第1話 謎の彼女について。
さて、第2話頑張ります。
「……………………………………………………………………少年、大丈夫?」
ちょっとした沈黙の後、その女性が俺の事を心配してきた。
十八〜十九歳ほどの発育された身体と黒髪の女性。
顔には仮面があり、素顔は分からない。
………っていうかさ、あんな魔物と対峙してるのにさ、なんか、凄い余裕そう。
「さて、早急に終わらせる」
安否確認を終えると、俺に向けていた顔(正確には仮面ね)を魔物の方へと戻し、戦闘態勢に入っていった。
その後の彼女は凄かった。
巨体からは考えられない速度で繰り出される大太刀も全ていなし、純粋な力量だけで魔物を後退させる。
隙を見せた一瞬で、適確に心臓へと一刺し。
魔法かスキルか、はたまた別の術なのかは定かではないけど、全血液が沸騰したと思えば一瞬で凍結した様子。
その一瞬、ほんの一瞬だけ彼女の頭部に焔と氷の角が一本ずつ額の両側に生えているように見えた。
「少年、早くここから出なさい。
君のような子がこんな危ないところに居るものでは無いわ」
それだけ言い残すと、彼女は高性能の回復薬三本を渡して何処かに去ってしまった。
追いかけようとしたけれども、あまりに静かに速く消えてったため、追いつけなかった。
「なんだったんだ………」
渡された回復薬を飲み終える。
すると、みるみるうちに傷は癒えていった。
「シャルルッ!大丈夫、何があったの!?」
少し遠くから、俺についた血痕などの状態が悲惨に見えたらしくシノンが驚きを隠せていない状態で寄ってきた。
(………実際についさっきまで悲惨な状態だったけどね)
傷は治せても、服についた血痕などは消せないのが薬だからな。それを見て状態を見間違えたんだろう。
(いや、別に見間違えてるわけでも無いけどね、さっきまでは死にかけてたし)
「まあ、何とか生きてる………かな?」
恐怖なんて忘れ去って、いつもの調子で笑って話している。性格だな。
「さっきまでは死にかけてたけど、この通り大丈夫っぽい。一撃で死にかけたのは驚きだったけど─────」
地面に転がっている空き瓶に視線を向ける。
「─────誰かが回復薬をくれたから傷は癒えた。だから大丈夫」
事の顛末を事細かく話すと、ハァ、と安堵の溜め息一つ零しながら、無茶無謀しすぎ、と軽いお説教をされた。
反省してます、はい、本当ごめんなさい。
「でも、おかしい。
この層に君が一撃で瀕死になる奴なんて居ないのに。
一番近い層でも第7層か、もしくは第6層になるはずなんだけど………その瓶を渡してきた誰かってどんな人だった?」
質問の意図はよく分からなかったけど、事細かにその人の特徴について説明した。
仮面を付けていること、髪は黒髪で長かったこと、身長は170センチほどあるのではないかということ、ありえない程強かったこと。
そして、二本の角が生えていたこと。
「勇者………または賢者か?それとも別の何かしらなのか。冒険者なら─────出来ればクラス5以上とは関わっていてほしくないんだけどね」
少々知らない単語が頭に入ってくるな。
勇者、賢者、冒険者ぐらいは聞かされてた話に登場するから分かるけど、その後に言ってたクラス(?)は分からない。
会話の流れからみて、多分だけど冒険者の位を表す何かじゃないのかなと思っている。
「まあ、心配してても何も変わらないし、まずは家に帰ろう。
辰爾が夕食作りながら、まだ帰ってこないのか?今日は猪の唐揚げだぞ?って言いながら帰ってくるのを待ち遠しにしてたし早く帰ってあげよう」
「辰爾、猪の唐揚げ好きだもんね。
じゃあ、帰るか」
安静にしていたお陰で、幾分か疲れと体力も回復してきたので、いつもの通りシノンを抱えながら家までの道程をトコトコと帰っていくのだった。
***
「ただいま」
と、帰りを知らせると、辰爾は外で行っていた猪の解体を一旦止めて、おかえり、とだけ言ってまた解体作業に戻っていった。
それは手作業でやっているので時間がかかる。
なんでも、魔法で切るより美味しくできるからだそうで。
「シャルル、辰爾が夕食を作り終えるまでの間、聞いておきたいことが幾つかある。
後、言っておきたいことも。どうせ辰爾は外のこと何一つ教えてないだろうから」
「ん、分かった」
「まず一つ。
君は今日見たその女性をどう思った?
あくまで直感の話だから深く考えないで」
「直感………か………。それだけで考えるとどこかツンとした感じだったかな?
妖気は抑えられていたけど、それでも深く冷たい何かに当てられてるような感じだった。
でも、動き出すと………」
ここで言葉が詰まる。
「動き出すと、何?」
「動き出すと、冷たかったのが急にあの太陽に当てられた様に熱く感じだ。別に俺に向かってきた気配じゃなかったけど、ちょっとあの魔物に同情するレベル」
(そうか。シャルルが今日あったのは少なくとも上位─────クラス5以上の冒険者、あるいはそれ以上か)
「じゃあ、シャルル。私から言っておきたいことが幾つかあるから言っておくね。
まず、勇者とか賢者とかは何となく分かるね」
頷く。
「じゃあ、この世界の詳細については知ってる………ワケないか。
説明するよ。
まずは、種族だね。種族についてはある程度教えてるけど、今からはその細かいところを教えていくよ。
七大種族は分かるね。
七大種族、それは神種、魔神種、龍種、天魔種、妖魔種、精霊種、人種の七つ。
そこから色んな種族が派生していく。
神種、魔神種、龍種からは派生が無く、その他四つから派生していくんだ。詳細は省くけど、その最上位の派生を十さ………」
「どうした?」
「いや、何でもないよ。
その最上位の派生を十二種族と言うんだ。
これが一個目だね。
次が戦いについてだ。
基礎となるのが魔素と魔力だよ。
自然に存在するあらゆるエネルギーの元が魔素で、それを自分に適合させるように練ったものが魔力だ。
魔法は魔力を使用して、術や技と言われるモノの一部は魔素を使用する。能力も魔素を介して使うモノが多いね。
そして、魔法や能力には種類があるんだ。
魔法なら、元素魔法、精霊魔法、継承魔法で三竦み。深淵魔法、神聖魔法、核子魔法で三竦みとなっていて、スキルなら、コモンスキル、エクストラスキル、ユニークスキル、そして各種族の固有スキルと別れている。各スキルに稀少能力と呼ばれるものも存在するけど………、ここは今はいいや。
それに………」
難しい。俺には理解が追いつかないや。
ちょっと頼むから一旦止まってくれ。
「そこまで真剣に覚える必要はないよ」
頭を抱えている俺に、解体作業を終え、お茶を持ってきた辰爾が言った。
「軽くそんなのがあったな〜、って感じで覚えておけばいい。固く考えすぎるとただ生きづらいだけだよ。
他のことは追々覚えていけばいい」
その言葉に、まだまだ話したいことがあったなっぽいシノンも頷いた。
「他にもあったけど、それは後からでいいしね」
あー、しんどっ。
「今はもう、夕食にしようか」
丁度いいサイズにカットされた牡丹肉の臭みを抜き、下味を付け、揚げるといい匂いがしてきた。
完成した唐揚げを食べると、よく食べるあの唐揚げだった。一年に数回食べる料理だからか、飽きはせず毎回美味しくいただける。
辰爾の謎のこだわりで、上質な肉じゃないと唐揚げはしない。普通は逆だと思う。
やはり、これだけで一食が終わるな。
(まあ、三人………ふたりと一匹(?)合わせて7キロほどあるんだけどね)
食べ終わると、膨れ上がった腹を撫でる俺は、すぐに睡魔に負けて寝てしまった。
辺りももう真っ暗で星が見えるほどだから時間的にも遅いのだろうから当たり前なんだけどな。
「やあ、シノン。こんなところで何してるんだい?」
両手にホットコーヒーを持った辰爾が俺たちの住んでいる森が見渡せる場所の岩の上にいるシノンに話しかける。
スライムがコーヒーを飲むというちょっと異端な光景が広がった。
「白々しい。そういうのはいいから」
片方をシノンに渡す。
「結局、今日のその謎の女は誰だった?」
「僕の予想ならクラス5以上の冒険者。あるいはそれ以上………」
「お前も白々しいな。
で、実際ところは?」
「十中八九異世界人だ。もしかしたら、何かもう一つ………例えば賢者とかも兼ねてるかも知れない。一番厄介な勇者だけは避けたい。
後はシャルルから話を聞く限り、ユニークスキルを持ってるかもしれないってことかな。多分相当な猛者だろうね」
「そうか………。
そろそろ俺の終点ってところか?」
意味不明な『終点』という言葉に、シノンは意味も聞き返さず話を続けた。
どうやら何かを知っているらしい。
「結局、辰爾には何がどこまで見えているの?」
「俺の逝去までだよ。
死に方、時間までは分岐が多くて絞れないが、俺の死は確定してるらしい」
「そっか。そうなんだね」
「そんな哀しい顔すんなよw
お前だって鬱陶しい邪龍が消えて清々するんじゃないのか?
確かにさ、基本俺はお前に逆らえなかったけど、それでも俺は結構な自由人だからな。お前もそろそろ呆れてきた頃じゃないのか?」
「アホか。
もうずっと昔に呆れてるよ。ただ目的が同じだったから一緒にいただけだ。まあ、性格の一致っていうのもあったけど。
僕達はある意味では姉弟、ある意味では家族でもあるからね。そんな間柄のヤツが死ぬっていうのに、清々するような輩がいるなら、それは僕じゃない。もし本当に居るのならこの僕が直々に息の根を止めに行ってやる」
「そうか」
「そろそろ僕はシャルルのところに向かうよ。どうせ、今日も寝相が悪くて風邪を引きかけるんだろうから」
シノンがスライムの身体を弾ませながらシャルルの下へ向かっていく。
「そうそう、一つ言い忘れていたよ。
300万年は一緒にいる仲なのに僕の性格を把握してないなんて、今日もまた、一つ呆れたよ、辰爾」
去っていくシノンの後ろ姿を見ながら飲むホットコーヒーに映る辰爾の顔は少しニヤけて笑っていた。
まるで、その返事を待っていたかのように。
「まあ、もう結構長いこと一緒にいるんだ。
俺だってお前がそう言ってくれると信じていたさ。
さてと、そろそろ俺にとっての決戦………いや、最終戦が来るだろうな。
いつかは分からないが、まあ一ヶ月以内なのは確かだな。
ここだけは、何がなんでも思い通りの未来に進めてやる」
可能であれば、評価の程よろしくです。