉妹のように過ごす時間はもう、ないのだ。


「なら、帰ろう。クラッセル邸に」

「そんなことできるわけ――」

「やってやるよ。この俺がな」

「家に……、帰れるの?」

「このダンスが終わったら、必ず」


 グレンはありえないことを私に告げる。

 私をクラッセル邸に帰す。

 クラッセル子爵とマリアンヌに会わせると。

 本当にできるのかと、私はグレンに確認を取る。

 グレンは、はっきりと”できる”と言った。


「ロザリーを家族に会わせること、それがクラッセル邸に居候させてくれた俺の恩返しだ」


 グレンはそう告げると、聞いたことのない単語をブツブツと呟いた。

 魔法だと気づいたときには、私の視界がフォルテウス城の広間から一変する。


「あ……」


 この庭園……、見覚えがある。


「クラッセル邸だ……」


 どんな魔法を使ったのか分からないが、私はグレンと共にクラッセル邸に帰ってきた。



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