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拾われ令嬢の恩返し  作者: 絵山イオン
第2部 第5章 ローズマリーは抵抗する

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また絵を描いてくれないか

 フォルテウス城内に入った私は、アンドレウスが用意したドレスに着替え、アクセサリーを身に着ける。

 緑と白のロングドレスで、中央には大きなフリルが付いていた。

 首元には緑色の宝石を基調に、花や葉を模したネックレスとピアス。

 髪型はハーフアップに仕上げられ、同色のリボンをつけられた。


「ローズマリーさま、こちらを」


 メイドから白い手袋を受け取る。

 パーティの正装で身に着けていた肌触りのよい生地ではなく、レース編みがされた高価なもの。

 身に着けているどれもが、メヘロディ王国最高級のもの。

 これから私はそういったものを日常的に身に着けることになる。

 世間は私のことをロザリー・クラッセルではなく、ローズマリー・メヘロディとして見る。


(ルイスには……、知られたくないなあ)


 緑で金糸が刺繍された、かかとの高い靴を履いた。

 これから国内を揺るがす大スキャンダルが私の登場で起こるというのに、当の本人は恋人に事実を知られたくないという、関係ないことを思っていた。


(でも、知られちゃうんだろうな)


 私の存在はすぐに広まるだろう。

 そして、隠されていた私の生涯も暴かれる。

 母と二人、小さな賃貸住宅で九年暮らし、母の死去一年間、トキゴウ村の孤児院で暮らし、クラッセル子爵家に拾われ五年間育った生い立ちも、世間にさらされる。

 ルイスは私が一国の王女になっても、好きでいてくれるだろうか。

 身分の高い壁に絶望することなく、私との結婚のために騎士を目指してくれるだろうか。


「ロザリーさま、時間でございます」

「はい、行きます」


 私の頭の中は、一国の王女として表舞台に立つ不安よりも、恋人であるルイスのことでいっぱいだった。

 部屋を出ると、アンドレスが待っていた。


「おお、ローズマリー!! 素敵だ」

「お父様、ありがとうございます」

「これからは、毎日ドレスを着せてあげるからね。君の欲しいものはなんでも買ってあげる」


 洋服、アクセサリー、靴、バック、本でさえ、私が『欲しい』と一言呟くだけでアンドレスは用意してくれるだろう。

 ”なんでも”と言っているが、私が一番に望むものは手に入らない。


「……」


 アンドレウスの言葉に、私は唇を強く噛んだ。

 私が身に着けているものは、全てアンドレウスの願望だ。

 口ではそう言っているが、私はアンドレウスの着せ替え人形。政治の道具に過ぎない。

 ライドエクス侯爵家のご機嫌を取るための道具なのだ。

 

「お父様、私たちはどこへ向かうのですか?」


 私はアンドレスの言葉を無視し、彼の隣に立った。

 アンドレスは目的地に向かって歩き出す。

 フォルテウス城はメヘロディ王国が建国してからある。

 石造りの三階建てで、当時の最新技術を使って建てられたもの。

 その歴史は隣国マジル、カルスーンよりも古い。


「広間だよ。そこで皆を待たせている」


 広間は私たちが歩いている先にある。

 多分、私たちは王宮と広間を繋ぐ廊下を歩いているのだろう。


「ローズマリーは音楽以外にやっていたことはあるのかい?」

「本を読んでいました」

「絵は……、描いてないのかな」

「絵……」


 廊下は長く、広間に着くまで少し時間がある。

 アンドレウスの問いに私は正直に答えた。

 ピアノとヴァイオリンの練習の他にはクラッセル子爵が持っていた本を読んでいた。

 マリアンヌに買い与えようとしていただろう物語の本からクラッセル子爵が好んで読んでいた推理小説、マリアンヌと二人で楽しんで読んでいた恋愛小説。

 読むジャンルは変わっていったけど、どの本も面白かった。


「描いていません」

「小さい頃はロウペで沢山描いていただろう」

「そう、ですね……」


 母が亡くなってから、絵は描いていない。

 孤児院にもクラッセル子爵家にも紙とロウペはあった。

 アンドレスの記憶の私は九歳で止まっている。

 幼少期の私は母が読んでくれた童話の本以外、読書に興味はなかった。

 ロウペが小さくなるまで熱心に絵を描いていた。


「また絵を描いてくれないか」

「それがお父様の望みならば」


 アンドレスは今の私ではなく、昔の私に戻ってほしいのだ。

 幼く無邪気でアンディおじさんが大好きだった頃の私に。

  

「僕の顔を描いて欲しいんだ」

「……はい」


 私たちの歩が止まる。

 広間への扉が付いたからだ。

 

「陛下、ローズマリー王女」


 扉の前には二人の騎士が立っていた。

 彼らの手で広間への扉が開かれる。

 扉の向こうは、煌びやかな世界。

 踊り階段の下には、王族に近しい貴族が集まっている。

 耳には静かな旋律が聞こえた。

 これが王立メヘロディ楽団の演奏。

 

「ローズマリー」

「はい」


 手を差し伸べられ、私はそれに触れる。

 踊り階段を一歩ずつ降りた。

 広間にいる来客者すべてが私たちに注目する。


「皆の衆、我の呼び出し集まってもらい感謝する」


 演奏が止まり、アンドレウスの言葉が広間に響く。


「我の隣にいる少女こそが、我の娘、ローズマリーだ」


 この日、私はメヘロディ王国第一王女、ローズマリーになった。


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