第11話
******時空の狭間 水鏡の前******
大きな赤い竜が水鏡の中から出てくる。
地上につく前にすぅっと人型に変化する。
長い髪、額には赤い額飾り、赤いイヤリングが長い髪の間から、キラキラと輝きを放つ。赤い膝まである上着に腰の辺りまで入っているスリット。その下は身体に沿った黒いズボンでヒールの高いブーツを履いている。あまねにそっくりな女性。
続けてセイも現れ、人型をとる。
「ナビ…」
呼ばれて振り向くとそこにはセイがいた。
「セイ…なぜ私はここにいるの?一体…何があったの?」
そう聞くがセイは黙って微笑んでいるだけだった。
「あなた、これがどういうことかわかっているの?…」
自分の手を見つめて信じられない表情をしている。
「いいんだ。もうなにも言うな。君が帰って来た…ただそれだけだよ」
ナビに手を差し出し、瞳を見つめる。
「でも…セイ!」
「ナビ…お帰り」
微笑むセイ。
「…」
複雑な表情でセイを見返す。柔らかな物腰や言葉を使うセイだが、その微笑みは有無を言わさない言い知れぬ迫力がある。
そしてナビは何かを決めたようにゆっくりとセイの手をとる。
「これからは出来なかったことすべてをしよう…二人でやろうって言ってたこと全部!・・・ナビは他になにがしたい?」
セイはナビの後ろに回り抱きしめながらそう聞く。
「セイの…思うように…」
ナビは少し困った表情でそう答えるので精一杯だった。
こんなことが許されるわけはない。確かに死んだのだ。死の間際、最後まで意識があり、血の気が引き、身体がだんだんと冷たくなり、セイが自分を抱き上げて名前を叫んだことまで覚えている。
セイは禁忌である反魂の術を使ったのだ。
これが知れれば時空管理間の仲間たちから追われることになる。つかまれば危険人物として2度と戻ることのない何もない空間へと送られる。
そういう人を何人も捕まえて送ってきた。どうなるかはわかっているはずなのだ。
セイの様子がおかしい。えもいわれぬ異様さを感じる。ナビはセイと共にいるのは危険だと感じていた。しかしまた会えたことはうれしく、離れたくないという矛盾の思いが上がってくる。
「セイ…愛してるわ…」
セイが後ろから回した手に自分の手を重ねる。触れると暖かい。
たったそれだけで幸せを感じる。
「ナビ…」
セイはうれしそうにナビの顔を自分に向けさせキスをする。
*****龍神の湖*****
白銀の龍が湖の底に沈んで微動だにしない。
それを湖の上に浮かび眺める人がいた。
紫藤だ。
「ホントに私はお人よしだな…」
龍宮が虫の息になっているところを見つけ、湖の水と薬草やエネルギーで水の玉を作り、その中へ龍宮を入れて湖の底へ沈めた。
本当に危ない状態だったので助かるかどうかもわからない。
回復にどのくらいの時間がかかるのかも不明だ。
「一体何があったのだか…」
龍宮がかなりの深手を負っている。その傷からしてかなりの腕の持ち主だろう。そばにあまねが居たのかもしれない…とふと思う。
「どちらにしろお前が復活しなきゃ詳細はわからない…」
「あまねに出会い…あの時から私はおかしくなったのかもしれないな。ライバルを助けるなど…ありえん」
そういいながら少し柔らかな表情。悪い気はしていないようだ。
「死ぬことなど許さない…早く復活して来い・・・」
湖の底へ沈んでいる龍宮を真剣な面持ちで見ながらそういうと、紫藤は一陣の風と共に消えるのだった。




