第13話
あまねが消えてから半年がたった。
「みさと姉さま…あまねちゃん今頃どこで何をしているのかしら?大丈夫よね?」
九州の神社から連絡があり、あわてて神社に行くと、すでにあまねの荷物も何もなく、事情を聞いて回ったが、誰一人、事情を説明してくれるものはいなかった。ただ、何かがあったことを隠しているようなそんな感じを受けたが、何も問うことは許されず、門前払いのような状態で、そのまま帰ってくるしかなかった。
あまねが逃げるなどありえなかった。時々サボることはあるが、逃げ出すなどそんな無責任な子ではないのだ。
みさとはまとまった休みをもらっては、この半年間、たびたび九州へあまねを探しにでていた。
それでも誰も行方を知るものはいなかった。まるで突然掻き消えたようにいなくなったのだ。
ある日、仕事も手につかず、ボーっとあまねのことを考えていた。
人は食事をするし、泊まる場所もいるはず。ある日を境に、誰にも見られることなく消息を立つなど、まるで神隠しにでもあったみたいだわ…そう考えていて、はっとする。
「神隠し…そうよ…神隠しかもしれない!!」
突然声を上げたみさとに、隣でお守りを整えているふりをしていたみなもが驚く。
「みさと姉様??」
「大丈夫…あまねは生きてる!どんなことがあっても死なないわ。龍神様がついているんですもの」
「龍神様?」
「そう…龍神様」
そう言って神社の後ろの龍神の湖のある山に視線を向ける。
いつもながらなにを考えているのかわからないのに、わけのわからないことを言い出したみさとを複雑な表情でみる。
「あまねは時々龍神の湖に行っていたの。昔、行方不明になって死にそうになって帰ってきたことがあるでしょ?その時も龍神様の手当てがなければきっと死んでいたわ」
「ええ?そうだったの??」
「あの子がサボった後には、龍神の湖にしか育たない草がついていたり、行方不明の時には、見たことのない薬草が貼られていたの。あの薬草からは龍神の神気が感じ取れたわ」
「よく見てるんですね…姉様…」
みさとの観察力の鋭さには、感嘆するより驚愕を覚え、少し引いてしまったみなもだった。
「きっと龍神様が守ってくださっているのよ。行かなきゃ!」
いても立ってもいられなくなって、次の瞬間には社務所を飛び出していた。
いつもは冷静なみさとの行動に、あっけにとられたまま、社務所に取り残されたみなもだった。
火の消えたような湖。
森には精気はなく、野は荒れ果て、草花はほんの少し片隅で咲いている程度だ。
ガサガサと龍神の湖へと人が登ってくる音。見えてくる人影。
赤と白のコントラスト。巫女の衣装のままのみさとだ。
湖の前に立ちすぅっと息を吸う。
湖の荒れ果てた様子に驚きを隠せない。
立ち入り禁止とはいえ年に1、2度は掃除や御神事のために上がってくる。
この半年はあまねの事もあり、上がってなかったのだがこんなことになっているとは思いも寄らなかったのだ。
「龍神様!」
静まり返る湖に凛とした声が響く。
「隠れていないででてきてください。龍神様」
何度か繰り返し呼ぶ声が響くが、湖にも木々にも何の変化もなかった。
「あまね!あまね!いるんでしょ?」
あまねがいると思ったのは勘違いだったのか?何の返事もなく、しんとした空気の中に、龍神の気配も感じられない。
みさとは思い切って、龍神に関して思っていたことを言うことにした。
「龍神様…もう一つの名で呼べば出てきてくださるかしら?龍宮先生!」
みさとは何のためらいもなく龍宮の名前を呼ぶ。