第6話
インフィニティーは水鏡第1部からの続きです。
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その頃からだんだんとセイの様子がおかしくなっていく。
時々水鏡の前に行き、深刻な表情をしていたかと思うと、あまねのことをたびたびナビと間違えて呼ぶ回数が増えた。
そして今まで丁寧な言葉を使っていたのが友人に接しているような言葉になっていく。
「今日もまた蓮畑かい?」
「はい。歌を歌ったら蓮たちが喜んでくれる気がして」
「昔もナビは蓮畑でよく歌っていたよね」
「え…?あ…あの…」
「いつだったか蓮畑で歌っていたらゲートが開いて大さわぎになって…結局仲間たちに来てもらったんだよね」
あまねを見てにっこりと微笑む。
あまりの自然さにあまねは自分がナビではないことを言い出せなかった。行ってしまうと何かが壊れてしまいそうで・・・
だんだんあまねは怖くなっていく。
ある日、セイがよく立っている大きな器のような形の彫刻が施され、水の張られた場所に立ってみる。
今日はなぜかあまねが起きてからセイの姿が見えないので、この場所にいるかと思い気になって来てみたのだ。
何度か着たことはあったが、いつも近寄ろうとすると、セイははぐらかすような形で邪魔をするのだ。
今日はいないので近寄って中を見てみる。
覗いてみたが、何のことはない水の張った器だ。
「なんだ…水か…」
そうつぶやき、懐かしい龍神の湖のことを思い出す。
手を触れると波紋が広がる。冷たくて気持ちがいい。
波紋が収まりかけたとき、突然水面に映像が映し出される。龍神の湖だ。
昔見たように静かな湖面。木々がさわさわと静に揺れている…けれど何かがおかしい。
光を失っている。昔のようなキラキラ、生き生きとした雰囲気が感じられないのだ。
あまねが龍宮のことを気にかけたとたん映像が切り替わり、龍の姿の龍宮が映し出される。
九州のあの神社の上空を飛び回っている。尋常ではない雰囲気で。
そして地上にヒトガタを取り降りる。
いつもの龍宮ではないくらいに取り乱し、あまねの名前を叫んでいる。
「た…つみや…センセ…」
こんなに取り乱した龍宮をあまねは見たことがない。
あまねを探しまわっているのだ。
≪センセ・・・センセ・・・会いたい・・・会いたいよ・・・あんなことさえなければ今すぐセンセのところに帰れるのに!!≫
大粒の涙がひとつ ポツン と水面に落ちる。
龍宮が水鏡を見ているあまねの方を向く。
「あま・・・ね?」
あまねと龍宮の視線が合う。あまねが驚きの表情を浮かべ声を出そうとしたとき。
「何をしている!」
後ろのほうから声が聞こえる。水面が揺らぎ映像はかき消すように消える。
あまねははっとして振り返る。セイはあまねの腕を掴み、水鏡から引き離す。
泣いているあまねを見て
「なにをみたんです!ナビ!」
あまねにつめよる。
「龍宮先生が…私を探してたの…必死な形相で…」
あまねはさっきの映像を思い出し、胸が締め付けられ、つらくやるせない気持ちになった。
「龍宮?!ナビ!誰なんですそれは!」
「私はあまねです!セイさん!ナビさんじゃありません…」
後ずさりながら必死に自分は違うのだと訴えかける。
「ナビ!ナビはナビです!ほかの誰でもない!もうナビを離すものか」
そういうとあまねに抱きつき、ぎゅっと力をこめる。
「く・・・くるしいです・・・セイさん・・・セイさん・・・」
抱きしめたまま離そうとしないセイにあまねは言わないでおいた一言を言う。
「ナビさんは・・・ナビさんは死んだんでしょう!?・・・」
びくっと抱きしめる腕が緩む・・・が、もう一度力強く抱きしめる。
「ナビはいる!ここに!死んでなんかいるものか!ナビ・・・ナビ!」
あまねは何もいえなくなった。あまねを見ていない。あまねの中のナビと言う人に似た部分を見て重ね、そこしか見ていない。
セイに抱きしめられながら必死になってあまねを探している龍宮の姿を思い出した。龍宮はあまねを見てくれる。
「他のやつを想うな!君はナビなんだ!」
腕を掴んで家に連れて行き、あまねの部屋に入って乱暴に手を離し向き合う。
痛いくらいに掴んでいたうでにはセイの指の跡が残っている。
「こんなことはしたくはなかった…ごめんなさい…あまねさん…本当はわかっているんだ…でも…とめられない…君がいてくれたらナビを取り戻すことが出来るんだ。君は異なる次元でのナビなんだ。この世にはいろんな次元がある。そしてパラレルワールドのように同じ自分が存在する。この間水鏡を見ていてわかったんだ・・・君はナビだと。君の身体がほしい…」
あまねはただならぬ雰囲気に逃げようとドアまで駈けて行きノブに手をかける。
そのとたんからだが金縛りにあったように動かなくなる。あまねの足元には光る円陣。
「あの二人で幸せだった日々を思い出してください…ナビ…」
セイは現実と狂気の間を行ったりきたりしているようだ。
ゆっくりとあまねに近づきながら、セイは自分の手首を傷つけ血を滴らせる。
「ナビが帰ってくるのなら私は何でもする。お願いです…その身体をナビに…私にください…」
そういうとあまねの肩を抱き自分のほうへと向ける。
あまねは指一本動かせず、抵抗もできず、恐怖で息が荒くなり勝手に涙があふれてくる。
ゆっくりとセイの手があまねの顔のほうへと伸びてくる。




