第9話
・・・・・・・・時空間の狭間 ・・・・・・・・・・
血を飲まされてから数日がたった。
何とか意識を保とうと自分を傷つけながらも、朦朧としているあまね。
セイが部屋に入ってくる。
あまねが自分でつけた傷を見てそっと傷に触れながら直してゆく。
「…自分を傷つけるなんて…本当なら意識のない段階に移行しているはずなのに…仕方ありませんね…」
そういうと自分の指を噛みきって血を滴らせる。
あまねの額に印のようなものを描き、その指を唇の中へ滑り込ませる。
「!!!」
声にならない声が上がる。
一気にみしみしと音を立てて、からだが変化するのがわかる。
つめは伸び、変形し、顔は焼け付くように熱い。着ているものが見る見るうちに身体に合わなくなる。
足の感覚がない。熱くて、痛くて、なぜここで気を失わないのかが不思議なくらい苦しい。
うろこに覆われている部分がだんだんと増えていくのが見える。
その変化が一段落すると、体中の疲れと熱で朦朧として気を失いかける。
気を失えば大事な何かが消えてゆきそうで必死に必死に、気を失うまいと壁に身体を打ち付ける。
「やめてください!」
セイがあまねの肩を持ち引き止める。
「いやぁぁぁ!!」
錯乱状態のあまねはセイを突き飛し、外に出ようとドアのノブを回すがカギがかかっているのびくともしない。
開かないとわかると今度は窓に向かって体当たりを始める。
「ここは結界を張っていますから外には出られませんよ」
先ほどの体当たりで壁に当たって倒れたのだが体制を整え、ゆっくりとあまねのそばへ近づく。
気を失うわけには行かない。
きっとこれが最後の自分の記憶。
これを失えば自分は自分でなくなり違うものへと変化するのだろう。
痛みと疲れと錯乱とで興奮していたあまねが大きく深呼吸をし、しゃっきりとした目には光のともった表情でフッ…とあまねは笑った。
セイは表情の違うあまねにナビの魂が宿ったのだと思い、ほっとした表情で笑いかける。
「ナビ…あなたなのですね…?」
抱きしめられるあまね。
「ごめんなさい…」
聞こえないくらい小さな声でつぶやき、次の瞬間にはセイを思いっきり突き飛ばし、窓に振り返り一転の窓だけに意識を集中するとそこめがけて飛び込むように身体で体当たりをする。
パリーン
ガラスが砕け散ると窓枠と共に外へと倒れていく。
体中ガラスで傷つきながらもすっと立ち上がり小高い丘のほうへと走る。
セイは突き飛ばされた反動で脳震盪を起こし気を失っている。
丘の上に着くとそこはセイがいつも水鏡にしている場所だ。
その間も身体の変化が進んでいて、体のバランスが取れない。
よろけてつかまったのは水鏡の縁、揺らぐ水面が収まったときに見えたものは龍の顔だった。
「はっ!…あ…」
あまねはショックだった。自分は龍に変化している。人ではなくなっているのだ。
こんな姿では龍宮に自分だとわかってもらえるはずもない。
「ああ!!」
水に映った自分を消したかった。
水を手で バシャッ とはじく。
とたんにバランスを崩し水の中へと倒れ、水の中に落ちてしまう。
水面が光り、あまねはその光に包まれる。
光が消えるとあまねも共に消えていた。