龍が死ぬ頃に。
しかし、彼女は転移魔法にて撤退した。
そう、攻撃が止んだ瞬間に逃げることを選んだのである。
自らの足元に転移魔法陣を展開して。
ああああああああああ良かったーー!
俺、剣ないし、魔法使えないし、能力に攻撃的なヤツ無かったし、拳じゃ戦えないし、反撃されるのか?と思ったけど(まあ、一応相手は連戦でボロボロだったけど)結局は撤退を選んでくれたんだから結果オーライだなっ!
………って!それよか辰爾だよ!
胸に剣がぶっ刺さってたし、スゲえ心配。
「辰爾!お前、大丈夫か?」
「まあ………ね………」
本当か?どう見てもしんどそうに見えるんだけど。確かに精神体だからか血潮が吹いたりはしてないけどさ。
「それよりシャルルお前、記憶が戻ったのか?」
「ああ。前世の事、ほとんど思い出した。
死ぬときのこと意外」
「そうか。だがまあ、記憶が戻ったんなら良かった。精神的身体と不覚醒状態は不安定だからな。
超安定状態を維持できる特殊な精神的身体を持つシャルルと違って俺は後、数十分の命ってところか」
そっか………そっか………。
後、それぐらいしか残ってないのか。
シノンの言ってた封印以外で死ぬ原因ってこれのことか。
「最後にちょっと、行きたいとこ在るんだけど、いいか?」
「………ああ………」
それから、俺とシノンは黙って辰爾に連れられた。そして、着いてみると、そこは俺たちが数時間前に来ていた例の湖だった。
「なあ辰爾!ここ来て良いのか!?だって、封印で離れられないんじゃ………」
「ああ。本当は結構ヤバい。
だけど、後数時間の命だ。魔素を温存してても意味がない。
身体は動きにくいし、束縛みたいな状態異常かかってるけど、そんな事よりも、俺はふたりとここに来てみたかったんだよ。死ぬ前に、ね」
なんか、しんみりするな。
「なあ、物質的身体を返還することって出来ないのか?」
「それは無理だな。俺は譲渡する術式は知ってるが、返上してもらう術式は知らない」
「じゃあ、その譲渡する術式を俺が使うのは?」
「無理だ。お前じゃ圧倒的に魔素が足りん」
そっか。もう、どうしようも無いのか………。
そっか………。
シノンが辰爾の死の期限に対して曖昧な返答をしたときから、薄々嫌な予感はしてたけどさ。
「俺は今まで辰爾といれて良かったと思っている。今年で十年になるのか?俺がこっちで転生してから十年間、一緒にいれて良かった、と思うんだ………」
「何勝手にしんみりしてんだよw!」
クスッと笑った辰爾が俺の背中をバシッと叩いた。
良く決めようと思っていたのに台無しじゃねえか。
「お前が悲しそうにしてどうするw
別にいいじゃねえか」
軽っ!?
これから死ぬってヤツのセリフじゃねえぞ。
「さて、シャルル。これからお前は自由だ。
俺に縛られず、やりたいことをやれ。
それを俺からの最後の挨拶としようw!」
はあ、調子狂うわ。
こんないつも通りのテンションだと、俺が可笑しいみたいじゃねえか。
いや、辰爾のことで一瞬でもしんみりしたて俺が馬鹿だったな。
「そうだな。やりたいことと言えば結構あるな………なら、ひとつひとつ潰していくか、やりたいこと」
なんか、泣きそうな気分はどっかに吹っ飛んでいった。
そうだな、頑張れ、と笑って言う辰爾が拳を伸ばしてくる。
「んじゃ、後は頑張れよ」
「おう!」
その拳に俺も拳を当て、まるで少年漫画のような展開だとは思ったけど、最後なんだ、少しばかり子供っぽいカッコ良さでも良いと思った。
辰爾の精神的身体が輝く粒子になって消えていく。
もう、お別れなんだろう。
『マスター、『悪食』にて周囲の魔素を捕食してください』
ん?なんかさっきから(現実に戻ってきてから)よくよく聞くとちょっと機械っぽいノイズ入ってね?ほんと、よーく聞けばだけど。
というかさ、何だよ、急に出て来て。
捕食………だっけ?
良く分からんがやれば良いんだろ。
辰爾が霧散していった後のその空間にある魔素という魔素を全て『悪食』で喰った。
いや、こんな事して何の意味があるかは知らんが、なんかすげえ『智慧の処女』の圧を感じたので従うことにした。
《確認しました。根源の砕片を収集及び、根源の保護に成功しました。
これより、不足分の補完を開始します》
ん?天の声的なヤツが急に妙な事を言い出しやがりましたぞ?
根源の………収集?保護?
不足分の………補完?
全く理解が出来ないね!
理解不能な単語(いや、単語の意味ぐらいは知ってるけどそれは前世の記憶で、今使ってる意味で、って事)が並べられているからである。
………っていうか、根源って何?
『根源。それは魂と魂に紐付いた能力や加護などを総称、あるいは一塊として考えたモノを指す言葉です。要はこういうことです』
そう言って、脳内に直接数式を送り込んできた。
魂+能力など諸々=根源。こういうの。
ほうほう。要は魂と相違ないと?
『少し違います。ニアリーイコールと行ったところでしょうか?
言うなれば原子量に電子を入れるか入れないかぐらいの差です』
へえ……………って!誰が分かるか!いや、分かるけど、分かるけど分かるかっ!
簡単に説明すると、限りなく同じだけどはっきりとした差はあるよ、って事だろ?
最初からそう言えよ………。
『考慮します』
話が逸れたな。
で、『智慧の処女』や。さっき天の声的なヤツが言っていた根源の収集やらなんやらはどういうことなんだ?
『天の声的なヤツ、じゃなく"世界の言葉"です。そろそろ訂正した方がいいと思いまして』
コイツ………知ってて放置してたな。
まあ、そこは一旦置いといて、説明オナシャス!
『この行為の意図として、肉体情報の獲得による、マスターの根源を受肉体に定着させるコトです』
ほうほう。そうか、この身体もまだ完全に馴染んだわけでは無いんだな。
確かに、精神的身体と比べて、安定感が鬼程に増したから気にしてなかったけど、それでも、物質的身体よりかは断然不安定なんだろうな。
『そしてこれは、《《辰爾の復活》》に関わるコトでもありす』
なあ、『智慧の処女』や。
今、辰爾の復活とか言ってなかったか?
そんなことが可能なのか?
俺の脳裏には希望が浮かんできた。諦めていた辰爾の復活、もとい蘇生が可能かも知れないのだから。
『可能とまでは言い切れませんが、不可能では無いです。要は、確率はゼロではありません。試してみる価値はあるかと』
確率がゼロでは無いのなら、それならやってみるしかねえじゃねえかよ。
どうせ魔素に還元される運命だったんだ。
ローリスクハイリターンなこの賭けをやる以外の選択肢は無いな。
そうなれば、即座に検証・実行して………。
俺はそのままその場に倒れ込んでしまった。
最後に聞いた言葉は何だったけ?
確か、こうだったような………?
《肉体の定着に成功しました。
仮種族粘性竜体を獲得しました。
これより仮種族粘性竜体として、個体名シャルロット・ランビリスの擬似的進化を開始します》
この日、俺は完全な誕生、本来の意味で転生を果たした。
そして、後にこの日が世界にとってシャルロット・ランビリスという異端の魔物?の発現の日とされたのである。
***
「あれ?なんで………ここに?」
気づけば目の先は、空ではなく天井にあった。
「やっと起きたか」
そう言うシノンが、台所の方から戻ってくる。
多分何か作ってたんだろうな。シノンも結構料理上手いしな。
(スライムが料理出来ないって思うかもだけど、それが案外出来るんだな、凄いことに)
それよか、横たわってんのしんどいな。
横たわりすぎの弊害なんだろう。
………あれ?起き上がれねえ。
「シャルル、君はもう、十三日は寝てたんだよ。流石にエネルギーが足りないでしょ」
ええ!?俺ってそんなにも寝てたの!?
確か………擬似的進化なんて言ってたからすぐ終わるものだと思ってたけど、そんなに寝てたのか。道理で足腰が痛むわけだ。
転生前を思い出すな。大体二十時間以上寝たら背中とかが痛み始めた。
高校入ってからバイト始めたからそこまで寝ることはもう無かったんだけどね。
「はい、食え」
作ったお粥を無理矢理口ん中に突っ込まれた。
もっと他に方法があったと思うんですけど!
動かないって言っても全くじゃないし、首より上は全然動くんだから。
「食い終わったら部屋行くよ」
無理矢理食わされる最中にそう言われた。
そして、食べ終わった後に辰爾の部屋へと連れて行かれた。
「これは?」
辰爾の部屋にあったのは、黒い鞘に入った黒い柄の剣──片刃………刀に近かった──と、俺の髪と似たような白いローブ。それには空色に近い青の模様があった。
そして、辰爾が片耳だけつけていた椛の飾りをシノンが髪結い用に加工したものがあった。
「これは、辰爾が自分の死を見越して、君への最後の餞としてこれを残した。好きにしろと言ったのは辰爾だからね。
これはシャルルが好きに使えばいい」
ここまで見越してたのか。
俺が遠くへ行こうとしてること、出来れば冒険者のような何かをやってみたいことなんてお見通しってことか。
そうか。
「なら好きにさせてもらうよ。これらを」
剣を鞘から抜こうと試みる。
「………ん?ん?
どうした、これ?なんか、全然抜けないんですけど?あれ?錆てんのか、それとも辰爾が粗悪品を?………後者は無いな」
突き詰めたところで答えは出てこない。
だから、ここで思考を放棄した。
装備手に入れられたし良いじゃない。最初のにしては上出来だしな。
「明日にはもう出発する?」
「気が早いな。
いや、俺は数日間は迷宮に籠もってようと思うよ。
少しは敵とやり合わないと行けなくなるだろうし、それに『レベルアップ』とかいう能力が気になるから」
「了解。僕も出来ることをしておくよ。準備するに越したことは無いからね」
「じゃあ、俺は寝る」
「さっきまで寝てたじゃんか………。
………まあいいや、お休み」
うわ、シノンさんが呆れていらっしゃる。
良くあるよね?寝た後にもう一回寝ることぐらい。
無いか?………いや、あるハズだ!あることにしよう!
さて、これからしたい事をおさらいしてみるか。
まずは出来るだけ自分の持ってる能力について知りたい。それに強くなりたいから迷宮に潜る。
次に、それが大体終わったら冒険したいよな。元の世界ではまず出来ないことだし、出来たとしてもそれは冒険ではなく旅になる。後、規制も厳しいしね。
そして………うん、これが一番大切なことだな。辰爾の復活だ。これを確立する方法を見つけ出さないとな。
────少しの間があり、そして俺は、ふと過去の事を思い出した。
転生前の事である。
そういえば、俺の記憶の最後って十………何歳だっけ?高校一年の誕生日直後だった気がするから十六歳か。
死んだ原因は思い出せんな。ただ単に記憶がそこだけまだ不覚醒なのか、それとも思い出したくないだけなのか。
俺は転生前、七条紗夜という名前だった。
こんな名前だが、ちゃんと男やってたぞ。今はジェンダー平等なんだ!中性名なんて幾らでもあるだろうし、そう不思議じゃないだろう?
俺は………自分で言うのもなんだけど、結構賢い部類に入ってたと思う。
だからといって何か他と違うという事は無い。
漫画、アニメ、ラノベ、ゲーム。これら全てが好きないわゆるヲタクだ。
………チェックシャツは来たことないけど。
順風満帆が似合う高校生………の隣に良く居た冴えない取り巻き、それが俺だわ。
あぁ、言ってるだけで悲しくなってきた。
まあ、そこそこ楽しく過ごせてたけどね!
そして、俺はまだ、高校生だった。
高校生で死んじゃったのである!
ちょっと死ぬには若い気はするけど、もう死んでしまったんだし、何言っても無駄だろうな。
ただの平凡な平均な一般的な俺は一度死に、そして異世界で史上類を見ないの無種族転生者になった………いや、なっちゃったのである。
その頃、世界全土────七つの大陸及びその他全ての場所で即座に辰爾の死は伝達された。
そして、驚嘆と恐怖をばら撒いたのだった。
世界天地開闢300万年、初めて龍種が死んだからである。
***
───一方、『悪食』の亜空間の中にて。
「はあ。なんで、俺は生きてるんだろうな。
死んだハズだよな?聞いてんなら出てこいよ、エレ………今は、インか?」
「元気そうで何よりです。
………そうですね。今は『智慧の処女』です」
影から、腰まで伸びた髪の女の人影だけが見えている。髪の色は銀髪。
推測して、身長は160前半か。
「相変わらず溺愛だな。
………はあ。格好良く決めて死ねたと思ったのによ、この調子だったらまた戻った時どうシャルルとシノンにドヤされるか」
「あのふたりは貴方の退場の仕方、格好良いとは思ってませんよ?気にもしてませんでした」
「マジかよ………。
あ、そう、一個質問。俺たちが戦ったあの少女──辰爾の年齢からしたら、ね──は何者だ?賢者か何かか?」
「あれは、恐らく異世界人です。
そして、勇者です。それも《加護勇者》なんてチャチな存在じゃなく、最も上位の。
言うなら………聖典勇者とか」
「マジかよ………。人類の最終兵器じゃねえかよ」
勇者は大きく分けて四つある。
強い順に、
真なる勇者
聖典勇者
元素勇者
加護勇者
と。
数で言うと、真なる勇者は史上一人のみ。
聖典勇者は代替わりって感じだが、適任がいない………人類最終兵器に達しないのであれば空白になることもある。
元素勇者は、基本七元素である 炎 水 氷 風 岩 草 雷 に加えて 光 が入る計八人の勇者がいる。因みに聖典勇者の大多数はこの中から選ばれる。
加護勇者はザラにいる。数百はいるんじゃないかとも言われる程には。
「それと戦ったのか。道理で人間にしては異常に強いわけだ」
亜空間の中、死に損ねた辰爾はそう感心していたのであった。
これにて序章が終了いたしました。
私事ではございますが、一ヶ月毎日投稿するため、2ヶ月ほど投稿を休ませていただきたいと思います。
カクヨム様では投稿していますので続きが気になる方はそちらにお越しください。