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第10話

********龍神の湖************


湖は暗く、木々も生気を失っている。空気はよどみ風は止まったまま。まだ青々と茂るべき草は枯れ果てている。

あのキラキラ生き生きした湖の影も形も残ってはいない。


あまねを探すために、すべて手は尽くしつくした。魔物もほかの存在も何か手がかりになるものは?と探したが何もみつからなった。

何より感じられないのだ。あまねが生きているという感覚が。

湖面に浮かび、水の底を眺める。

夏にはよくあまねが暑さしのぎのために泳いでいたのを思い出す。はねっかえりで、勢いだけはよくて、どんくさくて目が離せない。

ふっと柔らかな表情を浮かべるが、その顔には深く影が落ちていた。


≪なぜあの時引き止めなかった。≫


怒って立ち去るあまねを何度も思い出す。


≪行くなといえばよかったのか?≫


感情を思うまま出せない自分を責める。

気まずいまま別れ、あえなくなると誰が予想できただろう。

知らない間にいなくなり、つらい出来事にあっていたなど露ほども想像してはいなかった。


≪私はまた失ってしまったのか?…朱音だけではなくあまねまで…私は守ることさえ出来ないのか…≫


ほほを伝った涙が湖に落ち、波紋を広げてゆく。


そのときだった。


水面が光る。一瞬まぶしくて視線をずらし、目を瞑る。

目を開けたときに目の前に見えたものは、淡い白を基調としたピンクの龍だった。白い鱗、そのひとつひとつの縁が淡いピンクの色で染まっている。まるで蓮の花びらが重なっているように美しい。


「な…何者だ!」


龍宮は思わず叫ぶ。

そのとたん蓮の香りの風が吹き龍の周りを風が囲む。

風がやんだとき龍はいなくなり、湖に影が落ちてゆく。


バシャーン


落ちたのは人だった。

所々に残る鱗、体中傷だらけで湖が血で染まってゆく。

ぎこちなく身体を動かし、浮かび上がろうとしている顔が見える。あまねだ。


「あまね!」


龍宮は水に飛び込みあまねを抱き上げると、岸辺の木陰のある柔らかな草の上に横たえる。


「センセ…センセ…」


「何があったんだ…先ほどの龍はあまねなのか?」


「わからないの…わからないの…何も…私…センセのことしかもう覚えてなくて…センセ…センセ…もうどこも行かない…ここにいる…」


ぎゅぅっと龍宮の袖を握る。

所々に生えている鱗が痛々しく、身体を触ると火のように熱い。あちこちの傷を片袖を破き血をふき取っていく。

拭く度に痛みに顔をゆがめる。


「すまない…痛いだろう・・・薬草を取ってくる…」


そういい離れようとするが、しっかりと袖を握りはなさないあまね。


「行かないで・・・だめなの・・・ここで気を失ったら…きっと私じゃなくなる…センセの事も忘れちゃう…」


「だが…傷が…わかった…では一緒に行こうか…」


そういいあまねを抱き上げる。

湖の中、龍宮のねぐらがそこにある。昔、あまねが倒れたときもそこで手当てをし、看病した。


湖に入りかけると湖の中央に閃光が走り、現れたのはセイだった。水の上に浮いている。


「私のナビを返していただきましょう」


突然現れた洋装をした自分そっくりな人を見て驚く龍宮。


「な…何者だ?!」


「だめ…センセ…逃げなきゃ…」


龍宮の腕の中から立ち上がり龍宮を引っ張るあまね。


「だめですよナビ…どこへ行こうが私から逃げられるはずがない…」


セイは自分の背丈以上ある杖を水につけると波紋が広がり、その幾重もの輪が光り、うねり盛り上がる。水は触手のようにあまねめがけて伸びてゆく。

バシッ!

あまねの手前でその水の触手はさえぎられ、霧散する。


「邪魔は許されませんよ…いくら違う次元での私だとはいえ…」


龍宮は、あまねを自分の後ろに来るようにかばい、次の攻撃に備える。

あまねが傷だらけなので無理は出来ない。

自分にそっくりなこの男、違う次元とはどういうことなのか?


「あまねは身を投げ、あのままほおって置けば死んでいた…あなたはは助けることもしなかったじゃないですか。そのあまねの身体、ナビを生き返らせるために必要なんです。後一歩・・・空っぽになりさえすれば器は完成する。ナビが戻ってくる・・・ナビを・・・渡していただきます!」


杖を前にかざすと光りが放たれた。

あまねは、あたり一面の光りで目が一瞬見えなくなり、だんだんと目が慣れてきたときに目の前に龍宮の顔があり、あまねをかばうように抱きしめているのに気が付く。


「センセ…?」


「あまね…すまない…」


そういうとゆっくりとあまねの身体から滑り落ちるように倒れこむ。

その背中は血まみれで身体の下には血溜りが広がっていく。龍宮の顔からはだんだんと血の気が失われ土けた色に変わってゆく。


「センセ!センセ!!」


あまねはしゃがみこんで龍宮にすがる。


「次元の守人に手向かうことなど出来ません…もう無駄ですよ…」


セイが答えると


「いやぁぁぁぁぁぁ〜〜〜!」


悲鳴のような声を上げその場で気を失う。


あまねの身体は気を失ったとたんに光りを発し、変化を始める。

淡いピンクの龍の姿でもなく大きな翼を持った赤い竜、ドラゴンへと変化する。


「ナビ…待ち望んでいましたよ…帰りましょう…私達の家へと…」


セイはそういうと自分もドラゴンの姿に戻り、赤い竜と共に湖の中へと消えてゆく。


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