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第9話 盗賊たちのアジト

 盗賊たちの遠距離攻撃によって仲間を失った(まだ生きてるけど)俺は、ルリカと2人だけでお嬢様奪還の依頼を続けることにした。


「早速移動したいところだけどこいつらの怪我が心配だな。仕方ない、『女神の滴』を使うか」


「ちょっと! 貴重なポーションを使うの!?」


「……ここで死なれても寝覚めが悪いだろ」


 俺はバッグから小瓶を取り出すと、並べた男たちに少しずつ液体をぶっかける。予想通り火傷も状態異常という扱いのようで、薬がかかった場所の火傷がシュワシュワと治り始めた。


「ああ、勿体ない……! まあでも、こいつらが気絶してくれたおかげで報酬が増えたんだから我慢するか……」


 ……どんな納得の仕方だ。


「よし、とりあえず一瓶分は使い切ったぞ」


 1つのポーションを複数人に分けたので完治とまではいかなかったが、重症だったところは治っている。これでとりあえずは大丈夫のはずだ。


「よし、移動を始めるか」


「移動するって言っても、移動手段が無いわ。馬車は完全に壊れちゃってるし馬はもうダメそうよ」


 彼女の言う通り、馬車は原形をとどめていない。馬車をけん引していた馬たちも先頭にいたせいか炎の直撃を受けてしまったようで可哀想なことになっている。


「大丈夫だ。馬が無ければ作ればいいんだからな」


「え? どういう事?」


 俺はバッグから、もう一つのポーションを取り出した。


*


 俺はルリカと共に盗賊のアジトへと向かっていた。月明かりに照らされ、ボロボロの石壁を判別できるまで近付いてきている。


「ルリカ、ストップ! 突入する前にこの辺りで馬化を解除しよう」


「ぶろろろっ!」


 俺は今、ルリカに騎乗している。持っていた馬化する薬、『ギャロップ・ポーション』を飲ませたからだ。

 最低の男だと非難したければすればいい。答えまでたどり着く道が人道に反するのであれば! 覚悟を決めて獣道を進んでいかなければならないのだから!


「ルリカ、『女神の滴』を使うぞ」


「ぶろろ……はっ! 良かった、私の体! 蹄も消えてる!」


 俺が薬を使うと、しゅわしゅわと煙を上げルリカが人間の姿に戻る。彼女は自分の姿を見ていとおしそうに(さす)っている。


「はあ、最悪だったわ。薬を飲む前に約束したこと、ちゃんと守ってもらうわよ!」


「ありがとう、わかってるよ。報酬はちゃんと9:1にする」


 ルリカをなだめつつ、目の前にそびえたつ城壁を見る。決して大きいとは言えないが侵入には骨が折れそうだな。

 だが、奴らもこっちを全滅させた気になっているはずだ。今はまだ俺たちの存在に気付いていない、メタルギアのように潜入し野蛮な盗賊共をぶちのめしてやる。


「よし、出てこいシルバ!」


 俺は少しでも戦力を増強するために狼を召喚する。ちなみにシルバというのは俺が付けた狼の名前だ。シルバーウルフだとちょっと長いからな。


「グルル……」


「おいおい、怒るなよ。長時間カードに閉じ込めて悪かった、ソーセージ食べるか?」


 秘蔵のソーセージで機嫌を取ると、すぐに尻尾を振って食い付いた。これで戦力は2人と1匹、まさに盤石の態勢と言える。


「それで、どうやって侵入するのよ。当然のごとく門は締まっているわよ」


「ちょっと下がってくれ、『スライム銃』を使おう」


 俺は閉ざされた扉に向かって銃を放つと、予想通りそこがドロドロに溶け始めた。


「あ、あれ? ちゃんと溶けてるはずなのに……貫通しないぞ?」


 扉の命中した部分は確かに溶けている。だが、分厚い扉は何枚も木材を重ねて作られているようで、スライム化したのは直接当たった木の部分だけのようだ。


「くそ、これじゃ通れないな」


「連射すればいいじゃない」


「いや、弾の数には限りがある。他の作戦を考えよう」


「え~。……あ、あそこ見て! 外壁にツタが絡みついているわ。あれを上まで登っていけば侵入できるかも!」


 ルリカは何かに気付いたようだ。確かにそこには壁の上まで緑のツタが生えている。正面突破が無理なら別の所から。潜入の基本だな。


「そうと決まれば早速昇るわよ! ……あ痛っ! 何よこのツタ、根性なしじゃない!」


「……大丈夫か」


 ルリカは早速壁に飛びつくが、ツタは予想以上に貧弱だったようで引きちぎれ、お尻から落下している。ゲームとかならちゃんとするする登れるのにな。


「これもダメか。他に作戦は……」


「いや、私の考えは間違ってないわ! 草が貧弱だって言うなら、こうよ!」


 そう言うと彼女はさっき渡したばっかりの"カメラ"を外壁に向かって放つ。すると、瞬く間にツタ自体が石化を始めた。


「ふふん、どう? 石化させちゃえばツタの壁もロッククライミングに早変わりよ!」


「い、いや、凄いとは思うけど……。こんなところでそれを使ってよかったのか?」


「いざというのは今よ。ちゃんと私の事守ってよね」


「……はいはい」


 武器が無くなった不安はあるが、侵入経路が出来たのは事実だ。俺たちはそこから壁をよじ登ることにした。


「ふう、帰宅部にはこの労働は辛いな……!」


 俺は必死の思いで壁を上りきる。実際は3階建て程度の高さだったのだが、それでも体力が無いため疲れるな。

 だが盗賊たちは完全に油断しているようで、城壁の上にも誰も見張りはいなかった。潜入は成功だな。


「気を付けて進もう。メインの依頼はお嬢様の奪還だから、武器も少ないし戦うのは最小限にしよう」


「そうかもしれないけど、あの炎を飛ばしてきた魔法道具は回収しておくべきよ。あんな強い魔法なら相当な値が付くはずよ」


「……どっちが盗賊かわからないな」


 だけど、ルリカの言葉も一理ある。盗賊があんなものを持ち続けるのは危険だし、何より俺も派手な魔法をぶっ放したい。

 俺の貰った魔法道具、不満があるわけじゃないけどいかんせん地味だよなぁ、やっぱり。炎や雷を出すのにどうしても憧れてしまう。


「ちょっと聞きたいんだが、あの炎の魔法はどれぐらい凄いんだ? 実際他人が使う魔法を見てないから、あの威力が強いか弱いかわからないんだ」


「あれは相当強いわよ。そもそも他人を殺せる規模の魔法道具なんて一般には出回らないの、危険すぎるもの。兵器として運用できる魔法道具は戦争後にすべて破棄されたって聞いてるわ」


「なるほど……。盗賊だしどこからか入手してもおかしくはないか」


 どうやらかなりレアな魔法道具なのは間違いなさそうだ。

 それにしても、戦争か。俺はこの世界の歴史を知らないけれど、かつての日本のようにいろいろあったんだろうか。

 まあその辺は今話すことではない。声で誰かに気付かれるかもしれないし、続きは帰ってからだな。


「何だてめえら!」


「きゃあっ!」


 なんてこった、早速気付かれた。城内の廊下らしき通路を通っていると、突然男が現れ声を上げる。


「くそ、『スライム銃』!」


「うっ! あ、あへぇ……」


 思わず銃をぶっ放すと、男は一瞬でドロドロになる。だが危機が去ったわけでは無く、男の声を聞いてさらに廊下の曲がり角の奥から足音が聞こえてきた。


「ど、どうしようミナト! この廊下一本道で、隠れるところが無いわ!」


「いや、この足音の感じだと少人数だ。今更隠れても無駄だし、角で待伏せしよう」


「ちょっと、私武器持ってないんだけど!」


「俺の後ろに隠れていてくれ、この銃で何とかする」


 俺は角の所で息をひそめ、盗賊共が近づいてくるのを待つことにした。


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