第5話
インフィニティーは水鏡第1部からの続きです。
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セイはあまねにやさしく接してくれた。
近寄ると身体をこわばらせるあまねに、一定の距離を置いて、近づくときには優しい言葉を掛け、気遣ってくれる。
そして普段はあまねの視界にあまり入らないようにしてくれていた。
時が過ぎ、だんだんと落ち着いてきたあまねは、自分からセイに話しかけるようになり、少しづつ気を許していった。
「ここはずっと蓮の花が咲いているんですね」
蓮の花を見ながらセイに話しかける。
ここにどのくらいの時間いるのかわからない。
だが明らかにひとつの花が咲いている時間はかなり長い。
「ええ・・・ある人がこの花を見つけてきて、とってもうれしそうに植えて愛情を掛けてここまで育ててたんですよ」
遠い目をしてうれしそうな表情で答えるセイ。
「ある人?」
そう聞くと少し寂しそうな表情で、あまねを見つめる。
「ナビというあなたにそっくりな私の恋人です」
「ええ!私に似ているの?なんだか変な感じ…私に似ている人に会えるかもしれないんだ…」
龍宮とセイといい、そっくりなひとがそんなにいるのだとドキドキわくわくして、目をキラキラさせながらセイにたずねる。
「いえ…会うことはないでしょう。何年も前に死んでしまいましたから」
寂しそうな笑顔を蓮のほうに向ける。
「あ…ご…ごめんなさい…」
しゅんと落ち込むあまね。
「思い出させてしまいますね。私がいると…」
セイのことを思い、心苦しくなるあまね。
「いえ…あなたが来てからナビが戻ってきたようで…とても私は癒されていますよ」
あまねを心配させまいと満面の笑みを浮かべる。
どのくらいの時がたったのだろう。この空間にいると時間の感覚がないのでどれだけここにいるのかわからない。日は登らないし沈まない。とても不思議な空間だ。
あまねは蓮畑で過ごす時間が多くなっていた。花を見ていると今までのことが洗い流されていくようで心の傷が癒されるのだ。
あまねは眠くなったら寝て、起きたい時間に起きては蓮畑に来る。そういえばセイが休んでいる姿を一度も見ていないのに気が付いてたずねてみた。
「セイさんはいつ寝てるんですか?」
セイはにっこりと笑う。そしてまったく関係のないことをたずねた。
「…あまねさんは…もといた世界に帰りたいとは言わないんですね」
あまねはびっくっと凍りつく。
「あ…すみません…いやなことを思い出させますね」
あまねの表情を見てあせっている。
「帰んなきゃ…いけないですよね…」
無理やり笑顔を浮かべる。今帰っても行くところはどこにもない。
「あ…いや…そういうわけじゃ…いいんですよ…ここにどれだけいても…」
穏やかな笑みを浮かべているセイ。
「ありがとう」
ほっとするあかね。
だがふと自分のした質問にセイが答えていないのに気が付く。
それからあまねは好奇心でセイがいつ寝るのか気に掛けていた。
あまねの寝ている間に寝るのかと思って寝ないで見ていたこともあったのだが、一向に寝ているのを見ることはなかった。
あるときセイが蓮を見渡せる小高くなった岡の上の東屋でうとうとしているのを見かける。
あまねはやっぱり見えないところで寝ているんだなと東屋に近づく。
近づくとセイは汗を浮かべ苦しそうな表情をしている。
「ビ…ナビ…逝くな…逝かないでくれ!」
大きな声を出して目覚める。あまねは思わず東屋の陰に隠れる。
セイは声を上げて東屋の長いすに拳をぶつける。
苦しそうな表情、目には涙が浮かんでいる。あまねは見てはいけないものを見たようでそっとそこを離れる。
それからふと気が付くとセイに見つめられていることがたびたびあった。
あまねが話しをしているときもじっと目を見つめ、やさしく微笑みながら聞いてくれる。
あるとき蓮畑に行こうと家を出たときだった。
「ナビ…また蓮のところに行くのですか?」
セイが後ろから声をかけてくる。
「…え…?」
ナビと呼ばれて驚くあまね。
「あ…すみません、あまねさん…」
セイはいい間違いに気が付き罰が悪そうに謝る。